指揮官、到着しました
輸送機がゆっくりと広場に着陸する
この広場はふたつの山に挟まれており、1本の道路が広場から遠方へと延びている
少し離れて眺めると、ここは見つかりにくい隠れた場所だ
広場は、黄金時代の戦闘機の離着陸基準に基づいて設計されていた。設計当初、この「暗室」はそれなりの戦闘能力を備えていたようだ
輸送機を降りると、ルシアはこの地のパニシング濃度を調べ始めた
現在のパニシング濃度は、数日前のリーの報告データよりも高くなっています
周辺を調査してきます
通信が途絶えるなんて、かなり深刻な事態では?[player name]、支援を要請しましょうか?
輸送機のパイロットがコックピットの窓から顔を出して、訊ねてきた
了解です、どうかご無事で。連絡をお待ちしています
輸送機はゆっくりと離陸し、飛び去っていった
あそこが入口のようですね
イシュマエルが指差したのは、広場の正面――山の麓にある巨大な扉だった
この扉は山に依存する形で建てられており、山体がまるでスプーンで削り取られたようだった。この「暗室」の本体は、この山の下にある
扉は固く閉じられ、外界と隔絶していた
……外部から侵入された形跡はなさそうですね
待っている間に、イシュマエルが質問を投げかけてきた
リーとの通信が途絶え、ここの危険度は明らかに任務の想定範囲を超えているはず
それなのに、なぜパイロットの支援を断ったのですか?
彼女の口調には好奇心が滲んでいた。それは、何か別の思惑があるわけではなく、穏やかで自然な会話――まるで古い友人同士のやり取りのようだった
不思議なことに、自分は彼女に対してどこか懐かしさを覚えていた。まるで旧知の間柄のように
珍しいものじゃない……
彼女は自分の言葉の後半を小声で繰り返した
……これがあなたの日常ですか?
あなたの物語にとても興味が湧きました
彼女は唐突にそう言い、それ以上は何も言わなかった
困惑を感じたその時、ちょうど周辺調査を終えたルシアが戻ってきた
周辺に外部から侵入された形跡はありませんでした。パニシング濃度も正常範囲内です
内部からの侵入……
他の出入口……
[player name]の言う通り、他の出入口があるのかもしれません。それに関する資料は持ち合わせていませんが……
監察院が確認した資料は一部だけなので、他の出入口の存在は不明です
フトウは自分たちの逃げ道を確保するために、一部の情報を伏せている可能性があります
周辺を念入りに探索すると、遠く離れた山壁の陰に小さな扉を発見した
力で扉を破壊することはできなかった。周囲を調べてみると、付近の岩壁にひっそりと隠されたコントロールパネルを見つけた
リーフが任務に参加できず、リーも一緒にいないため、万が一に備えて解読装置を持ってきておいてよかった
コントロールパネルを確認し、ルシアがこちらに振り返った
解読には、およそ20分ほどかかるかと……
お手伝いしましょうか?
ええ
構造体が直接解読する方が、より効率的なのは明白だ
イシュマエルはコントロールパネルの前に立ち、手際よく解読を始めた
……2分ほどで終わります
どうやらこの拠点の人々がシステムに手を加えたようですね
所要時間を、ほぼ10分の1に短縮してしまった。これほどの演算能力を持つ構造体は、執行部隊の中でもほとんどいない
イシュマエルは、自分の「切り札」を見せたことを気にも留めていないようだった
2分後、ゆっくりと扉が開いた
行きましょう、[player name]
拠点に足を踏み入れると、そこはいくつかの乗り物が置かれた広い倉庫だった
武器に装備……彼らはすでに撤退の準備をしていたようですね
フトウが提出した資料によると、この地下拠点は全20階建てだ。そのうち地下7階から地下14階が居住区に改造され、彼らは当時地下12階にいた
地下12階に向かうのですね?
彼らが滞在していた区域を優先的に調査するのが、最も効率的だろう
倉庫を通り抜けると、目の前にエレベーターが現れた
指揮官、異合生物を発見しました
エレベーターの前に、それほど大きくない異合生物が2体うろついている
了解!
