Story Reader / Affection / セレーナ·希声·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

セレーナ·希声·その4

>

輸送機がゆっくりと離陸する

アレンの迎えで空中庭園に戻ったセレーナは、すぐに科学理事会へ連れていかれ、精密検査を受けることになった

ちょうど検査報告が端末に届いた時、アシモフが慌ててやってきた

彼女が今使っている機体は破損が激しい。コアと意識海以外は、以前の機体のものじゃない

それ以外は……機体というより、赤潮で構築した特殊な造物とでもいうべきものだ

ああ。空中庭園の現在の技術では、あの機体を修復するのは無理だ。それに、あの機体を今後も使う前提で修復するのは推奨できない

彼女の状況と、カムとノアンの状況は違う

カムの機体はパニシングに耐えられるが消耗が激しく、定期的に意識をカムイの機体に伝送する必要があった。ノアンの機体は、ただ昇格者に改造されただけ……

検査報告書をめくりながら、アシモフは思案に暮れた

……ないこともないが、かなりリスキーだ

セレーナの意識海は「構造体」と繋がっている。意識海の完全性を保ちつつ、現在の機体の「構造体」のパーツを別の機体に移植させれば……

幻奏機体は構造体のために作られたものだ。授格者の意識海に適応するには改造しなければならない

しかし、前例がない。だからかなりリスクが高いんだ

もし今の「機体」を維持するとしたら?

今の機体はほぼ破損している。赤潮で構成された「部品」のお陰で、なんとか動いているだけだ

彼女が浄化塔の外を放浪するなら、この機体で問題ない。だが、パニシング濃度が低いエリアに入ると衰弱していく……今がそうだ

アシモフは、自分とアレンに隔離室のセレーナの様子を見るように促した。そして、再び眉間に皺を寄せながら報告書をめくった

隔離室の中で、セレーナは青白い顔をして、両腕は力なく垂れ下がっていた

……

でも、彼女は……もう十分長い間彷徨ってきた

明らかに、誰もそのような結果は望んでいない

機体を交換するなら、すぐに取りかかった方がいい。新しい機体の準備に時間がかかる。今の彼女は、そんなに長く持ちこたえられない

……リスクが高いのなら……

アレンは眉をひそめ、決断できずにいた

……

彼は一歩下がって、自分がセレーナに通信するのを黙認した

……[player name]?

衰弱しながらも、セレーナは微笑んだ

機体に何か問題がありましたか?

アレンの心配そうな顔に気付き、セレーナは小声で訊ねた

ある程度、状況はわかっているはずだ。あんたのこの「機体」は、意識海とコア以外、全て赤潮で構成されている

改造案はひとつ。空中庭園に残っている、あんたに適応する幻奏機体を改造し、この機体からまだ健全な意識海とコアを移植する

あの機体は、私のような「授格者」にも適応するのですか?

