…………
ピピピ――
記憶が間違っていなければ、今日は非番のはずだ。目を開けると現れる見慣れた天井。それから……狂ったように鳴る端末
通信をつなぐと、カムイの声が聞こえてきた
指揮官指揮官!今忙しい?
まあどっちでもいいや!緊急事態なんだよ!
カムが…………
適当なコートを羽織って外へ駆け出し、あてもないまま街中を捜索する
うん……昨日の夜から連絡が取れなくなって……前も急にどっか行っちゃうことあったし、その時はそんな気にしなかったんだけど。でも、今朝になってもどこにもいないんだよ!
もしずっと俺と一緒だったら、ぜーんぜん気になんないんだけど
こんなこと……俺も初めてなんだ。カムがどこにいるのか、まるでわからない
これほど真剣なカムイは初めてだ。だが次の瞬間、カムイは笑い出した
ははは、こんなこと指揮官に言ったって、わけわかんないよな?
うん……指揮官が理解してくれてるかはわかんないけど、でも俺、指揮官がいると安心するんだ……いつだって!
指揮官がいれば、何もかもうまくいくような気がする
指揮官。カムを連れ戻してくれよ
勢いのまま約束したものの……この広大な空中庭園で、理事会の力を借りずにカムを見つけるにはどうしたらいいだろう……
理事会はカムの行方を把握しているだろうから、カムが危険な状態だということはない。だが、カムイが言う「連れ戻す」は……上層部経由で警備隊を動かすことではない
とりあえず、探すか
次第に正午が近づき、太陽の光も強くなる。あちこちを探し回ったが、カムの痕跡ひとつ見つからなかった
……そして、気づけばここは、今朝のスタート地点だ
グー……
近くの公園で座って休むことにしよう
……公園には先客がいた。よく知る馴染みの姿の先客が
——!?
アンタ……ここで何をしてる?
どう見たって俺を探してたろう?バカにしてんのか?
俺に何の用だ?
それがどうした。俺はそれくらいの個人的な自由もないのか?
チッ。俺の居場所がわかったんだからもういいだろう。さっさと行けよ
カムは酸っぱいレモンでも食べたかのような表情になった
何度言えばわかる。グレイレイヴン指揮官、よく聞けよ。作戦以外で、俺とアンタは一切、何の関係もない。アンタには、そんな顔して俺に綺麗事を言う資格はない
カムの言葉は氷のように冷たく、その目線はまるで何かを測るかのようだ
それとも……俺を喜ばせれば、何かいいことでもあるのか?
……死にたいのか?
じゃあなんだ、俺のことを理解したいのか?なら、教えてやるよ
この世界はクソッタレで、胸糞悪くて、最低だ
空中庭園も、パニシングも、この世界そのものも、本質的には同じだ。どれもこれも汚らしいものばかりだ
それが俺だ。アンタがいくら綺麗事を吐いたところで、俺は変わらない。アンタよりはよっぽどこの世界を理解してる。パニシングがなくても、この無価値な世界は堕落していたさ
俺は、何もかもが死に果て、世界が滅び、全部最初からやり直せばいいと思っている
もし俺が何も知らず、何も経験せずにいたら、カムイと同じようになっていただろう
だが、俺はカムイとは違う
だから、アンタも無駄な努力をすることはない。愛だの正義だのなんて言葉も、聞きたくはない。俺からすれば、それは愚かで、利己的で、身勝手な言葉だ
俺の力に責任なんて負わせたくない。そんな義理はないし、何よりもクソッタレのこの世界を「救う」なんて御免だからな
今空中庭園にいるのは、現時点の俺がそうしたいと思ってるからで、それ以外にない。だから、俺に時間をかけるのは無駄だ
わかったか?
……
アンタはバカか!?
クソッ、なんでアンタなんかにこんな話したんだ……!
なんだ……
……?
……
アンタはバカか!?
クソッ、なんでアンタなんかにこんな話したんだ……!
は?
……別に。最初にうっかりアンタを殴ったの、俺だったしな
違う!そんなことはどうでもいい!
あああああぁぁぁぁぁぁぁ!
おい!散々しゃべらせといて、反応薄くないか!?
まさか俺サマに恐れおののいて、今すぐこの場を離れたいとかか!?
なっ……アンタら人間の頭ん中はどうなってやがる!
しゃべるだけしゃべらせといて、アンタは何ひとつわかってない!俺が時間を無駄にしただけだッ!
徐々に冷静さを失ったカムに、襟もとを掴まれる。そしてそのまま持ち上げられてしまった
俺を惑わせるとは、一体何が目的だ!?
早く言えよ!
カムは心底驚いたという顔をしている
こんな顔はなかなか見られない。……相変わらず襟は掴まれたままだけど
グルグル……
そろそろ呼吸がやばいという時になって――――腹が鳴った
……
おい。あんた、カムイにも同じことをしてるのか?
カムはようやく手を放し、大きく息を吐いた……観念したのか、安心したのか、そのどちらかはわからない
手の中のたこ焼きは、まるで黄金色に輝いているようだ。香ばしいにおいが食欲を最大限に刺激する
(モグモグ)
(モグモグ)
隣では、当たり前のようにカムもたこ焼きを食べていた
食べるのが好きなんだ。何か文句があるのか?
好き……がどうした?
なぜか知らないが、自然と口をついて出た
おかしかったか?
はぁ?アンタはつくづく変人だな、なぜ安心する……
おい、オヤジ!辛さダブルでもう一人前追加だ!
……オヤジ、二人前だ
わかってる……本当にいちいちうるさいな
出来立てのたこ焼きを持ったカムがベンチから立ち上がった。パラソルの影から出て、太陽を浴びた顔がこちらを振り向く
行くぞ
カムはめんどくさそうに振り返った。返事はないものの、目線の先には空中庭園司令部中央棟がそびえている
おい、次からは探しにこなくていいからな
俺は別に「家出」したわけじゃない!
自分がどこで何をしているのか、よくわかっていると言ってるんだ
だから!二度とそんな風に笑うなよ!