Story Reader / Affection / 曲·啓明·その5 / Story

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曲·啓明·その3

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天文研究所はファウンス士官学校の近くにあり、昼間でもほとんど人がいない

静かで質素で広々としている。言葉で表現すると、やや寂しい印象を受ける施設だった

天文研究所……何か寂しげですね?ここだけを見ればそう感じないのに、隣のファウンス士官学校と比べると雰囲気が明確に違います

ファウンス士官学校の方が、施設のレベルも建物の造りも、天文研究所より遥かに優れているようです

曲の言う通りだ。建物の前の通りでも同じことを感じた

ファウンス士官学校の前は学生が絶え間なく行き交い、自分も後輩たちに挨拶を返し続けで疲れるくらいだった

一方、天文研究所については学生時代に耳にしたことはあるものの、知識としてはその程度だ

中で誰かが言い争う声が。聞こえましたか?

曲(キョク)

あら、人間の聴覚は構造体とずいぶんかけ離れているのですね

あなたはずいぶん耳がいいのですね

行ってみましょう。問題解決の調停役が必要かもしれません

曲が研究所の扉を押し開けると、目の前に3人の学生が現れた

椅子に座っている華奢な女性は白衣を着ており、ここの研究者といった風情だ

立っているふたりの男性は、背が高くて落ち着いた様子だった。着ている制服は乱れもなく、身なりはきちんとしている

あなたの後輩がふたりで意気揚々と天文研究所に現れるなんて、非常にわかりやすい展開ではありませんか

話を聞くまでもなく、言い争いの内容が推測できるというもの

曲と一緒に近付いていき、3人の会話に耳を傾ける

キキ先輩、今って天文研究所は暇でしょ?空いている場所を改装して有効活用しましょうよ……

そんな場所はないわ。暇って、この瞬間にもずっと研究は続いてるのよ

キキ……恐らく、彼女が衡杼先生の生徒かと

3人の言い争いは続いている……

けど、研究所の責任者はもういないじゃないですか。もっと有益な使い方を考えましょうよ?

先生が亡くなった今、ここの責任者は私よ

そう。だからこそ僕たちは先輩に会いに来たんですって。ほら、ファウンスの賃貸借契約書も持ってきました。もちろん、先輩の同意が必要ですけど

貸してくれたら、3カ月でここの1年分の研究費を稼げます。しかもノーリスクで。それに、先輩も我々ファウンス士官学校の宇宙研究所に参加できるようになりますよ

……

さすがあなたを輩出したファウンス士官学校。口八丁な者の育成に長けているようです

横から失礼ですが、この研究所は、衡杼先生が残した貴重な遺産のはずでしょう

先生の本意に反する用途に使われるのはいかがなものでしょうか

曲の声を聞いた男子学生ふたりは、驚いてこちらを見た

誰ですか?ここには他の天文学者はいないはずなのに

私のことはわからなくても、私の後ろにいる人は知っているのでは?

そう言われた男子学生ふたりは、こちらに目線を向けてきた

え?首席!あの伝説の首席じゃん!?あ、いや、そっくりさんかな?

いや違う、本物だって。おいおい、こんなところで首席にお目にかかれるなんて本当かよ

ってことは、あなたはグレイレイヴンの新しい隊員?

私が?笑止千万ね……

曲は突然、こちらの手を取った

私は、あなたたちの言うところの「伝説の首席」の伴侶です。意味がおわかりですか?

曲のストレートな物言いと行動を見て、ふたりの男子学生は顔を紅潮させた

わわ、そっか、なるほど……

ヤバイ、首席のゴシップだ

あの、滅多にお会いできないんで、首席のご意見も訊いていいですか?

個人的にはこの時代、天文研究の価値なんて限定的じゃないですか。だから現実的な、もっと有益なことに時間と施設を費やした方がいいと思うんですよね

ファウンス士官学校は、ここをデジタルシミュレーション戦場に改造しようと考えてるんです

演算上、模擬対抗演習を行えば新人指揮官の作戦効率と戦場感知能力を著しく向上させることが可能なんです

天文研究みたいなコストばかりかかって生産性の低いプロジェクトより、有意義だと思いません?

