Story Reader / Affection / イシュマエル·幻日·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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イシュマエル·幻日·その3

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イシュマエルはグレイレイヴンと別れ、ひとりで中央制御室へ向かった

道中で異合生物と遭遇したが、異合生物はまるでイシュマエルが見えていないかのように、思いのままにうろついている

ピンク髪の構造体は平然とした様子で異合生物の間を通り抜け、中央制御室へと向かった

……ん?

中央制御室に足を踏み入れた途端、イシュマエルは異変に気がついた

そこにあるはずのファイルキャビネットは跡形もなく消え、代わりに異様な空間が広がっている

そこにあるのは歪んだ空間だった。部屋の中央には、他とは様子が異なる異合生物がいた

異合生物……いえ、異潮模造物と呼ぶべきですね

あなたはこの時間にいるべき存在ではありません

イシュマエルは側にある椅子に目をやった

椅子に1歩近寄ると、イシュマエルの移動に合わせて、椅子が移動して倒れたように見えた

しかし改めて見ると、椅子は先ほどと同じ位置に置かれている

イシュマエルは手を伸ばし、目の前で軽く振ってみた

「感覚のズレ」……

時間だけでなく、空間も

もう1歩踏み出すと、ドロドロとした液体の上を歩いているような感じがした

まるでこの中央制御室が赤潮に呑み込まれているように感じたが、それも単なる幻想にすぎない

どこかしらから、異合生物が侵入してきたことは確かですね

ここではない、どこかから……

今の状況を引き起こした原因はここにある。「暗室」の防御システムは、ここで侵蝕されたのだ

しかし、なぜここが侵蝕されたのだろう?

「暗室」が異合生物に襲撃されること自体はおかしくない。ただ、グレイレイヴンなら対処できたはず……

本来起こるべき展開は「グレイレイヴンが住民を率いて異合生物を撃退し、任務を完了する」だったはず

この中央制御室が侵蝕される展開はなかったのに……

何か異常事態が発生した……?

彼女は異潮模造物など存在しないかのように、目の前の空間を見つめていた。その視線は、ここではない何かを見ているようだった

彼女の視線は、更に遠くの……

彼女の視線は、更に遠くの▊▊▆▎▂▌▁▄▊▆▄

<size=50>更に遠くの</size>

イシュマエルは瞳を閉じ、手の中でサイコロを転がした

いいえ、まだですね。まだ時は満ちていない

長い時間、彼女は時空を超えた遥か向こうを見透かすように眺めていた

……まだその時は来ていない

イシュマエルは手の中のサイコロをしまい、中央制御室を見渡した

あれは……

彼女は何か興味深いものを見つけたように目を細めた

あなただったのですね……

異潮模造物は小さな悲鳴を上げ、空気に溶けるようにゆっくりと消えていった。時間軸の外側からの力によって、ここに存在することができなくなったというように――

中央制御室の「感覚のズレ」が元に戻り始めた

イシュマエルは1歩前に進んだ。まるで次の1歩で別の場所に入り込むかのように

コロン――

しかしその時、床に落ちた何かがイシュマエルの気を引いた

――それは木製の20面サイコロだった

先ほどポケットにしまい損ねたようだ

サイコロは床を転がり、「20」の目を出していた

……大失敗というわけですね

イシュマエルは元の計画を諦め、踏み出した足をゆっくりと引いた

彼女は部屋の隅に退き、静かに中央制御室のパニシングが消えゆくのを見守った

やはり、あなただったのですね

彼女は納得したように微笑んだ

それなら……

ここで起こるべき展開は、やはり「グレイレイヴンが住民を率いて異合生物を撃退し、任務を完了する」ですね

――そして、全てが正常に戻った

通路

通路

???

グレイレイヴン指揮官、聞こえますか?

