空中庭園が夜航船に依頼した物資が到着した。小隊はその護衛として集められた
グレイレイヴン指揮官……ちょっと
あの手強そうな女性構造体が呼んでるよ……
まさか本当に来るとは
…………
徽羽(キウ)……朝からいないのです。ここに来たのも探すためです
朝、そばにいなくて……何度呼んでも返事をしてくれない
そんな!許可なく勝手に出たことなど一度もなかったのに
産まれた時からずーっと一緒で……きっと何か危ないことに巻き込まれて……
徽羽(キウ)を一緒に探してくれるのですか?
徽羽(キウ)より、私たちが先に食べられるかもしれませんが……
グガ——!!
いつのまにかふたりは侵蝕体に囲まれていた
足を汚したくはないのですが……
曲は横目でこちらを見た
あなたのためならば、戦わざるを得ませんね
謝罪は不要です。あなたは私の「伴侶」でしょう?
さっさと終わらせましょう
曲は優雅に、絹の布が舞うように軽く蹴ったように見えたが、3体の侵蝕体は地面に倒れ、動かなくなった
見とれていないで、早くこちらへ
先ほど倒れた侵蝕体はまだ意識があり、いきなり曲の足をつかんだ
この体では倒しきれなかった……!
動けない曲にもう1体の侵蝕体が襲いかかる。急いでその1体に体当たりをくらわす
曲はすぐに反応し、自分の足をつかんでいる侵蝕体を踏み潰し、もう1体を蹴り飛ばしてこちらの手を取って走り始めた
早く!
ふたりは侵蝕体の大群を抜け出した。知らずしらずのうちに夜航船の中心部に入り込んでしまったが、そこにも侵蝕体が倒れている
この傷はどれも徽羽(キウ)のくちばしの痕……やはりここに来たのね
ふふふ……。徽羽(キウ)は私が傷つけたくない人をわかっているから
倒れている侵蝕体に沿って進めば、きっと徽羽(キウ)を見つけられます
その時、遠くから徽羽(キウ)の鳴き声と侵蝕体の咆哮が聞こえた
崩壊せよ!
曲は空中に飛びあがり、身をひるがえして地面を蹴った。巨大な衝撃波が巻き起こり、徽羽(キウ)の周囲の侵蝕体を全て吹き飛ばした
徽羽(キウ)!
曲は飛んできた徽羽(キウ)を引き寄せると、広範囲に蹴り技を繰り出してその場の侵蝕体を全滅させた
徽羽(キウ)は空中から侵蝕体の全滅を確認すると、やがて地面に降り立った
地面には徽羽(キウ)ともう1羽……まったく同じバイオニック孔雀がいた
角宮(キュウカク)……
これは角宮(キュウカク)。徽羽(キウ)と同タイプのバイオニック孔雀です
角宮(キュウカク)という名のバイオニック孔雀は翼に傷を負っている。曲を見ると、怯えているかのように羽を震わせた
角宮(キュウカク)は飼い主選びを間違えましたね。ヴィリアーはここでグレイレイヴンに倒されたんでしょう?
曲は侵蝕体が残した刀を拾い、角宮(キュウカク)の側へと近づく
角宮(キュウカク)、飼い主は死んだのよ……ともに地獄へと送ってあげましょう
だが、徽羽(キウ)はその場を動かず角宮(キュウカク)を庇っている。たとえ曲が相手でも引くつもりはないようだ
徽羽(キウ)……そう、あなたの「伴侶」なのね……
曲は目を閉じて頭を振り、刀を投げ捨てた
角宮(キュウカク)と徽羽(キウ)は……はるか昔……恨みも諍いもなかった頃の兄上からの、私とヴィリアーへの唯一の贈り物だったのです
その時私はまだ子どもでした……自分が一体何を背負っているのか、自分の理想がやがて誰かを傷つけることも知らなかった
でも今私はたったひとり……兄上もヴィリアーも、もういません。ただ徽羽(キウ)だけが、変わらず傍にいてくれる
曲は溜息をひとつつくと、傍に近寄ってきた
角宮(キュウカク)の翼を修理してくれますか?せめて自力で生き延びられるようにはしてあげたいのです
角宮(キュウカク)は私の手助けを受けません。だから他人に頼むしかないの
曲はこらえきれずに笑いだした
本当に、勇敢なのか小心者なのか……私の「伴侶」に徽羽(キウ)は攻撃したりしません
リーから少しだけ機械に関する知識を教わっていたので、角宮(キュウカク)の翼はすぐに修理できた
角宮(キュウカク)は翼を広げて具合を確かめた。徽羽(キウ)は空中に飛び立った角宮(キュウカク)の後を追い、やがて2羽は追いかけっこを始めた
機械は壊れてもこうやって修理できる。怪我をしたら死ぬこともある人類は、本当に脆くて可憐な生き物ね
あなたの命はなにものにも替えがたい。これからは自分を顧みずに他人を助けようとする愚行はおやめなさい
わかって。あなたの命はもうあなただけのものではないのです。あなたは私の唯一の「伴侶」なのですから