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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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八咫·徊閃·その5

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ここにサインをしてくれれば、この食材を持っていって構いません

今回の祝賀会は予想以上の規模になって、食材はまず民間の屋台に優先して配られています。なので、おふたりにあまり多く割り当てることができないのですが、ご理解ください

見慣れたスタッフ、見慣れたカート。道の向こう側を見ると、祝賀会の準備で盛り上がっており、至るところから集まった観光客の数も徐々に増えている

確認してサインをすると、予備の食材がカートに積まれていった

あー、皆がこんなに楽しそうな姿を見れるなんて、今日の残業も報われます

頑張ってくださいね。後で仲間と一緒に、あなたたたちの屋台を覗きに行きますよ

屋台に戻ってみると、八咫が手際よく屋台をセッティングしている様子が遠くに見えた

数本の機械のアームを器用に動かし、収納ボックスから手作りの装飾品を取り出して、小さな屋台を素早く飾りつけていく。その様子に、通りがかりの人も足を止めて見入っていた

八咫は下を向いて準備に集中していたが、こちらが近付くとパッと顔を上げ、人込みに紛れた自分を見つけ出した。その反応の速さには本当に驚かされる

これだけ?ちょっと種類が少ない気がするけど

あ、それならしゃーなし。皆にちゃんと行き渡らないとだもんね

よっし、この材料で作れるレシピは?早く準備しないと間に合わなくなっちゃう

うん……どうやら、作れるのはこれだけか

八咫は食材を確認し、手元のレシピを指差した

うん、他のメニューは食材が足りないし、これで決定

話している間も八咫の機械のアームはテキパキと動き、コンロや型、そしてすでに用意されていた具材まで、一瞬の内に必要な物をほぼセッティングし終えた

さあ、作業開始。手伝って

八咫が手にしたレシピに従って、生地を混ぜ始めた。手順はとても詳しく書かれているが、なにぶん字が荒い。一部の文字は読み取るのすら難しい

ちょっと見せて——えっと……

やっぱり書道部もやっとくべきだったか……

何度か試してみればいいじゃん……努力すれば、きっとうまくいくって

6本の手で6つのたこ焼きを器用に回し、一瞬の内に船形の紙トレイに綺麗に並べていく

八咫はその中のひとつを爪楊枝で刺し、真っ先に味見をした

表情をほとんど変えず、頬を膨らませながらゆっくりと咀嚼している

……記憶している味とちょっと違うような

アンタも食べてみる?

八咫は紙トレイから香ばしいたこ焼きをひとつ爪楊枝に刺し、自分の口元に持ってきた

噛んだ瞬間、中から辛い風味が口の中へ一気に広がった

刺激的な香りが鼻を抜け、調味料に口を攻撃された感じがした

おっ!アンタ、大当たりじゃん!

八咫はすぐに桜ソーダの缶を開けて差し出してきた

これ、部活で考えてたサプライズ。たこ焼きにワサビ入りをひとつ混ぜて、食べた時のリアクションの楽しみもあるようにしたの

これを食べた人は、今日のことを忘れられなくなるじゃん

――だからさっき作った時、アンタに当たればいいなって

悪い悪い、ジョークの量じゃなかったね

さあさあ、残りのたこ焼きも食べてみて。もうワサビ入りはないって保証する!

そんな顔しないでよ……本当に入ってないって。なんなら、私が先に食べよっか?

八咫は連続してふたつ食べたが、どこか納得のいかない顔をして、首を振った

なんか、まだちょっと味が物足りない

八咫はレシピを何度も見直したが、掠れた文字がイラつくのか、眉根を寄せて渋い顔をしている

うん、私たち結構手際いいしね。何回か試せばいいや

新たに調整して生地を混ぜ合わせている時、ある人が屋台の前で足を止めた

彼は屋台の前に置かれたコイン式ミニロボットをいじり始めた。それは陸上部のミユキの力作だった

手元から目を離して顔を上げると、そこにはひとりの老人の優しげな笑みがあった

君たちも屋台を出すって聞いてな。ちょっと見に寄ったんだ

わぁ、森田のおっちゃんじゃん!らっしゃい!

