Story Reader / Affection / イシュマエル·幻日·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

イシュマエル·幻日·その1

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北極航路連合の雪は決して溶けないと言われている。ここの土地は冷たく、硬く、痩せており、昔から人が住むには適していない

ここでうめき声をあげる冷たい風は、どこか鬱々としている。まるで、この土地に住む人々のようだ

厳しい環境、乏しい食料、滅多に顔を出さない太陽……ここで生まれる文学ですら、悲壮感を隠せない

しかし、その悲壮感とは対照的に、永久凍土の上で走らせるペン先は、常に魂の躍動を描き、いつも燃えるように熱い

各港間を航行するのは、北極海を征服した高速砕氷船だけではない。そこには、ここに住む人々の熱き血と酒も含まれている

今、この凍土は地球上の最後の人間を受け入れたのだ

キャンプの焚き火は星空の下ではひときわ弱々しく見える。しかし、人々に闇を払う力を与えてくれる

まもなく冬が訪れる。未来は依然として不確かだが、焚き火の前に集まった人々は、今だけはその悩みから解放される

流浪の歌手はゆっくりとギターを取り出した。まるで生まれたての赤ん坊を扱うように丁寧で優しい――今では、ギターの新しい弦を手に入れられる場所などどこにもない

彼女はギターを持って体勢を整え、咳払いをした。燃え盛る薪から飛び散る火花に合わせて、歌声がキャンプ中にゆっくりと漂い始めた

流浪の歌手

{226|153|170}私たちは黄金の日々の塵の中を歩んでいく{226|153|170}

イシュマエルは、その歌声に惹きつけられた

彼女は人混みを抜けて焚き火の側に座り、フードを取って、静かにその歌に耳を傾けた

流浪の歌手

{226|153|170}灰の残響の中で{226|153|170}

{226|153|170}私たちは新しい始まりを見つける{226|153|170}

イシュマエル

新しい始まりを見つける……

彼女は炎の中に、おぼろげなある姿を見た。それは、まだ幼い<phonetic=自分>姿</phonetic>だった

音が消え、炎が静止した

周囲の全てが本の1ページのように見える

イシュマエルはそっと手を上げ、ページをめくってみた

すると――

一瞬のうちに、炎、歌声、遠くの星空までも、全てが遠くへと消え去った

時間は本となって、ページが前にめくられていく――

ここで起きていることは、いわゆる「神」の仕業かもしれない。人には手の届かない領域

あるいは、ページなど最初から存在せず、ただイシュマエルという存在が過去を思い出しているだけかもしれない。もう触れることのできない過去を

夢から覚めても、また夢に落ちるかのような感覚に陥る――イシュマエルの耳にぼんやりと届いたのは、流浪の歌手の歌声ではなく、記憶の中の懐かしい声だった

???

イシュマエル?

イシュマエルは声がした方向に目を向けた

イシュマエル

師匠

ラハイロイはいつもの笑みを浮かべながら、彼女の側にやってきた

ラハイロイ

夕食に来ないと思ったら、まだここで本を読んでいたのね

アイたちがあなたを探してたわよ

イシュマエル

あっ……

イシュマエルがバーチャルパネルを呼び出すと、友人からのメッセージがたくさん溜まっていた。メッセージは増え続け、アイコンに炎のマークがついている

イシュマエルはバーチャルパネルに向かって真剣に謝罪し、それをビデオで送信した

友人を取りなしたあと、イシュマエルは振り返って師匠を見た。師匠はイシュマエルが読んでいた本を手に取っていた

ラハイロイ

紙の本を好むなんて、私の流儀にぴったりね

イシュマエルは微笑んで答えた

イシュマエル

古の言葉の通り――弟子の流儀は師匠に由来するので

ラハイロイはそっと本のページをめくり始めた

「この不等式はシステムに流入する熱量と……」

「その後の学者たちは、元の理論に新たな仮定を導入し……」

「これにより、この原理が……を証明……」

ラハイロイ

プライベートの時間まで、こんな小難しい本を読むなんて……しかも、この内容はすでに知っているでしょ?

