夜市の賑やかさとはうって変わって、昼間の夜航船はどこか物寂しい。往来は2、3人の通行人と、数人の商人が行き交う程度だ
朝食店を経営する老人があくびをしながら、ゆっくりと白粥の鍋をかき混ぜている。ほのかな米の香りが霧に運ばれ、訪ねる人の鼻先をくすぐっていた
ストライクホークのカムイから、夜航船はとても賑やかだと聞きましたが、この様子は想像と違いますね
夜航船は夜が最も賑やかだとは聞いていたが、今はあまりにも静かで、驚きとともに疑問さえ覚えるほどだった
皆さん、空中庭園から来られた方々ですよね?
馴染みのある声を聞いて、同行している構造体たちも、すぐに声がする方に視線を向けた
いきなり十数人に注目されても、その少女はまったく動じなかった
おはようございます、朝食はもう済みましたか?
そしていきなり、突拍子もない挨拶をした
?
その場の空気が少し固まり、まるで兎が誤って池の中に飛び込んだようだ。人々は気まずさに包まれ、誰も口を開けなかった。遠くで鴉の鳴き声が虚しく響く
その時、記憶の隅にあることが浮かんだ。それは出発前に調べていたことだった。こういう時の正解は……
?
同行するエンジニアリング部隊も困惑しながら、ほとんどの構造体は食事をする習慣がないにもかかわらず、真似て蒲牢に同じような返答をした
ふぅ~
皆さんのご協力を得られることに感謝します。贔屓は作業現場で待機してますので、ここから先は私、蒲牢が案内させていただきますね
同時に、本日の警備も私が担当させていただきます
少女はわずかに身をよじって、どうぞという仕草をし、緊張で強張った顔を少し緩めてみせた
あ、先にこっちを言うべきだった……
九龍へようこそ、エンジニアリング部隊の皆さん
そして指揮官[player name]、お久しぶりです
さなぎゼリーの缶詰、1缶1蜉蝣銭だよ~
超長持ち!無侵蝕の酸素ボンベだ!1本買ったらオマケで3本ついてくる!1本買ったら3本ついてくるよー!
もう酸素ボンベなんか売れるかよ、寄港してからこっち、そんなものが必要な人なんかいないのに
お前には関係ない、こんないいものが売れない訳がないんだよ。超長持ち!無侵蝕の酸素ボンベだ!1本買ったらオマケでもう4本!1本買ったら4本ついてくるよ!
えぇ、なんだよそのいきなりの値下げ。おい、さなぎゼリーの缶詰と交換してくれないか?
けっ、あっちいけ、お前の缶詰なんかもう数十年以上前のものだろ。その腐った臭い!誰が交換なんかするもんか!
3缶で2本……いや……1本!
へへへ、そちらのお客さんは何本ご入用ですか?
そのやりとりを聞いて、さなぎゼリーの缶詰を買おうとした気持ちが消えた。一帯には、床に座り込んで店開きをする者が大勢いた。かなり遠くにまで店が並んでいる
まだ客は少なく、皆の顔には徹夜明けの疲労がにじんでいる。しかし、太陽の光がそれぞれの顔を照らすと、人々に笑いながらじゃれ合う活力が蘇ってきた
なぜ自分たちは作業現場ではなくここにいるのだろう……
「専門家以外は現場に留まるべきではありません。作業の邪魔です」
まさかこんな理由で贔屓に追い出されるとは。確かに蒲牢は図面とか、作業の細かいことはよくわからないですけど
指揮官、悪く思わないでくださいね。贔屓は、作業中のアクシデントで指揮官に万が一でも怪我をさせてはいけないと、そう思ったがゆえのことなので
指揮官ならきっとわかってくれると思いました!
やっぱり、彼らも同じことを心配していたんですね
少女は目を大きくしばたたかせた。これは予想外の返答だったようだ
この間に、指揮官にこの夜航船を案内しますね。この前助けてもらったことのお礼に
指揮官、どこか行きたい場所はありますか?それとも蒲牢お任せコースにしますか?
西区はゲームや屋台、洋服、書道や絵のお店が集まっています。東区は演劇が観れます。ホログラフでも本物の人間が演じるのでも。実は蒲牢はあまり好きじゃないんですけど
中央区は昔はセリ市場でした。でも今はもうなくなって、一部の住民の居住エリアです。これといって見るものはありませんけど、もし見たいなら案内しますよ
指揮官はどこに行きたいですか?
はい、お任せください!
じゃあ、まずここを見学しましょう。夜ほどではないですけど、面白い屋台とお店があるんですよ
残念なのは蒸しパンを売るお爺さんが九龍に引っ越してしまったことです。ぜひ指揮官に食べてもらいたかったなぁ
はい、寄港したあとに。夜航船の人々は徐々に九龍に引っ越していきました。穏やかな故郷に戻ることは多くの人の宿願でしたから。でも、船に残った人もいます
蒲牢が船の状況を紹介していると、慌ただしい足音が聞こえてきた。声がする方を見ると、先ほどまで店を開いていた露天商たちが慌ただしく品物を片づけていた
彼らはこちらをひと目見て、目が合う前に頭をさっと下げ、そそくさと遠くへ立ち去っていった
……
蒲牢はいつの間にか話をやめ、ふたりの露天商が逃げるように去るのを一緒に見ていた。悲しそうな目をした少女の佇まいは、まるで羽を雨に濡らした鶯のようだ
え?
ごめんなさい、指揮官、ちょっとぼんやりしてました
……実は、ほとんどの人が彼らみたいに、蒲牢を見たら逃げるんです。どうやら私、嫌われているみたいで……
……龍の子だからなのかな。いくら説明しても皆にとっては、龍の子はかつての偽首領の共犯者なんだろうと思います
でも指揮官、心配しないでくださいね。ここから先、退屈しませんから。ほとんどのお店は蒲牢と話さないだけで、あえて避けたりはしないんです
蒲牢はこちらを安心させようと、きゅっと口角を上げ、強がった笑顔を見せている。その口調といい、少し大人っぽくなったようだ
ううっ……
指揮官?
……
うん!蒲牢もそう信じています。九龍の中には至尊禄存といい関係の人だっているんです。指揮官も隊員たちとまずお互いを知ってから、仲良くなったんでしょう?
だから、指揮官……
少女はつま先立ちをすると、知らない内にしかめていた眉根を指でぐいと広げてきた
もうそんなに眉をひそめないでください
別の場所を案内しますね。ここの人たちは、この制服を見たら、皆逃げ出しちゃいますから
蒲牢の話で思いついたことがあった。辺りを見回して、少し離れたところに目標を見つけた
これから指揮官を蒲牢がよく行くお店に連れていき……ってちょっと、指揮官、蒲牢をどこに連れていくつもりですか?