空中庭園に戻って以来、彼女は自分のような「構造体」を、科学理事会の人々が何と呼ぶか知っていた

リスクは移植の過程だけだ。だが前例がないから、100%成功するという保証はない

科学理事会の授格者に関する研究から推測すると、移植さえ成功すれば他に大きな問題はないだろう

交換後は消耗した部品を定期的に交換すれば、重篤汚染区域でも自由に行動できる

……

機体を交換しないという選択肢もある。だが、浄化塔内の保全エリアや空中庭園に長時間留まることはできなくなる。それに変異が進めば侵蝕体になるかもしれない

あんたには……あと1時間20分、考える時間がある。それ以上は、あんたはここでは耐えられない

機体を交換してください

だが失敗したら、恐らく……

アレンは焦った様子でふたりの会話に割って入った

フローラへの敬意からも、芸術協会のメンバーを守るためにも、彼はセレーナにリスクを冒してほしくなかった

会長の気持ちはわかります

それでも機体の交換を望みます。できることがあるなら、私は……全て受け入れます

侵蝕体になるリスクを冒してまで生きることに、何の意味があるのでしょう?これ以上、皆に迷惑をかけたくありません

やっと記憶を取り戻し、過去と未来を見ることができたんです

私は……私として生き続けます。もう二度と、仲間の重荷になりたくないんです

光を見た者は、もう闇の中に留まることはできない

楽観的な想像でも、無邪気な盲従でもない。嵐と試練をくぐり、闇と深淵を歩んできたあとだからこそ、彼女は即座に答えを出したのだ

彼女のその覚悟に敬意を払うべきだ

とにかく、これ以上考える時間は必要ありません

アシモフさん、今すぐにでも機体交換を始めてください

セレーナの強い意志に驚きながらも、アシモフは頷き、すぐに幻奏機体の改造に着手した。アレンは芸術協会に戻り、セレーナの新機体の共同開発申請を進めた

[player name]……

隔離室の中で、セレーナは端末を握りしめ、小さな声で呼びかけた

前に、あなたが私に言ってくれた言葉を覚えていますか?

そうです

あなたの言葉は……私が空白の迷宮を彷徨い、今に至るまでの希望でした

彼女は小さく咳払いし、アヤメ色の瞳で隔離室の外にいる自分を窓越しに優しく見つめた

「――アイリス」

芸術は人間性を守るための一番穏やかな手段です

今の自分を疑ってもいいけど

全てを否定することはない

どんなに苦しめられても

あなたはもう輝いている

私たちはきっと会える

それは私が構造体に改造する決心をする前に受け取った、あなたからの最後の手紙でした

その手紙が届いたのはずいぶん後になってからでしたが、私の心はすごく慰められました。そして、もちろん今も

少女の唇が柔らかな弧を描いた

それ以来、私はずっと考えていました……あなたと初めて会う時、どんな挨拶すべきかと

でも、どれも考えただけで終わってしまいました………前に会った時はあまりにも慌ただしくて、私は……あまりにも情けない恰好でしたし

でも、いいんです。今、私たちには新しいチャンスがありますから

私は完全な姿で、あなたの前に立ちたいんです。だから、私の機体交換が終わったら……

その時を、私たちの初めての出会いにしてもいいですか?

その時にあなたに話したいことが……たくさんあります

ずっと楽しみにしていましたから

よかった

彼女の紫色の瞳に喜びが浮かんだ

セレーナさん?あなたの機体からデータを収集します。データ収集室へ移動してもらえますか?

話をしているところに、スタッフが軽く扉をノックした

あっ、わかりました。すぐに行きます

[player name]……またあとで

少女は囁くように小さい声で言った。彼女は隔離室を出る時、こちらを振り返って少しの間佇んだ。そして、スタッフの後を追って去っていった

空中庭園の日差しはいつも通りだった

事情を鑑み、セレーナの機体交換は科学理事会の閉鎖実験エリアで行われた。その間は面会禁止だった

なんとかしてセレーナに会えないものかと考えながら、プライベートのポストを開けた。そこには見覚えのある封蝋が押され、アヤメの香りを纏った手紙が横たわっていた

<i>[player name]:<i>

<i>今、ペンを取っている自分は、以前とは心境が違っています。<i>

<i>空中庭園からあなたに手紙を送ることができるなんて、思ってもみませんでした。<i>

<i>もちろん、あなたの端末の番号は知っていますが、やはりこの形であなたに想いを伝えたいと思ったのです。<i>

<i>文字は最も美しい媒体ですから。<i>

<i>アレン会長の共同開発申請が通りました。<i>

<i><size=32>彼は以前「クジラの歌」のデータを収集したレオニーさんを招いて、この特殊な機体を開発することにしたようです。</size><i>

<i>「クジラの歌」……とても美しい表現ですね。<i>

<i>アシモフさんは不測の事態に対処するため、幻奏機体をもう1体製作すると仰っていました。<i>

<i>予備の機体として備えておくそうです。<i>

<i>きっと全てうまくいきます。<i>

<i>あなたとの再会を楽しみにしています。<i>

<i>あなたのアイリス<i>

面と向かって会えなくても、想いを文字に乗せて伝えることができる

一瞬、時が遥か昔に戻ったかのようだった。樹々の香りと眩しい日差しに包まれながら、ファウンスの窓辺で手紙を開ける……

以前、セレーナがプレゼントしてくれた万年筆。大切に保管していたそれを机から取り出し、しばし思いを巡らせた

柔らかな光が便箋に降り注ぎ、万年筆が残した文字を温かく包み込んだ

きっと全てうまくいくよ。

君との再会を楽しみにしてる。

君の[player name]