Story Reader / Affection / セレーナ·希声·その3 / Story
あっ……ここにいたのね！ずっと探したのよ！
リアは埃まみれの部屋に隠れていたセレーナを見つけ、端末に届いたメッセージを読み上げた
さっきあなたが通信したあと、すぐに向こうから返事がきたの
彼らが言うには――
その場で待機するように。グレイレイヴンの指揮官が向かいます、だって。メッセージの差出人は芸術協会のアレンよ
グレイレイヴンって……[player name]？
心臓が飛び出しそうだった。セレーナは無意識に胸を押さえた
古びた手紙に記された署名が、彼女の意識海に浮かび上がる。手紙の内容を全て暗記しているセレーナには、当然その名も深く刻まれていた
あなたが……
グレイレイヴンって、すごい大物じゃん！彼らを知ってるなんて、あなたもすごい構造体なんでしょうね！
リアはしゃべり続けていたが、セレーナの耳にはもう彼女の声は届かなかった
いえ、私はそんなすごい構造体ではありません……メッセージには他に何か書いてありましたか？
座標が書いてあった。地図にマークしておいたわ……ほら
セレーナは粗末な紙に描かれた地図を丁寧に両手で受け取り、その紙を胸に押し当てた
よかった……
星空にいる彼らに、忘れられていなかった
保全エリア外の駐機場
同刻
輸送機の轟音が次第にやみ、タラップが降ろされる振動が伝わったあと、アルミ合金製のハッチが開いた
草木の匂いを含んだ空気が、ハッチの外から吹き込んできた
地上の空気には、空中庭園では再現できない独特な爽やかさがある。何度も地上で任務をこなしてきたが、ハッチが開く度にいつも心を動かされる
輸送機を降り、保全エリアの担当者に状況を訊こうとした時、端末にアレンからのメッセージが届いた
「慎重を期すため、セレーナには近くの廃劇場で合流するように伝えておいたよ。座標は――」
端末をしまい、パイロットにここからは単独で任務にあたると伝えた。パイロットは頷いて、再び輸送機を上昇させ、保全エリアの向こう側へ飛んでいった
これで、ここには自分ひとりだけになった
霧が徐々に晴れ、遠くの地平線に廃劇場が微かに見えた
廃劇場付近
数km離れた地点
はぁ……はぁ……
セレーナは迷路のような廃墟の中を走っていた
彼女は確信していた。この先に彼女を待つあの人がいる
だから1分でも1秒でも早く、<M>彼</M><W>彼女</W>のもとに駆けつけたい
……ゲホッ、ゲホッ！
激しい動きに弱った機体はついていけなかった。それでも彼女は足を止めなかった
苦痛など彼女にとっては日常茶飯事だ。もし、あの人と擦れ違ったら、永遠に消えない後悔となる
[player name]……！
彼女はホールの扉を押し開け、荒れ果てた劇場に飛び込んだ
しかし、静まり返った劇場に人影はなく、彼女の荒い息遣いだけが円形の回廊に響いた
[player name]……？
彼女はよろめきながら前へ進み、その名を呼びながら荒れた客席を探し回った
それでも、彼女に答える声はなかった
セレーナは立ち尽くし、ボロボロの天井から差し込む光に照らされ、自分の動きに合わせて光の粒となって落ちる埃をただただ見つめた
呆然とする中で世界が再びぼやけ、傾いていくようだった……
そして、彼女はついに聞いた。背後に響く、もうひとつの足音を――
廃劇場の扉が少しだけ開いていた。手を伸ばして扉を押そうとした瞬間、無意識に手を引っ込めた
セレーナだったら……いや、もしセレーナじゃなかったら……
もう一度、防護服と武器を確認し、呼吸を整えてから握りしめた拳を僅かに緩めた――
力いっぱいに扉を押し開ける
霧が陽光に追い払われた
眩しい朝の光が劇場全体を包み、深い青髪の少女が黄金の輝きに包まれていた
まるで公演中の女優のように、彼女は古びた舞台に立ち、頭上から降り注ぐ光を仰いでいた
頬に垂れる髪が彼女の顔の半分を覆い隠し、表情をはっきりと見ることはできなかった
背後から聞こえた音を敏感に察知し、少女は一瞬固まり、そして期待を込めて振り返った――
あの人の姿が、まっすぐに彼女の視界に飛び込んできた
[player name]……
意識海の動きが停止しそうだった。しかし、セレーナに迷いなど一切なかった
彼女は以前こう言っていた。会ったことがなくても、文通相手をひと目見れば気付くと確信していると
