Story Reader / Affection / ハカマ·隠星·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ハカマ·隠星·その1

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徐々に荒廃していく街の中、ひっそりとたたずむ民家が辛うじて少し過去の姿を保っていた

高いビルの陰、小さな隙間に隠れるようにして、パニシングの侵蝕から逃れたのだろう

燃え盛る炎も刀の衝突音もない。ただ時間だけがすぎていった

装置のスキャン結果によると……この周辺に5つの異常動作反応があります

その反応は僕たちですね……再チェックしましたが、どうやら味方を識別する機能が完全に故障しているようです

この一帯を侵蝕体の群れが通った形跡はないのに、どうして……

保全エリアがなぜあの侵蝕体の大群に狙われたのかはわかりませんが、最後の地下防衛線を除き、この地域はズタズタにされてこの状態です

だから僕たちがここの支援に派遣されたというわけですか……指揮官、今からビルの最上階に偵察装置を配置してきます

たとえ近くに敵がいなくても、私たちからあまり離れないでくださいね

一緒に支援にきた工兵部隊の隊員とともに、グレイレイヴンはそれぞれの作業に取りかかった

今自分に手伝えることがないので、周囲を観察できる高い場所を探すことにした

道路に沿って残された建物の間を歩いていると、ある建物が目に入った

その建物は中心部から離れた場所にあるせいか、外見は綺麗なままだ

中に入ってみると、ホールは外観から予想した通りの状態だった

乱された形跡はなく、ただ静かに荒廃していったという風情だ

静かなまま終わりに近づいている――時間とともに積もる塵に隠れて、この世から忘れられていく

剥がれ落ちそうな壁には、かつてそこを彩ったであろう豊かな色彩が残っていた

すぐ側にある部屋のドアノブが目に留まった。そこは、積もった塵が一部拭き取られている

それはドアノブが回されたことを意味する。侵蝕体の仕業ではない

銃の引き金に手をかけ、もう片方の手をドアノブにそっと置いた

ふぅ――ふぅ――ふぅ……

……

微かに植物の香りが漂った。風の吹く方に顔を向けると、青空が見えた

そこから、木が光の中で揺れているのが目に入った

剥がれ落ちた壁、伸び放題の植物、散乱した紙、古いノート

明るい光が部屋の中に差し込み、きらきらと輝く髪を照らし出す

そよ風がそっと触れたせいで、花びらが舞い上がる

ある銀色の人物が椅子にもたれて、静かに目を閉じていた

まるで広い世界の片隅で、静寂の中に――憧憬の過去を保っているようだった

目を刺すような荒廃した部屋は、彼女の存在によって、その全てを優しさにくるんでいる

自分がそっと近づいても、相手には何の反応もない。まるで永遠の眠りについているかのように

確認しようと、彼女に近づいた。静けさの中で、呼吸音だけが周囲に響き渡り、空気に波紋を広げている

指先がその冷たい肩に触れると、すべすべとした顔が傾き――

――薄い金色の瞳が視界に入った

湖のように澄んだ瞳と見つめ合った瞬間――

こちらが反応する前に、腕を強く掴まれた

同時に、少女の手が自分の首に当てられた

停止していたのではなく、休眠状態だったのだ。だから異常動作のスキャンに引っかからなかったのだろう

これまで、構造体がスリープモードでここまで防御機能を解除するのを見たことはなかった。まるでシステムが遮断されたように、周囲の変化に一切反応していない

すると、腕をつかんでいる手に力が込められた。この状態では、たとえボブ·マンデンの生まれ変わりでも、発砲と同時に一発で相手を仕留めることはできないだろう

……

その綺麗な顔はまるで展示品のように、少しも変化しない

この至近距離では、戦闘モード中の構造体の視覚システムは、どんな些細な動きも見逃さないだろう

しかし相手に自分をすぐさま天国に送ろうとする気配はない。ということは……

必死に腕章を指差して、自分は空中庭園からきた者で、パーツ解体を目論むスカベンジャーではない、と意思表示した

……

少女はつかんでいた腕を放し、前屈みだった体勢を元に戻した

今あった全ての事象が太陽の光で昇華されたかのように、敵意のない少女だけがそこに残され、見知らぬ人とたわいのない会話をしている

服装からすると、少女は近くの保全エリアの構造体のようだ

人類のように「睡眠中」に見えましたか?

少女はそれ以上、こちらに質問しようとはせず、1枚の紙を拾い上げた

まだ改善の余地があると解析します……

手順の詳細説明が不足しています……

少女は小さな声で囁いた。何かの実験のフィードバックをしているようだ

人類の「睡眠」がどのように行われるのかを分析しています

少女は丁寧に紙を整理すると、机の上で少し動きを止めた

スターオブライフのスタッフから聞いたことがある。人間は構造体手術を受けてからしばらくすると、一定の確率で特殊な違和感を感じるらしい

それは機械の体やハードウェアに問題があるせいではない。被改造者が血肉を失い、生というものの概念が完全に覆ったために起こる認知の分断が原因だ

被改造者が精神的に適応できないと、一部の頑なな者は新しい自分を受け入れられない。人間だった時の行動を模倣するのも、それによる現象のひとつだ

現在の状況から考えて、どうやら目の前の少女が行っているのはそういった類の行動らしい

「日記」という名称の活動記録です

ただ情報が選別された痕跡があり、記録は不完全です。詳細が不足しているので、概要という名称がよりふさわしいかと

つまり復元作業が極めて困難です。分析では推測を実行するには変数が多すぎると出ています

日記は覚書きのようなものだから、日々の行動を詳しく書かなくてはいけない訳じゃない……

ただ人間の行動の真似をしたいだけなら、記録そのものを模倣するよりも、もっと直接的な方法があるのでは?

日記を……書く?

構造体の電子パーツの中に保存されたデータとは異なり、人間の記憶は徐々に曖昧になっていく。記憶の喪失を自在にコントロールするのは不可能だ

だから重要な出来事を記録して留めておくのは、人間にとって不可欠でもあり、自らの持つ先天的な欠陥を補う行為ともいえた

もう一度?ええ、そうですね

演算の結果、当該方法の成功率が最も高かったので

無理に日記の内容を再現しようとするよりも、残しておきたい記憶を選んで、自ら記録してみるのもいいだろう

ここで少し考えてみた。記憶を選択してまとめて考える――日記の意義は単なる記録という行為だけにはとどまらないことに気づいた

少女はノートを開き、行動に移そうとしている

だがそれ以前に、保全エリアの構造体が単独行動しているということは、それはつまり……

ルシア

指揮官、今どちらですか?

通信機から発せられたルシアの声で思考が中断された

慌てて部屋の外に出る

設置作業が終わりました。新たに編成された偵察小隊から、不可解な未侵蝕機械体の存在を検知したとの報告がありました

地上の臨時司令部から、すでに作戦指令が出ています。これから調査に赴かなくてはいけません

集合場所を確認し、再び部屋に戻ると、すでにあの銀色の人物の姿はなかった。そこにあったノートと紙も消えている

彼女がいなくなったことで、部屋の中の時間が再び流れ始めた。先ほどまでの会話がまるで幻のようだ。部屋はただ過去の記憶を留めているだけの空間と化していた

保全エリアに駐屯している構造体――また会う機会があるかもしれない