Story Reader / Affection / ハカマ·隠星·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ハカマ·隠星·その2

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――1号再建保全エリアまで、2kmの地点

灰色の空に雲の空洞があり、そこから微かな光が滲むようにして、高いビルの上を照らした

風は建物を通りすぎ、少女の服の裾を舞い上がらせている

彼女は壊れた柵のついたベランダの端ギリギリに立っていた。そこは、鳥が降り立つ場所だった

古風なデザインの帽子を被った少女はかなり目立っている。淡い金色の瞳が遠くをじっと見つめていた

理論上では、バランス保持のパーツに問題が発生しなければ、彼女は鉄筋が腐るまででもその場に立っていられるだろう

さまざまな色の金属によって構成された細く美しい体は、最も強靭な肉体をも凌ぐ強さを秘めている

なぜあんなところにじっと立っているのだろう?

まるで孤高の白鳥のようだ。落ちないように必死に耐え、自身の限界に挑戦しているように見える

放っておくのはためらわれたが、前回の経験をふまえ、敵意を抱いていると誤解されないよう慎重になった方がいいだろう

両手を広げて、体の前に出し、ゆっくりと慎重に近づいた

彼女がこちらを振り向いた。彼女の瞳はいつも通り、静かな湖のように澄んでいる

「ベランダで風にあたって、遠くを見つめる」記述の実行中です

ここは建物の隙間があるので、計算上、最適な場所と判断しました

何かご提案でも?

……

思考を整理してみる。自分がここにきたのは、空からの落下物をかわした際に、ここにいるはずのない構造体の姿を見たからだった

あやうく金属の柵に押し潰されて重傷を負った執行部隊の指揮官として、記録に残るところだった

……私は戦力偵察を目的として派遣されました。現在は整備段階です

その金属の柵ですが

計算結果では、それがあったのは「ベランダで風に当たる」実験に最適な箇所でした。そのため排除しました

少女は風に舞い上げられたこめかみの髪の毛を軽く抑えながら、本の置き場所を説明するような軽い口調で話した

日記の記録では、ベランダで風に当たると、困惑の解消が容易だそうです

日記に関する困惑です

少女は綺麗に束ねられたノートの束を持ち上げた

私が1日に回収可能な限界量です。総合評価は「情報不足」と解析しました

この日記は情報が不足しています。より詳しい記録の必要が生じています

より詳しい記録?

俗称「日記」には、行動主の1日の全記録を含む必要があります

――嫌な予感がした

例示します……行動記録、思考記録、視覚記録、聴覚記録、嗅覚記録……

触覚記録、感情シミュレーション記録、機体状況記録

戦闘記録、武器のメンテナンス記録、損傷記録……

少女は息継ぎを経ずに一定の速度で言葉を羅列していく。空中庭園で今も述べられているであろう形式的な報告よりも大仰だった

「息継ぎが必要ないのはいいことですね。一気に読み上げるのは気持ちいい――某構造体」

ただ、ここで彼女を止めなければ、意識海が偏移してしまいそうだ

……

順番に問題が発生しましたか?あるいは情報の欠損でも?

重要、ですか?

今述べたデータが、最優先事項だと解析しています

……自分自身の状況よりも重要なデータです

……

「10月21日、今日は少し胃が痛いので、胃薬を飲んだ……」

身体のエラー報告とメンテナンス経緯です

少女は押し黙った

まだ試行の余地があるようだ。もっと直接的な方法がいいだろう。文字が難しいのなら……

絵?

描くのは1枚のみなのですか?

理解しました。絵で全データを記録するのを防止するためですね

実験の可能性を演算……成功率は高いです。過去の視覚記録は記憶メモリーに保存済です。人類に近づくため、追加記録は最善策であると分析されます

24時間の視覚映像記録?保全エリアの構造体たちには、こんな機能まで実装されているのか……

ただ、単独行動の構造体にしては、警戒が少し緩すぎないだろうか

心拍数と口調速度に異常がありません。先ほどの発言が虚偽である可能性は非常に低いと判断します

更に、ご提案の実行性は極めて高いものです。真偽は問題ではないと分析しました

必要を認めません。保存データの分析によると、あなたは脅威的な存在ではありません

視線が交わった。出会った時、瞬時に自分を捉えた光景を思い出した

光の加減かもしれない――微動だにしない表情に小さく笑みが浮かんだように見えた

微笑む……こういう場合、笑顔をするべきだというご提案ですか?

……今はそこにこだわっている場合ではない

状況を確認できたことだし、そろそろ任務に戻らなくては

すでに物資の空輸が始まっている。近くの保全エリアに自力で運べる分を持って帰る必要があった

もう行かれますか?

次回?再会する確率ですが今回の1.4%から0.12%まで低下しています。ほぼゼロの近似値です

補足する内容がある場合は、今、伝達することを要求いたします

彼女の言葉は、なぜこんなにも断片的なのだろう……

ハカマ

ハカマ……簡潔な返答が返ってきた。彼女の名は、記憶の中のいかなるリストにも存在しない

上層部は新しい構造体隊員を派遣することで、飢餓問題に直面している保全エリアを絶望の淵から救い出そうとしているのかもしれない

奇跡?定義上、極めて低い確率で起こる事象のことですか?

こんな話をしたのは、救援成功の報告書の、失血するかのような赤い数字の低さのせいかもしれなかった。ただ、この少女にその事態を額面通りに受け取ってほしくはなかった

認知に意図的な一方向性があります。奇跡とは、単なる事後の通称です

訂正を要求します。今回の再会の確率は1.4%、これは人間の一般的な定義上の奇跡には該当しません

重複して奇跡の存在を認めさせようとする理由は何ですか?

……

ハカマはその人物の後ろ姿を見つめた

「行動の目的が希望にそっていないなら、主張そのものが最初から間違っていたとわかるはず」

思考が一足先に結論を出した。しかしそれは、ハカマにはどうしても伝えられない内容だった

もし構造体なのだったら、それに同意しているかもしれない。すでに機械に改造されてはいても、構造体は人類と同じ種類のゴースト――魂を持っているからだ

だから、構造体は教会には受け入れられない

昔も今も、機械が過ちを犯すことはありません

その言葉を耳にした者はいなかった。あの人物はすでに手を振って別れを告げ、廊下の奥へと消えていたからだ

ずっと、その曲がり角を見つめていた。風が吹いて、紙がぱらぱらと音を立てた

そろそろいかないと……

絵。新しく準備が必要です

夜になり、大地が静まり返った。拠点に戻ったハカマは画用紙を取り出して、キャンバスの上に広げた

白い世界が、少しずつ色と線で埋められていく

その中央に、ひとりの人間がいた。小さい後ろ姿が描かれている

これは、数年を経て、ハカマが描いた最初の絵だった