突然、通信から聞き覚えのある声が流れてきた

私です。防御システムのロックを解除したので、通信が行えると思います

今から、リーとここのリーダーと通信を繋ぎますね

今は私が「暗室」全体の防御システムをコントロールしています

異合生物を隔離し、あなた方に進むべきルートを示しますね

イシュマエルは目の前の大きなモニターを見つめていた。モニターはいくつものフレームに分割され、それぞれ異なる場所の監視映像を映し出していた

彼女は階下へ向かう[player name]や、地下19階で住民を率いて戦うリーの姿を同時に見ることができる

「グレイレイヴン」とのコンビ……懐かしい感覚ですね……

彼女はアナウンスボタンを押し、拠点内の全員に向けて言った

放送音声

イシュマエルです。これより遠隔支援を始めます

[player name]、最適化した突破ルートを端末に送信しました

地下13階から14階への通路には異合生物が多くいますが、防護壁で隔離済みです

イシュマエルの情報を受け取ったあと、リーとフトウと協力し、大勢の住民を迅速に撤退させた

僅かにホワイトノイズが混じる通信装置から、時々イシュマエルの声が聞こえてくる

地下19階D5通路の52式自動軽機関銃が作動しました

……本当に……久しぶりですね

微かに聞こえた声は、少し奇妙な言葉を放っていた

前々から名高いグレイレイヴンに憧れていましたから……

地下19階Aエリアの武器庫の位置を送りました。そこで銃弾を補充できます

イシュマエルは話題を変え、端末上に新しい場所を示した。頭の中の疑問は一旦追いやり、リーに指示を出した。避難者を率いて武器庫へ向かい、新しい武器を確保するようにと

モニターの中の[player name]を眺める彼女の口元には、笑みが浮かんでいる

前のように、またお願いしますね

中央制御室

5時間後

5時間後、中央制御室

監視モニターの前に5時間座り続けていたイシュマエルは、悠然と最後のボタンを押し、リーとルシアが追い払った異合生物を閉じ込めた

撤退ルート上の脅威は全て排除され、残る危険は全て厚い防護壁で隔離されていた

モニターの中の人々は、無事に地上1階に到達できた

これで、グレイレイヴンの任務が半分終わった。あとは、この4000人を超える住民を目標の保全エリアに移送すれば、任務完了だ

イシュマエルは監視モニターから離れ、中央制御室の一角に向かって歩き出した

中央制御室の隅の壁が奥に凹んでスライドすると、エレベーターが現れた

彼女はエレベーターに乗り、「-21」と記されたボタンを押した

しばらくするとエレベーターの扉が開いた。イシュマエルは、目の前の小さな部屋に足を踏み入れる

センサーライトがイシュマエルの動きに合わせて点灯する。決して「広い」とはいえず、ファイルキャビネットが並び、その先には巨大な計算機がぼんやりと青い光を放っていた

――まるで奇妙な小さい図書館に足を踏み入れたようだ

イシュマエルはあるファイルキャビネットの前に立つと、箱を取り出した。中には真空パックされたディスクが1枚入っていた

これで、任務完了です

目標の保全エリア

3日後の深夜

3日後の深夜、目標の保全エリア

グレイレイヴンは「暗室」の住民を無事に保全エリアまで連れてくることができた

「暗室」から保全エリアまでの道中で、47人が命を落とした。フトウは彼らのために簡単な葬儀を行った

とにかく、一段落がついた

イシュマエルは保全エリアの隅に座り、グレイレイヴン指揮官が保全エリアの責任者やフトウと話しているのをただ黙って眺めていた

ある若者が保全エリアの責任者のもとへ駆け寄った。資料を見せながら話をすると、ふたりは一時的にその場を離れた。そこにはグレイレイヴン指揮官とフトウだけが残された

今回の件、心から感謝します。グレイレイヴンはやはり噂通りですね

イシュマエルは、指揮官が一瞬ためらい、どう切り出そうか思案していることに気がついた

そして、指揮官はフトウに何かを言った。その言葉を聞いたフトウはあからさまに緊張している

ふたりの会話はそう長く続かずに終わった。フトウは項垂れた様子でその場を立ち去り、どこか罪悪感を抱えているように見えた

イシュマエルはフトウが[player name]の側を離れるのを見届け、指揮官に向かって歩いていった

お疲れさまです

するべきことをしたまでです

さっき、何を話していたのですか?

極秘情報なら言わなくても構いません

イシュマエルは納得したように微笑んだ

空中庭園を信用していないから、ですか?

ピンク髪の構造体は少し眉をひそめ、理解に苦しむといった表情を見せた

なぜ彼はリスクを冒してまで、新しい保全エリアに移動したかったのでしょう?

中央制御室で「暗室」全体の状況を把握しましたが、まだ使える物資が大量に残っていました

異合生物を片付けさえすれば、外のパニシング濃度が高くても、あの拠点で10年は持ちこたえられたはず

あと10年生きられたら……それで十分では?

希望?

希望、ですか……

イシュマエルはこの言葉を何度も噛みしめた

遥か昔、彼女も同じように「希望」を抱いていた。あれはどれくらい昔のことなのだろうか?

彼女はとても長い道のりを歩んできた。その旅路があまりにも長かったせいで、記憶がおぼろげになっている

今の彼女は、まだ「希望」を抱いているのだろうか?

歳月は多くのものを変えてしまうが、いくつかのことは刻印されたように心に刻まれる。あのサイコロのように……

……お待ちください

彼女は立ち去ろうとする指揮官を呼び止めた

渡したいものがあります

イシュマエルはポケットから木製の20面サイコロを取り出し、[player name]に差し出した

これは……「希望」です

イシュマエルは指揮官の手の平に乗せたサイコロを見つめると、何かを思い出したかのように言葉を続けた

歩みを止めず、前に進み続けて

このサイコロをくれた人が、そう言っていました

これを、あなたに託します

保全エリアの責任者が戻ってきた。どうやら先ほどの件が片付いたようだ

あなたはもう行かないといけませんね

イシュマエルは微笑みながら[player name]に別れを告げ、人込みへと向かった

ギターを弾く男性に「弾き方を教えてほしい」と懇願する小さな女の子が見えた。男性は笑顔で頷いている

彼女は穏やかな表情を浮かべている人々を見つめ、響き渡るギターの調べに耳を傾けた

視覚モジュールから夕暮れの光景が消え去り、雪原の冷たい風が再び頬をなでた

イシュマエル

彼らは未来に希望を抱いてる。だから「墓場」には留まらない……

ギター弾きの歌声が響く中、イシュマエルはマントをきつく締め、燃え盛る焚き火を見つめた

イシュマエル

今度もまた、彼らのために希望の狼煙を揚げることができるのでしょうか?