こちらに振り向いた異合生物が咆哮を上げた。明らかに人間の気配を感じ取っている
バン――バン――バン――
戦闘が始まった。ルシアは即座に加速し、まるで低空飛行する鳥のごとく右側の異合生物に突進した
冷気が拡散され、ルシアは手際よく異合生物を片付けた
一方――左側の異合生物に向けられた弾丸は、後発でありながら先に胴体に命中し、膨張して爆発した
少し問題が
イシュマエルは1台のエレベーターの前に立っていた
1列に並んだエレベーターの中で、1台だけ様子が違っている
エレベーターの扉が壊され、扉の前には大量の血痕が広がり、3人の遺体がエレベーターの中から外に向かって倒れていた
このエレベーターは内側から破壊されていますね
エレベーターで上がったあと、異合生物がエレベーターシャフトを使って追いかけてきたのでしょうか
この事件が発生してから……まだ1時間も経っていませんね
床の痕跡を簡単に確認し、イシュマエルは結論を導き出した
そうかもしれませんね
彼女の顔に浮かぶ微笑を見た瞬間、イシュマエルはここで起こっていることをすでに知っているのではないかと思った
指揮官、こんなものが
ルシアが遺体から発見したのは、空中庭園製のメモリーだった
恐らくリーが残したものです
メモリーを端末に接続すると映像が流れた
状況を報告します
いくつかのルートにこの映像を残しておいたので、必ず見つけられるかと
任務情報に基づきこの拠点を訪れ、拠点のリーダーであるフトウと接触しました。話し合いは順調でした
しかしつい最近、この拠点内で異合生物の集団が発見されました。主に地下5階から地下9階に集中しています
ここの通信は完全に遮断されています
ここの避難者が多すぎるため、先に彼らを階下へ避難させて異合生物から遠ざけるつもりです。なので……
リーは少し間を置いた
僕はここをすぐに突破できないので、このような形で情報を伝えることにしました
映像の中のリーは難しい表情をしていたが、口調は依然として冷静で、現在の状況を簡潔に説明していた
現在、僕たちは地下12階にいます。突破速度から推測すると、1~2時間後には地下17階から地下19階に到達し、そこに一時的に避難する予定です
今から、ここのリーダーより拠点に関する情報を伝えてもらいます
リーが横に移動してフレームアウトすると、九龍風の装いをした男性が映った
私はフトウ、この拠点のリーダーだ。以前、空中庭園に連絡を取ったのは私だ
彼の表情には、僅かな焦りが見えた
無駄話は省略する。我々の精鋭チームを派遣して突破させ、この映像を持ち出させる
この映像を観たら、すぐにできるだけ多くの応援を呼んでほしい
この拠点には防御システムが備えられていた。それを、緊急時の避難をサポートするように改造していたのだが……
予期せぬ事態が発生し、防御システムが勝手に作動してしまった。もうこのシステムを誰も制御することができない
地下6階と地下7階の間が封鎖され、誰も外に出られない状況だ
部下にダクトを通って封鎖を突破するよう指示する
この映像が届くことを願っている。ここにいる数千人を死なせるわけにはいかない
映像はそこで途切れた
やはり……
「暗室」には、特殊な状況に対応するために設計された防御システムが備わっています
内部の人間、あるいは……何か他のものが外へ逃げ出すのを防ぐためでしょう。要するに、内部を完全に封鎖するためのものです
彼らは、もともと「暗室」にあった防御システムを利用したと言っていました
そしてそれを改造しましたが、その改造方法が甘かったのでしょう。防御システムを使って外部からの侵蝕体の侵入を防ごうとしたようですが、明らかに……
逆効果になっています
指揮官、どうしますか?
リーとの通信はすでに途絶えており、階下では通信が妨害されている可能性が高い
フトウの話によると、地下6階と7階の間はすでに封鎖されており、地下5階から9階にかけて異合生物が出現している。ただし、ダクトは使えるようだ
リーが残した情報によると、彼らは現在地下19階に避難しているはずだ
皆でエレベーターに乗り込み、地下4階へと向かった
その間、試しに地下7階以下のボタンを押してみたが、やはり封鎖されており、ボタンが反応することはなかった
通路
地下9階から地下10階の間
道中で遭遇した異合生物は多くなかったが、階を下る度に防護壁に直面した
ルシアの力で防護壁を突破し、着実に下の階へと進んだ
「地下10F」と大きく書かれた壁まで進むと、イシュマエルが足を止めた
グレイレイヴン指揮官。ここで一旦別行動を取る必要がありそうです
はい。資料によると「暗室」の中央制御室は地下10階にあるそうなので
イシュマエルは何も答えず、変わらずミステリアスな笑みを浮かべた
この瞬間、任務情報にあった「監察院のメンバーの身の安全には責任を負わない」という1文が頭をよぎった
自衛はできますのでご安心を
話している最中、イシュマエルの背後に突然異合生物が現れた
しかし、イシュマエルは後ろを振り返ることなく、静かに左に1歩移動し、異合生物の爪は大きく空を切った
彼女は腰から素早く銃を引き抜くと、体を捻りながら異合生物の頭に弾丸を撃ち込んだ
その間、イシュマエルの微笑みは少しも揺らぐことはなかった
私も構造体ですから、演算で攻撃を回避するのはそう難しいことではありません
ご覧の通り
異合生物は地面に倒れ込んだ
中央制御室で「暗室」の防御システムを制御してみます
もしかすると、ロックされた防御システムを解除できるかもしれないので