イシュマエル

ただの暇つぶしです

ラハイロイ

あなたは真面目すぎるのよ。もっと自由にのびのびとすればいいのに

若者らしいことをしてみるのもいいんじゃない?

本のコードを見せて

ラハイロイ

……あ、ここにあった

彼女がイシュマエルの本を指でトントンと2回叩くと、印刷された文字が急速に変化し始めた。ページを埋め尽くす文字が魔法のように動き出したのだ

ラハイロイが本を閉じると、本のタイトルが『灰色の星の伝説』に変わっていた

彼女は本をイシュマエルに返した

ラハイロイ

たまにはフィクションを読むのもいいわよ

イシュマエル

はい、読んでみます

ラハイロイは、呆れたようにイシュマエルの額に手をやった

ラハイロイ

あなたって子は……

じゃあ、私はもう行くわね

背中を向けた師匠を見つめて、イシュマエルは一瞬ためらってから立ち上がり、呼び止めた

イシュマエル

師匠

ラハイロイは振り返り、目の前に立つ弟子を見つめた。弟子は少し心配そうな表情を浮かべている

ラハイロイ

どうしたの?

イシュマエル

本当に実験に参加するつもりですか?最近、なんだか不安になってきて……

ラハイロイは一歩前に出て、娘のように可愛い弟子に向かって微笑んだ

ラハイロイ

心配しなくていいのよ。これは名誉ある職務で、私の願いでもあるんだから

彼女は少し顔を上げ、いいアイデアがひらめいたというような表情をした

ラハイロイ

一緒に夕食でもどう?最近、ある星に人気のレストランができたらしいの。一番人気のコースはふたりじゃないと頼めないんですって。ちょうどいいでしょ?

イシュマエルはいつも通りの師匠を見て、ほっと胸をなでおろした

イシュマエル

ぜひご一緒させてください

笑顔はその一瞬に止まり、遠方から風が吹いてきた

そして、全ての記憶がページのようにめくられていった

対流圏を飛行中の輸送機が発する微かなホワイトノイズが、乗客の眠気を誘っていた

しかし、突然の揺れで全員が目を覚ました

隣のルシアは即座に警戒態勢に入った

通信チャンネル

コックピットより報告。現在、乱気流に入りました

通信チャンネル

これから少し揺れますが、すぐに収まります

この揺れで、自分も眠りから目覚めた

指揮官、お目覚めですか?

もう少し休まれた方がいいのでは?

