Story Reader / Affection / 曲·啓明·その5 / Story

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曲·啓明·その2

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それほど長くない飛行が終わり、曲とともに空中庭園に到着した

先ほどの揺れのせいで、曲が持参した申告資料はお茶びたしになっている

そのため自動入境装置が資料の文字を識別できず、曲とふたりで「門前払い」をくらってしまった

空中庭園への訪問は、なんとも骨が折れること。他国の王であっても特例措置はないのですか?

そう告げて曲がり角の方へ歩くと、そっと携帯端末を取り出してセリカに連絡する

ふわぁ、眠い……あれ首席、どうしました?今は勤務時間外ですよ

何でしょう?仕事?それともプライベート?

正直に、曲を空中庭園に連れてきたことをセリカに話した

輸送機でデートしたことは目をつむるとしても、入境許可を出せだなんて。空中庭園をテーマパークか何かだと思ってるんですか!

いくら人類の英雄、首席であっても、職務上そんな越権行為の見逃がしは……

うっ……今回限りって約束できます?

もう、次はないですからね

セリカの寛大なる処置のお陰で、曲と一緒に空中庭園に入ることができた

問題が起こりましたが解決は速やかでしたね。随行の判断はやはり正解でした

察するに、何らかの袖の下を使いましたね

首席の名は、通行証としては優秀なようです

ですがもうひとつ、遠慮なく頼み事をしてもいいでしょうか。[player name]、衡杼先生に会いに行くのにも随行を願えますか?

私の伴侶、として同行してほしいのです。急な話ですが……

不本意……ですか?

師は以前から私に、早くふさわしい伴侶を見つけてほしいとお望みでした。でも私は当時、九龍再建の真っただ中。そんな余裕はとてもありませんでした

その後、多くの経験を通して師がそう言った意図が少しずつ理解できてきました

人は、ひとりで解決できないことがあまりにも多い。ですがもし、あなたのような伴侶がずっと傍にいてくれたら……

たとえいつか全てを失ったとしても、せめて誰かが傍らに……

……いえ、今のは放言でした。それより、私の願いを聞き入れてくれるのですか、どうなのです?

では今から、私とあなたは互いに伴侶です

私の伴侶になるのに、そんなに熟慮を要するのですか?

実は、衡杼先生が今どこにおられるのか、見当がついていないのです

療養所ですか……

寂しい境遇なのですね。もしあの時、彼が九龍に残っていたら今頃は……

いえ、やはり落命されていたかもしれませんね。当時の戦況はかなり激しいものでしたから

とにかく、空中庭園が九龍の学者たちを受け入れてくれたことには感謝しています

時間がありません。参りましょう

曲を伴い、空中庭園の療養所に到着した

療養所の建築スタイルはとても上品かつユニークで、間接照明が建物の周囲を照らし、幽玄とした雰囲気を演出している

これは普通の「照明」ではなく、周囲に設置されたホログラフィックが放つ微光だった

緑が茂り、草花が美しく咲き誇っていますね。この療養所の投影風景でしょうか?

残念なことに、完璧すぎるせいで逆に虚像であることが一目瞭然です

曲は立ち止まってしばらく景色を眺めてから、そのまま真っ直ぐ所内に入っていった

待合廊下にはセルフサービスの機械があるだけで、受付には看護師がひとりいるのみだ

こんにちは。衡杼先生にお会いしたいのですが、部屋番号は何番でしょう?

衡杼さんですか?少々お待ちください……ええと、衡杼さんがおられたのは406号室です

あの、もしかしてご存知ないでしょうか……406号室の衡杼さんのこと

と言いますと?

