Story Reader / Affection / ハカマ·隠星·その6 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ハカマ·隠星·その3

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――2号再建保全エリアまで、2.7kmの地点

それは、崩壊した建物の中に隠された小さな道だった

頭上には、たくさんの残骸が隙間を埋めるようにして積み重なっている

時々、隙間を縫って、太陽の光が差し込んでくる。足下が暗くなったり明るくなったりしていた

……

ふたりは前後して歩いている

作戦ルートに30分以上の重複を検知しました。質問です。これはストーカー、付きまとい行為とみなしていいですか?

……

その足を止めることはなかった。視野の広さからすると、人間より身体機能が優れている構造体が前を歩くのは合理的な選択といえる

ただ、ここは偵察部隊に「通信地獄」と呼ばれる「スカベンジャー小道」だ

保全エリアの近くに動作探知装置を設置するだけなので、地上の道を通る必要はない

そのため、空中庭園の提案により、グレイレイヴンやその他の隊員を人手不足の拠点に派遣したあと、単身この長い道へと入っていた

そこで予想外にもハカマと遭遇したのだ。彼女は極秘の特殊任務中なのだろうか?だが、おいそれとは訊けないでいた

信用の前提は根拠と定義されています。理論と判断に基づいた主観的な認識……

ハカマは突然、話をやめると、振り向いて暗い隅の方を見つめた

そして静かに歩み寄り、しゃがみ込んだ

そこには、残骸の中に咲く1本の百合の花があった

隙間から差し込む光を頼りに、死の淵で懸命に生きている

その百合は蕾を作り、まだ生を諦めてはいない。だが、力ないその姿からすると、その生命の1秒1秒は、死神の慈悲がもたらしているのかもしれなかった

灰色と黒に構成された世界。「死骸」が積み上げられた舞台。瀕死の主役は、ライトの下で散りゆく最終章を演じている

廃墟全体が、その不屈の姿を呑み尽くすエンディングを、今か今かと待っていた

……

しばらく沈黙して、ハカマは突然立ち上がった

遅すぎました

残念そうな口調でつぶやいた。もしくは、ある種の宣告のようだった

有効な救助プランを検索できません

本当に?

状況は最悪だけど、挽回できなくはない

茎の損傷が酷く、土壌の水分が不足しています

植え替えの条件に適した場所も付近にありません。このエリアは生存条件を満たさない上、生存時間はもう限界値と推測します

軽く振って目盛を確認すると、だいたい300mlくらいの飲用水が残っていた

それからテスト装置を包むための保護フィルムを取り出し、ゆるく筒状に巻く

温度と水分を保ってやれば……

上方を確認した。光が差し込む隙間も、まだ「改造」の余地がある

倒れた柱の上に立ち、目印用の蛍光棒を取り出して、その片端を握りつぶし、いつも身に着けている短刀の先端に液体を注いだ

光の差す方向を参考にして、昼夜の変化を考慮して大きさを計算し、短刀の先で描いた

爆薬を持っているが、今は使えない。このか弱い命が衝撃で粉々になってしまう

銃では、たとえ跳弾を考慮しなくても、コンクリートに正確に穴を開けることはできない

軍用ナイフはいうまでもない。長い時間を要してここに穴が開く頃には、他の花の芽がたくさん出ているだろう

どうしたって太陽光の問題を解決できないのだ

その方法を試しても、この百合が開花時期まで生き残れる確率はわずか1%にすぎません

暴風、嵐、虫害、建物の更なる倒壊、野生動物にいじられる……

通りすがりのスカベンジャーのマントに擦られただけでも、この百合はすぐに枯れてしまうだろう

奇跡、それが起こる確率はわずか1%です。理解できません

壁に囲まれた場所を叩いてみた

……お断りします

4時方向の突出エリア、右側の一番奥の板付近が倒壊する可能性があります。そのため、現在の要求についてはお断りします

下がってください

「ドォォン――ッ」

刃物で硬いものを切りつける鋭い音が鳴り響いた。続いてすぐに、重い物が地面に落下してぶつかる音がした

目の前の塵を払いのけると、降り注ぐ光が視界を満たした

この状態でいいですか?

片手で太陽のまぶしい光を遮り、もう片方の手で埃まみれになった外側のフィルムを開いた

まだ光に慣れていない目で、光に照らされたか弱い存在が無傷なのを確認して、ようやく一息ついた

……

ハカマは崩れ落ちた残骸の中に佇み、自らが開けた穴から、荒廃した世界を見上げた

紛れもなく、この「スカベンジャー小道」から一歩外に出れば、更に悲惨な状況に直面するだろう

奇跡と呼ばれるものは、どこであろうと、のべつまくなしに起こるものではない

この植物の死亡率は99%以上であり、200通り以上の枯れ方が予測される

視覚センサーが捉えると同時に、機械的な演算によって、リアルな結末がハカマに提示された

機械が過ちを起こすことはありません……

ハカマは振り向いて、再びその百合を見た。しかし今、視界に入ったのは、機械が予測したものとはまるで違う光景だった

垂れ下がる蕾を風が抱きかかえ、憂いを払うように光が徐々に集まってきていた

美しい、凛とした、清らかな……いかなる言葉も、この目の前の植物を的確に言い表せない

しかし、どうしてか――その懸命な姿が現実と重なり、未来を想像させた

図鑑の写真のように、風に揺られながら真っ白な花びらを広げ、思う存分に太陽の光を浴びて輝いている

……

2層目のフィルムに保持された液体が、過剰に下層部に浸透しています

観測した結果、片側が傾いているせいで、その落差が大きくなっているようだ。少し調整すれば……

調整完了です

0.0714%……0.0717%……0.07184%……数値が……上昇している?

変化が起こる度に、生存の可能性がわずかながらも上昇している

ほんの誤差、微々たる増幅だけれど

ふたりがそこにいる間、計算値が0.08%以上になることはなかった

再会する確率と、それが徐々に重なる

夜が訪れ、光を失った街から賑やかさが消えた。ハカマはひとりでキャンバスの前に座った

思慮深く、疑問を呈し、自称最も優れた芸術家であるという者でも、このキャンバスにある中央の空白を埋めるための、効果的なアイデアを出すのは難しかった

キャンバスに描かれているのは、2つの異なる手によって包まれた花の茎だ

ハカマは、その茎の最上部に何を描けばいいのかが、まだわからない

「あなたが描く絵の中で、百合はどんな風に咲いている?」

……

筆先をキャンバスに当て、ハカマはゆっくりと目を閉じた……

朝、窓から差し込んでくる初々しい陽の光

部屋をぐるりと回って全体を照らしたあと、光はある絵の上に集まった

その絵の中央、朝日を浴びて燦燦と輝く、満開の白い百合があった