Story Reader / Affection / リリス·万魔 その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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リリス·万魔 その4

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彼女はすぐに答えず、自分が手に持った武器に目を向けた

手に持っていた作戦用ナイフをゆっくりと地面に置いた

直接会う方法を最初から知っていたのなら、なぜ早く言わなかったのですか?

この檻の中の囚人に食べられるのが怖かった、とか?

お互いの視線が交じわる。彼女は少し考えたあと、手に持った傘でコンコンと地面を叩き、安全な場所へ来るように促した

つまり、あなたの今までの行動は彼ら……私たちに対する探りだったということですね

人と人との信頼がこんなにも脆いなんて、残念です

あなたは一流のギャンブラーにはなれませんね

1歩前に進むごとに、パニシング濃度が低下するのを感じた。エレノアもこちらに歩み寄る

目の前の正体不明の女性を観察するチャンスだ

華やかな装いに身を包んだ女性は、まるで黄金時代の芸術品が歩いているようだった。ゆったりと優雅に歩みを進める度に、淡いカシスの香りが漂う

この過去の栄華を象徴する場所と見事に調和している

これが観察から得られた唯一の情報だった。彼女の体には、逆元装置やその他の機械構造が見当たらない……少なくとも今は

最後の質問をいいですか?

エレノアはこちらの背後に回り込んだ

エレノア

ここまでして、ここに来て……

腰に硬い物が押し当てられた。ここに来る直前にうっかり接触したパニシングによる傷に激痛が走る

彼女は先ほど地面に置いたナイフを拾い上げ、こちらを脅すようにして部屋の奥へと歩かせた

エレノア

私があなたを傷つけるかもとは考えなかったのですか?

エレノア

それとも……武器を相手に渡すのは、他の保険があることを知らしめるため?

押し当てられた感触は徐々に緩くなった。パニシングの侵蝕で体中に針が刺されているように感じる。エレノアはこちらの正面に回った

彼女はこちらの襟元を掴みながら、隣のテーブルに座った。自分は今、彼女を見上げる格好になっている

痛みで心拍数が急上昇する。口を開くのさえ難しくなってきた

エレノア

あなたが交渉の切り札としてテーブルに持ち込んだチップは……

エレノア

ちょっと魅力に欠けますね

エレノア

……続けてください

鋭利な刃が首筋に当てられた。目の前の女性はディナーナイフを使うかのように角度を精確にコントロールし、危険を回避した

彼女は刃先でこちらの顎を持ち上げた。いつの間にか自分の呼吸が荒くなっていたことに気付いた

エレノア

引き分けなら、少数派が負けになるのでしたね

それなら、勝てる可能性が出てきますね……

ですが、彼らが気付いて戦略を変えれば、あなたの勝率は……

エレノア

それはそうと、あなたの端末はどこへ?

エレノアが目線を下に移動させたのに合わせて、何も着けていない腕を彼女に差し出した

エレノア

隠したのですね。あなたの計画では、あなた本人より端末が重要ですものね

彼女の瞳に好奇の色が宿った。捉えどころのない笑顔には含みがある。彼女は、顔を近付けてきた

エレノア

私を脅すのですか?私が協力しなければ、私たちふたりが負けるだけだというのに

エレノアは小さく笑って首元からナイフを離し、テーブルから降りた

エレノア

あなたが仰る通り、可能性こそ最も人を興奮させる毒薬……ですものね?

目の前の女性は、唐突にこちらの手を取った。真っ白なシルクの手袋で、少し汚れた作戦用手袋に触れる

彼女はナイフをこちらの手の平に置き、握り締めさせた

思わず安堵のため息が漏れ、ゆっくりとナイフを腰のホルダーにしまった

次の瞬間、今まで耐えていた痛みが全身を襲った。先ほど移動している時に左腕がうっかり外部に晒されてしまったようだ。極めて短時間の侵蝕でも大きなダメージを受ける

しかし、端末上のパニシング濃度は安全状態を示している。本能的に安心した

自分の本音が露わになった表情をエレノアはじっと見つめていた

顔色が悪いですね

彼女の言葉には心配の欠片もなかった

今すぐ傷を処置しないと、恐らく自分はゲーム終了まで持たないだろう

筋肉に激痛が走り、防護服を脱ごうとする手に力が入らない

その時、別の力が腰のバックルを外してくれた

あなたの「知恵」はまだ必要ですから

お気になさらず

彼女は感情のない口調でそう言った

彼女の声には皮肉さが滲んでいる

エレノアの動きは冷静で正確だった。自分の指示通りに、不注意で負傷した腕と肩に包帯を巻いてくれた

皮膚が再び汚染されていない空気に守られた。先ほど打った血清もある。まだ何とか耐えられるはずだ

自分の血で赤く染まった服が目に入った。傷口から滲み出した組織液が布に張りついている

まずテーブルの上に転がったのはロープだった。そして、血清の瓶

6本あった血清も残り3本になった。それらが火打石とともにテーブルの角まで転がり、木製の縁の近くで止まった

最後に救急キットと保温ブランケットがリュックから滑り出て、ベルベットのテーブルの上にボスンと落ちた

少しでも痛みを和らげようと、やや奇妙な姿勢になった。左手で救急キットを支えながら、右手で素早くジッパーを開ける

何かお手伝いしましょうか?

鼻を突く匂いを漂わせながら、透明な液体が瓶の口から勢いよく流れ出た。熱い感覚が肌を襲う

薬瓶を乱暴にテーブルに叩きつけた。包帯を手に取ったが、それを巻くという簡単な手当てすら今は難しい

側に立っていたエレノアは、何も言わずにこちらの手から包帯を取り上げた

先に言っておきますが、私に看護師の経験はありません

彼女は包帯を伸ばし、極めて精確な力加減で、こちらの胸と肩に丁寧に巻きつけた

あなたの信頼を得るのは、結構簡単ですね

包帯によって胸と肩がしっかりと固定され、粉末止血剤がすぐに効き始めた

簡単な処置だけで、ここまで動けるようになるのはありがたい