なんと浅慮な……どんな研究にも必要性があります。今の時代に真の価値を求めるというのなら……

最も価値があるのは、頭上の星々に他ならない

頭上の星々?

戦場を見れば、目に映る光景はパニシングに覆われた故郷だけでしょう

夜空を見上げれば、この狭苦しく絶望的な戦場の外、無限の宇宙が広がっているという事実に気付くことができます

あなたがいる空中庭園がどんな目的を持って創られたものなのか、その原点に立ち返って考えてみなさい

人類が深い宇宙の奥へ突き進もうとする情熱の重要さは、時代の遷移によって損なわれるものではないのです

「価値が限定的」とは、人類の未来にとってという視点におけるものなのか……単に、現時点での妥協という意味ではないのですか?

私は、未来の可能性を求めて宇宙を研究することは、壮大な先見の明だと思います

おお、なるほど……

そう言われれば、確かに僕たちは視野が狭かったかもしれない

この方の話には頷けますが、首席はどうお考えですか?

あーあ、無駄足だったか。でも首席に会えたからまあいいか

ご安心くださいね、首席。彼女さんのことは皆には内緒にしておきますから!

なぜ内緒にする必要があるのです?私は逃げも隠れもいたしません

あなたたちの首席が優秀な伴侶を見つけた、それだけのこと。何を恥じる必要があるのですか?

うんうん、野暮なことを言いました。これ以上おふたりのデートの邪魔はしません。お先に失礼します

ファウンス士官学校の生徒を見送ったあと、曲の凛とした表情が少し緩んだ

あの、ありがとうございました。あなた方がいなければ、この研究所は取り壊されていたかもしれません

それよりキキとやら、先ほど話していた天文観測設備の故障とは何のことです?

ええ、実は天文研究は空中庭園のメインプロジェクトではないので、研究資金がいつも少なくて

前までは天文台の入場チケットの売り上げで、なんとか耐えしのんでいたんですが……

最近、観測設備が壊れてしまったんです。そのせいで観光客が来なくなって、唯一の収入源が絶たれてしまって

はい。天文台の設備はホログラフィックを通して、遥か彼方の宇宙の星々を映写できるんです

そのお陰でここはカップルに人気の観光スポットになってました。満天の星空はとてもロマンチックで、デートにぴったりだって

週末になれば、たくさんの観光客が訪ねてきていたんです

感慨深い話ですね。現代人の天文学への関心は、デートにのみ限られていると?

人にはそれぞれ器がある……平凡なカップルには平凡な趣味があるのでしょう、想像は容易いことですが

そうなって収入面よりも大変だったのは、観測装置の故障で通常の研究もできなくなったことです

天文学校は昔から学生に不人気でしたけど、この一件で状況はますます悪化していきました

今の時代はもう、誰も天文学に興味なんかないのでしょうか?

……もしそうだとしても、私ひとりになっても絶対に諦めたくはないんです

天晴ですね、さすがあの先生の生徒です。まるで当時の私を見ているよう……

正しいと確信すれば迷わず行動に移し、どれだけ傷つこうが決して後悔しない鋼の心……

立場上、空中庭園の問題に干渉すべきではありませんが、妹弟子の苦境をどうして放置できましょうか

人類の未来を開拓するには、あなたのその熱意が必要なのです

でも正直言って、いつまで耐えられるか……観測設備が壊れてしまっては……

つまり観測設備が直れば、研究は続けられるのですね?

でも最近、工兵部隊はすごく忙しいんです。まったく手が空いてないって……

我々をその観測台に連れていけますか?何か力を貸せるかもしれません

本当ですか?おふたりが観測台を直してくださるのなら、お礼に今後一生、顔パスで入れるようにさせてもらいます!

いいえ、それは結構。直ったあとにふたりだけで天体観測をする時間があれば、それだけで十分です

うふふ、わかりました

他国の者である私が単身、空中庭園のトラブルに対処してしまうのはいささか問題でしょう。でも、指揮官も一緒なら問題ありませんね?

外交問題に発展させたくありません。[player name]、一緒に来てくれますね?

天文台が直ったら一緒に星空を眺めましょう。あなたに話したいことが、まだありますから

曲(キョク)

それは、ふたりきりの時に教えます