Story Reader / Affection / ノアン·逆旅·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ノアン·逆旅·その4

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――3日後

ノアンは数人の客を見送ったあと、バーカウンターでグラスを洗っていた

カップの中に水が流れ、パシャパシャと雨のような音を立てている。その音を聞きながら、彼はぼんやりと洗う手を止めた

空中庭園にきてしばらくが経つ。シーモンはいつも、科学理事会に積極的に協力することこそが皆の支えになると言うが、ノアンはずっと地上の戦況が気になっていた

…………

ここで考えていたってどうにもならない。彼が水道の蛇口を閉めて洗いかけのコーヒースプーンをカップの中に入れると、金属のスプーンがカップに触れ、鋭い音が響いた

この音は……

まだ人間だった頃、ノアンが軒下で雨宿りをしていた時、こんな音で構成されたメロディを聞いたことがある

あちこちを放浪するスカベンジャーは通常、荷物になる楽器を持ち歩かない。だが、コップや碗を使って、雨水と戯れ、シンプルな音楽を奏でることはどこでもできる

その音に特別な親近感を覚えたためか、彼の思考は遥か遠くまで漂っていった

……今、地上はどうなってるんだろう。他の小隊みたいに、任務で行けたらいいんだけど

果てしなく続く思いに熱を込めるかのように、彼はスプーンを手に取ると、シンクのカップを優しく叩いた。軽やかなメロディが辺りに響く

その時、背後から足音が聞こえてきた

……ようこそ

我に返って、訪問客の方に振り返ると、見慣れた姿がそこにあった

こんにちは、指揮官

本を探しに?それとも一杯いかが?

……カップを洗っていて、急に昔に習った歌を思い出したんだ

つまらない話だよ、聞きたい?

いいよ

ノアンは微笑みながらカップを手にして順番に並べると、マドラーを2本選び出した

……小さい頃に、母が歌ってくれた子守唄だよ

彼は小さな声で優しい歌をそっと口ずさみ、そして、カップを往復するようにしてシンプルかつ流暢にメロディを奏でた

その調べはしめやかに流れ落ちる水滴のようで、雨の夜、屋根のある場所に特有の静けさをまとっていた

カップを使ってこの曲を演奏するようになったのは、ずいぶん後になってからなんだけどね

その時、僕の小隊に、雨が降ると眠れなくなる子がいたんだ

これは、彼の父親が彼を寝かしつける方法だったらしい。僕は夜警しながらその子と話をしている内に、カップを使って曲が演奏できるようになった

その後、その父親は「授業料」の代わりだと言って、楽な子供の寝かしつけ作業を僕の担当にしてくれた

ノアンはそそくさとコップを洗い、消毒装置の中に入れると、手を拭きながらこちらに歩いてきた

ね、たいした話じゃないだろ

こんな話が?

そうかもね。地上に残った人たちは苦しみの中に楽しみを見出すことに慣れているから

これから予定はある?図書館でちょっと休むのはどうかな?

そうか、それは仕方ないね

そう言った人間の指揮官の疲れた顔を見て、呆れて笑いが出た

そうだね、いいよ

ノアンは振り向いて、その瞳を真剣に見つめた

視力という点では、構造体には眼鏡は必要ないよ

小さい時からずっと眼鏡とゴーグルを着けてたから、外すと逆に過去の……よく目が見えなかった時のことを思い出してしまうんだ

そうだね、怪我した時か改造された時になくしたんだと思う

目覚めたら、数年前に使っていたこの眼鏡しかなかった。眼鏡を着けないと落ち着かないからかけてる

アシモフさんも見慣れた姿でいる方が意識海の安定につながるだろうと、これを着けさせてくれたんだ

前と同じだよ。実験や検査に協力したり、訓練室で訓練したり

彼は身を屈めて、バーカウンターの下から綺麗なコップを取り出し、新しい飲み物を作り始めた

そうやって時々、ここに来るんだ

いや、食事する必要がない構造体が飲むのは、無駄になるからね。でも練習した時に、ここのサービスロボットに味をチェックしてもらったよ

あれは食べた。美味しかったよ、ありがとう

そうだね、バロメッツ小隊に任務がくるまで、このままここにいるだろうな

もちろん

僕が空中庭園に来る前より、地上の状況はかなり深刻になっているだろうし、外の人たちやオブリビオンはどうしているんだろう

手伝いに行きたいけど、昇格者絡みのトラブルに巻き込んでしまう心配がある

…………

――こんな風に屈託なく、誰かに自分の日々の暮らしや希望を語るのはいつぶりだろう?

仲間とともに互いに信頼し合い、助け合ったあの日々がありありと甦り、彼は目を伏せると微笑みながらもため息をついた

それより君は?最近はちゃんと休んでる?

答えはわかりきっていたが、彼はあえてそう質問した

それは無理に話題を変えようとしたのではなく、相手が自らのことを話したいかどうかを問うた行為だった

ノアン

そうか

彼はそれについてそう言っただけで、それ以上の言葉はなかった

シーモンの言う通り、過度に誰かを心配することはその人物に不信感を与えてしまう。まして、彼は目の前のこの人間のことをほとんど知らないのだ

ここにいるこの指揮官は本当に万事順調だと思っているのか、それとも何かがあっても人には話したくないのか。彼はそこまで立ち入って訊く立場にはない

ふたりはそのまま、静かに流れる時間の中でただ黙って、何も語らなかった

医者に診てもらった?

スーパーマンだって休息は必要だよ。ひとりで全てを背負う必要はないんだし

心配?

最近の一連の出来事は、精神的にも本当に辛かっただろうね。気持ちはわかるよ

でもどんなに辛くても、こんな風に自分を痛めつけることで、失われた何かを埋めようとするのはよくないんじゃないかな

グレイレイヴンの皆もシーモン指揮官も……とても心配してる

もし彼らをもっと信じて心の重荷を打ち明けたら、皆はきっと喜んで力になってくれるはずだよ

少なくともシーモン指揮官はそう思ってるし

…………

この質問に対して、ノアンは予想外だという表情を見せた

僕のことが気になるの?

彼は少しうつむいて笑った

もちろん。僕を信じてくれるなら、僕と分かち合ってくれるなら、喜んで力になるよ