ははは、たこ焼きか。昔は私もこれでやっとったよ

じゃあ味見してやろう。何かアドバイスができるかもしれんよ

森田のおじさんはたこ焼きを爪楊枝に刺してぽんと口に入れ、じっくりと味わった

どう?

……うん、基本の味はこれでいい。生地に醤油を少し加えてみるといいかもしれんな

それと、全体的に味がちょっと薄いな。鰹節は試してみたか?

まだ試してない、それって生地に混ぜんの?

簡単だよ。焼き上がったたこ焼きの上に直接振りかけるだけ。後はマヨネーズを足すと味にコクが出るよ

ありがと、試してみる!

老人のアドバイスを聞いて、八咫と一緒に再び息を合わせてたこ焼き作りに取りかかった

森田のおじさんはニコニコと笑顔を浮かべながら白い髭をなで、屋台に飾られた小物を眺めていた

八咫よ、この小物はどこで見つけた?

部活の教室。さっき学院に行ってきたの

これ、売るつもりか?

欲しい人がいればね。もともと、文化祭の売りモン用だし

売れたら本望だし、売れなくても、思い出の品物に新鮮な空気を吸わせられたら、それでいいや

そうか、興味がありそうな人が何人かいてな……いくつか持って行ってもいいか?

いいよ、でも壊さないでね。もし断られたら、ごめんだけど戻して

このカートを借りても?

ははは、どういたしまして。それじゃ、商売の邪魔をしないようにもう行くよ

森田のおじさんはいくつかの工芸品をカートに載せ、ゆっくりと人の流れに紛れて立ち去った。そうこうする内に、ふたりで新しいたこ焼きを焼き上げた

ホカホカのたこ焼きは黄金色に輝いている。八咫はマヨネーズを塗って鰹節を振りかけ、ひとつを刺して味見した

ふむ……

求めてた味!

アンタが作ったマヨネーズもいい味!ほら、食べてみて!

返事を待たずに、八咫はすぐに新しいたこ焼きを刺した。芳醇な香りが鼻先をくすぐる

八咫の手から爪楊枝を受け取り、ふたりの努力の結晶をじっくりと味わった

八咫の手から、たこ焼きがそっと口に入れられた。薄くてやわらかい表面に歯を立て、ふたりの努力の結晶をじっくりと味わった

目を輝かせた自分の様子を見て、八咫も嬉しそうな笑みを浮かべた

そして八咫は手を上げた。わかりやすくこちらの反応を待っている

軽快なハイタッチの音は、ふたりが困難を乗り越えたことを告げるとともに、屋台の営業が本格的にスタートした号砲でもあった

仕込みをしていると、遠くからカートの軋む音が聞こえてきた。森田のおじさんが急ぎ足でふたりの屋台に戻ってきたのだ

森田のおっちゃん!グッドタイミング、私たちのたこ焼きが完成した!おっちゃんの分も取っておいたから——

ん?カートになんかたくさん食材積んでるけど、どした?

一目散で伝えに来たんだ。あの工芸品が気に入った人が数人いて、これらの食材と交換したいと言ってる。どうだろう?

八咫は新しく届いた食材をいじりながら、考え込んだ

その人たちの屋台に影響は出ない?

何人かの屋台の主人が黄金時代の小物をとても気に入ってね。それぞれ食材を選んで、君たちに届けてくれと。この量なら、彼らには影響がないから大丈夫だろう

じゃあ喜んで!この食材、他の料理に足りなかったものばかりじゃん

指揮官はどう思う?

よーし、それじゃあ取引成立!

あ、そうだ、取り扱いは丁寧にって伝えて。特にミユキのミニロボットは私が修理したから、壊れやすい

わかった。じゃあ、ふたりは準備に戻って。カートはここに置いておくよ。私はこれで……

ちょっと待ってよおっちゃん。このたこ焼き、持っていって

ははは、ありがとう!君たちもな!

祝賀会のスタートまであと10分。八咫はちらりと時間を確認して、こちらを向いた

周囲の声が徐々に賑やかさを増す中、八咫は拳をこちらに突き出してきた

祝賀会が始まるね

今夜は一緒に頑張ろう、ファイトー!