実際、その通りだった
舞台の上で少女が振り返った。陽光の中で埃が星屑のように輝き、その揺れる髪を包んだ
クジラの歌の中で彼女の姿を見た。芸術協会のアーカイブに残る彼女の映像を繰り返し見た
だが……
戸惑いは確信に変わった
目の前のこの人がどんな容姿をしていようと、どんな物語を背負っていようとも
深い紫色の瞳と澄んだ眼差し、優しくも揺るぎない決意を心に抱く少女は――
かつて自分と文通を重ねた「アイリス」だ
少女はゆっくりと一歩前に出た。そして、黙ってただこちらに手を伸ばした
言葉など必要ない。彼女が手を差し出した瞬間、自分はすでにその手を握っていた
僅かに冷たい感触に、彼女は一瞬たじろいだ。しかし、空気中のパニシング濃度が上がっていないことに気がつくと、少女は手に力を込めた
……
彼女は静かに、名もなき歌を口ずさんだ
緩やかに踊る中、少女は少し顔を伏せ、頬を伝う涙を隠した
彼女は何かを語ろうとしたがためらい、結局何も言わなかった。まるでこの穏やかな静けさを乱すのを恐れるかのように
ごめんなさい、私……
「夢」の中で、何度もこの光景を見ました……
彼女は柔らかく力強いステップで、自分をリードした
ずっと会いたかった……[player name]
少女は囁くように言った。待ち焦がれたこの時間を壊さないように、とても優しい声で
私は……本当にここに存在しているのですか？この時間……この場所に？
全ての苦しみが優しい時の中で溶けていく
セレーナはもう何も言わず、顔を上げ、頬を伝う涙をそのままにしていた
幻想の調べが現実で終止符を打つ。苦しむ魂に向かって、光が声をかける――
孤独なクジラは、ようやく自分の道を見つけた
ダンスのステップが徐々に緩やかになった。輸送機が到着するまでにはまだ時間がある
温かい陽光がガラスの天井から差し込み、ふたりの間を泳いでいる。光は彼女の髪を金色に縁取った
誰にも邪魔されないこのひとときに、ふたりは舞台の端に座り、今までの道のりの全てを静かに語り合った
それは語れば長いが、振り返ってみれば短い時間だった
ふたりがこれまで歩んできた物語を語り尽くすには十分だが、しかし<M>彼</M><W>彼女</W>らが擦れ違った旅路を挽回するには足りなかった
太陽が傾き、穏やかな空気がこの瞬間を永遠に閉じ込めたように感じた――
端末が急を告げる音を立てるまでは
急用ですか？
任務があるなら、私のことは気になさらず……
時が経つのは……あっという間ですね
時が経つのは……あっという間ですね
彼女は残念そうに微笑んだ
ありがとうございます、[player name]
今まで……私が取り戻した記憶の中で、どんな姿であなたの前に現れるべきか何度も思いを巡らせてきました
まさか、こんなみすぼらしい姿だなんて……
これはセレーナの勇気であり、セレーナの勲章でもある
彼女は自身の道を探し続け、ついに人生の嵐を乗り越えたのだ
か……からかわないでください
少女のアヤメ色の瞳が日の光の中で優しい喜びをたたえ、何か言おうとしたその時――輸送機の着陸音がホールの静けさを打ち砕いた
……
慰めの言葉をかけようとしたその時、セレーナは微笑みを浮かべ、自分の肩についた埃をそっと払った
大丈夫です……私は戻ってきました。私は今……ここにいます
これから私たちはたくさんの時間を一緒に過ごす……そうでしょう？
これから、時間はたくさんある
輸送機が近付いてくると、少女は目に見えて緊張し始めた。彼女に歩み寄り、微かに震える少女の両手を握った
……ごめんなさい、だって今の私は……
以前の「構造体」でなくなってしまった私が、空中庭園に……
さっきの会話の中で、セレーナは機体の出所を率直に自分に告げた
カムとノアンという先例のお陰で、空中庭園のいわゆる「授格者」に対する研究は進んでいる
アレンはすでに科学理事会との協議を済ませていた。空中庭園に戻ったあと、セレーナは特別待遇で科学理事会に入ることが決まっていた
……はい
彼女の笑顔から、かつての無邪気さは消えていたが、その温かさは今も変わっていない
どんな嵐や豪雨も、彼女の心を蝕むことはできなかった
数えきれない試練を乗り越えたあとでも、彼女は以前のセレーナのままだった。雨上がりの平原に咲く、しなやかなアヤメ
……一緒に帰りましょう
あの……皆がいるところへ
