Story Reader / Affection / 八咫·徊閃·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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八咫·徊閃·その4

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音楽部の教室を後にすると、八咫は自分を連れて、慣れた様子で陸上部のある場所へと向かった

グラウンドからそれほど離れていないが、確かに部屋はかなり狭くなった。八咫はそのまま部屋の奥へと進み、隅々まで徹底的に探し始めた

金属製の棚にはトロフィーやメダル等、活動の成果がずらりと並べられている。そして、丁寧に額に収められた集合写真が最も目立つ場所に飾られていた

中央の1枚に、表彰台で八咫と部員たちがハイタッチする瞬間が収められていた。そこには、溢れんばかりの活力と眩しい笑顔が留められていた

左側には練習中のさまざまな場面が並び、右側には皆で遊んだり食事を楽しんだりする様子が収められている……

ここに刻まれているのは、純粋な喜びの瞬間だ

構造体となった彼女はこちらに背を向け、ロッカーに身を埋めて何かを探している

ふと気付いた。出会ってから今日一日一緒にすごした時間を振り返ってみると、写真の中のような明るく弾けた八咫の笑顔を、ただの一度も見たことがない

飾られた写真を眺めていて、ある思いが巡った——もしパニシングという名の災厄が起こらなかったら、彼女は今、一体どんな人になっていただろう?

あった——

突然、八咫の声が、際限なく続いていた自分の想像を遮った

やっぱりね、さすが私の記憶力

そう言いながら、八咫はロッカー奥の陰影に体を埋めた

当ててみな?

八咫はひょこっと顔を出して、こちらを見ながら言った。機械のアームは暗闇の奥を探り続けている

半分正解ってとこかな——あ、掴めた!ちょっと手伝って

暗がりの隅から埃がもわっと舞い、金属が床を擦る音が響く。八咫の機械のアームが重い箱をゆっくりと引きずり出した

近付いて八咫と一緒に箱の片側を持ち上げ、ずっしりと重い箱を教室の中央に運び出す

八咫はしゃがみ込んで箱の埃を拭い、スイッチを押した。パスワード入力画面が浮かび上がり、青白い光が彼女の顔を照らした

よし、多分パスワードは……これのはず

指が仮想スクリーンの上を素早く行き来し、1列のアスタリスクが表示されると、画面が緑色の光に変わった。その直後カチカチと2回音が鳴り、ロックが解除された

やっぱり……あの連中、いっつも部の創設日をパスワードにするんだよね

どれも……使えなかった未練の塊ってやつ

ほら——

八咫は箱から手作りの電光掲示板を取り出した。彼女がそれに触れると、ちらつきながら淡い光が灯った。その光が形作る文字が視界に浮かび上がる——

そう、これは当時、私たちが文化祭に向けて準備したもの

これ、ユキムラってやつがデザインした宣伝用の看板。部活のスローガンが書いてあるの

そうそう、それそれ

「友よ走れ!」

ひとりでこんな熱血セリフって、ちょっと痒い感じ……

それとこれ!ミユキって子が作ったコイン式ミニロボット。コインを入れると縁起のいい言葉を話すんだ

「ご投資感謝!よっ、太っ腹——」

……みたいな感じの

八咫は箱の中から色々な物を取り出し、紹介している間中、ずっと笑顔を浮かべていた

だって、本当に探してたのはこれだから——

八咫は力を込めて、箱の隅から黄色い布の束を引っ張り出した

縞模様の防水シートが出てきた。光を反射し、軽く振ると埃がふわりと舞い上がった

そう。もし急に雨が降ったら、祝賀会が台無しになるじゃん

多くても困んないでしょ

八咫は防水シートを丁寧に畳んで脇に置くと、再び宝物が詰まった箱に視線を戻した

ところで……

八咫は顔を上げた。その表情には少しの好奇心が滲み出ている

他に何を用意する?