少し体を伸ばす。以前の傷はほぼ治ったものの、ヒポクラテス教授は「更に十分な静養が必要だ」と言った

私も指揮官が今、任務に出るのは賛成できませんが……

白夜の事件以降、グレイレイヴンは少しずつ低強度の任務を担うようになった。今回の任務もそのひとつだ

リーフは意識海に生じる鈍痛が原因で、スターオブライフで定期検査を受けることになったため、最近の任務には参加していない

深呼吸をし、気持ちを切り替える。今の自分は任務に集中する必要がある

その時、視界の端に見慣れない姿が入ってきた

ピンク色の髪をした女性が、静かに微笑みながらこちらを見つめている

相手は声をかけられるのを待っているようだった

お久しぶりです、グレイレイヴン……の指揮官。私は監察院のイシュマエルです

「あなた」と私は初対面ですね

「あなた」と私は初対面ですね

イシュマエルという女性は、依然として微笑みながらこちらを見つめている

「ミステリアスで穏やかな先輩」――それが、イシュマエルの最初の印象だった

突然湧き上がってきたある考えを、頭の中から振り払った

その通りです

任務情報には、監察院のメンバーが一時的に同行すると記されていた

はい

任務情報によると、今回の任務地はかつて世界政府によって建設された地下施設だ。そこは、パニシング爆発後に廃墟となった

歳月が流れ、地下施設は地上の住民によって発見された。そして、保全エリアのような拠点に改造され、現在では数千人を収容する施設となっている

「4日前、この拠点のリーダーであるフトウが空中庭園に助けを求めた」

「フトウによると、ここ数週間で拠点の外のパニシング濃度が徐々に高まっているとのこと」

「異合生物の出現頻度も上がっている」

両者が得ている情報は、ほぼ一致していた

「拠点の人数、4364人」「任務目標、住民の移送支援」

彼らは他の保全エリアへ向かう、ということですか?

[player name]

リーダーであるフトウが、これ以上は住めないと判断したそうです。もし外のパニシング濃度が外出困難なレベルに達したら、全員が地下拠点で死を待つことになる……

……今回の任務概要はすでに端末で共有されているはず。[player name]、あなたの目的は単なる情報確認ではないのでしょう?

ピンク髪の女性が悟ったような表情でこちらを見た

何か訊きたいことでも?

完全に任務に参加するとまではいかないようだ。任務の記述を見る限り、イシュマエルは今回の任務に便乗したように見える

更に興味深いことに「今回の同行任務における監察院のメンバーの身の安全には責任を負わない」という1文があった

監察院の行動は常に秘密裏に行われ、彼らが地上に降りるのは非常に珍しく、地上の他勢力にもそれほど関心があるわけではないだろう

彼らの職務を考えると、今回の任務は世界政府に関連しているのだろうか?それとも地上……黄金時代に残された問題にまつわるものなのだろうか?

同じ空中庭園に属してはいるものの、この任務の指揮官は自分であり、彼女の真の目的を確認する必要がある

しばらく考えたあと、ピンク髪の女性は少しミステリアスな微笑を浮かべた

「暗室」という存在を耳にしたことがありますか?

イシュマエルは意外にも率直だった。そして、穏やかに過去の秘密を語り始めた

「暗室」は世界政府が設立されたあと、密かに建設された施設のことです。数は多くありませんが、それぞれの「暗室」には異なる役割があります

要するに、秘密の研究所のようなものです

いいえ

当時の科学理事会は名目上、世界政府の下部組織でしたが……必ずしも言いなりというわけではありませんでした

両者の間には、協力もあれば駆け引きもありました

世界政府は絶対的に従順な研究機関を必要としていました

そこで研究されたものは、今の観点からすると必ずしも先進的な成果とはいえませんが、監察院にはそれらの研究資料の調査と回収を行う義務があります

その通りです。フトウが空中庭園に連絡を取ったことで、この「暗室」の存在が一部の人々に知られてしまいました。そのため、監察院が資料を回収する必要があるのです

イシュマエルは微笑んだ

今回に限ったことではありません

ご心配なく。あなたの戸惑いは理解できます。監察院が……

彼女は言葉を止めると、言い直した

私は特別な目的を持っているわけではありません。今回の任務では、あなたの指揮に従います

私の行動に配慮する必要はありません。撤退前に私の「任務」を完了させますので、あなた方の行動の邪魔はしないとお約束します

彼女の顔には、相変わらず少しミステリアスな笑みが浮かんでいた

気のせいかもしれないが、彼女の微笑みにどこか「面白がっている」感情が見えたように思えた

通信チャンネル

コックピットより報告。10分後に目標地点に到着します

指揮官、リーとの通信が復旧しました

目標地点が地下にあるため通信が大幅に制限されており、ようやくリーと通信が繋がった

端末を開いてリーと通信を始めたが信号は安定せず、映像の中のリーの姿がかなりぼやけていた

想定外……発生……パニシング……異合……発見……

一時的に……抵……撤退……

続いて聞こえたのはリーの発砲音だった。そこで、通信は途絶えた

指揮官、通信が妨害されています!