……残念なことに、衡杼さんは先週お亡くなりに

看護師

突然のことで……ご愁傷様です

……

曲は眉根をぐっと寄せた。深い哀しみに覆われた暗い瞳の奥に、言葉にできぬ想いが滲んでいた

吹き抜けるそよ風が曲の柔らかい髪をなでていき、彼女の代わりに無言の悲しみを語っている

だが次の瞬間、曲は冷静かつ鋭い眼差しに戻り、全ての動揺をぐっと抑え込んだ

そうですか。その可能性も考えてはいました

何せ衡杼先生はご高齢でしたから。おそらくご自身は、とっくに覚悟がおできになっていたはず

かといって、遺憾の意を拭えるものではありませんが

私を支えてくれた多くの部下たちも、二度と戻りませんでした

曲は瞼を閉じて過去の日々に思いを巡らせたあと、深く長いため息をついた

彼らはパニシングとの戦いで命を落としたり、行方知れずになりました。後になって彼らの消息を知っても、このような結果が何度あったことか

別れの手紙は、いつも遅れてやってくるもの。どうやら来るのが遅すぎたようですね

私は九龍の主、孤独は常です。慣れていますし、慣れすぎて麻痺しているのかもしれません。でもこういう事態に直面すると、そう簡単には割り切れないものね……

心配はいりません。それよりここまで足労をかけて、時間を無駄にしてしまいました

あの、そういえば衡杼さんから預かっていた物があるんです。九龍から来る人がいたら渡してほしい、と

何でしょう?見てもいいのですか?

もちろんですよ、衡杼さんは何度もあなたのことを話していましたから。これ、あなたに渡したかったんじゃないでしょうか

看護師は、黄銅色の金属装置を曲に手渡した

これは……六分儀?

六分儀を受け取った時、曲は少し押し黙った。昔の記憶が蘇ったのだろう

あの時は誰もパニシングのことなど知らず、九龍は栄華を極めていた。曲は星の観察に夢中になり、よく天文台に足を運んでいた

当時は衡杼が天文台の管理者で、曲に天体の変化を丁寧に解説してくれたものだ

衡杼先生、何を持っているのですか?

曲様、これは六分儀というもので、天体と海平面の間の角度を測定するために使うものです

六分儀?今の時代に、そんな古い道具を使っているのですか?

だって今の天文台には、最新の複合観測技術があるはず。そんなものを使う必要はないでしょう?

正直言って、持ち運びのしやすさ以外、利点がわかりません

仰る通りです。ただ、天体と海平線の角度を測定する初期の道具である六分儀は、現代の最新技術の礎というだけではない。人間が持つ無限の開拓精神も象徴しているのです

今日我々が享受している成果は先人の努力の結晶です。そして、受け継がれた開拓精神が常に私を激励するのです。私は未知への探索を自分の使命として、命を懸けています

天文学の発展はどんどん進んでいます。いつか、人々はその広大な星々の彼方へ飛ぶこともできるでしょう……

残念ながらその後まもなく、パニシングが世界中で爆発しました

人間が星の彼方へ向かう前に、地上で災難に見舞われてしまった

私たちは次々と襲いくる侵蝕体に対抗するために、万世銘計画を進めることに注力しなくてはならなくなり……

それからは星空を見上げる度に、無意識に人類の未来についての可能性を考えるようになりました

衡杼先生がこの六分儀を残してくださったのは、おそらく私が師の遺志を継いで、人類の未来のために開拓し続けることを望んでおられたのでしょう

衡杼さんが生前願っていたことのひとつは、この六分儀を曲さんにお渡しすることと……

それから、ご自分にふさわしい伴侶を見つけてほしいと言っていましたね。どうやら、もう衡杼さんの願いは全て叶えられたようです

そうですね……

でもまさか、伴侶になった人があの首席だとは。本当に、本当によかったですね

ええ……本当に

そういえば少し前、衡杼さんの生徒だったという人が彼に会いに来ていました

衡杼さんが設計した新しい天文台のことで来たようですが、何か困ったことがあったみたいで

新しい天文台とは、空中庭園の?まさか衡杼先生は、ここでも星の研究をしておられたのですか

あの、その生徒の居場所はわかりますか?

天文研究所で研究をしている誰かだと思いますが、具体的には……

わかりました。その子に会いに行きましょう

その子に会うだけでなく、空中庭園の天文台も見てみたいと思います

行きましょう