まぁ、ほぼ正解かな

野球もアリだけど、その言い方って含みがあるよね……

彼女は更に奥に手を伸ばし、小さなノートを取り出した

アンタだけに答え。絶対に誰にも言わないでよね

八咫が小さなノートを開くと、荒々しくも大胆な文字が綴られていた

そう、当時は電子書籍が嫌いで。だから、わざわざノートに書いてた

これだけ年月が経ってりゃ、もし端末にデータを保存しててもきっと壊れてた。だから先見の明があったってことよね

興味があるっていうか……あの頃はただ、陸上部の名を上げて、皆に悔いを残させたくなかっただけ

文化祭では、生徒たちの評価で一番人気のある部を選ぶんだ

陸上部が文化祭でブースを出すっていっても、展示するものがないじゃん?

選ばれるのは見た目が派手で人気の部活……アニメ部やゲーム部とかよね

だから考えたんだ。陸上部のブースで料理を出せば、食べ物で釣れるじゃんって

でも残念、部員は全員……料理なんてまったくムリってメンバーばかりだった

だから、ゼロから少しずつ学ぶしかなかった。料理部の人たちも手伝ってくれたんだ

ふふっ、まあね。それから森田のおっちゃんにもお願いして、秘伝の鯛焼きレシピを教えてもらったの。お礼に、いろいろと面倒事を解決してあげて……

——ちょっと、茶々を入れんなって

森田のおじさんが話していた大げさなエピソードを思い出したのか、八咫は苦笑いを浮かべながら、機械のアームでこちらを軽くつついてきた

とにかく!色々頑張ったから文化祭が始まる前には、自信を持って出せる料理を何品か覚えたんだよ

そうもいえるかな。あの時はただ、文化祭を楽しみにしてる部員をガッカリさせたくないって思ってただけだけど

八咫は俯いて、指先で黄ばんだ紙をそっとなでながら、口を開いた——

文化祭の前日、いきなりすごい台風がやってきてさ

文化祭は中止になって、それきり……

八咫は目を閉じ、全ての夢を打ち砕いたあの災厄について、詳細を語らなかった

最初はただの小雨だと思って、シートで十分って考えてた。あんなことになるなんて誰も予想してなかったし

人工島の天気は変わりやすいんだ、スコールもしょっちゅう。今回の祝賀会も皆、時間をかけて準備してきたじゃん。また雨で台無しなんてイヤでしょ

あの時はできなかったけど、今回は……同じ轍を踏みたくない

天気なんて自分じゃどうにもならないけど、できる限りの準備をしておくのが私の流儀なの

……うん、アンタの言う通りかも

古びた教室の中、かつてここですごしていた人物が、ここにまつわる物語を語っている

八咫の目の前には、長らく眠りについていた品々が並んでいる。彼女は懐かしそうにそれらを手に取って眺めていた

必要なものは全て見つかった。八咫はゆっくりとそれらを収納ボックスに戻しながら、名残惜しそうな表情を浮かべていた

ん?

彼女は動きを止め、顔を上げてこちらの目を見た

どういう意味……?

街は整備され、祝賀会の準備は万端、島は活気に溢れている

外から吹き込んできた風がノートのページをめくり、パラパラと音を立てた

一瞬で、彼女の口元に笑みが浮かんだ――自信に満ちた表情が甦る

八咫は高く手を上げて、パチンと爽やかな音を立て、こちらとハイタッチを交わしてきた

いいじゃん!やろう!

ラジャ!それじゃ交渉はアンタに任せて、私は……ちょっと離れるけど、すぐに戻る

祝賀会のスタッフに手短に要望を伝えると、快く場所を調整してくれた

八咫

ゴホン、ちょっと——こっち向いて

端末を置いた瞬間に、背後から馴染みのある爽やかな女性の声が聞こえてきた

こんばんは、[player name]ちゃん

八咫が黒い制服を身に纏っている。赤い三角タイが風に揺れていた

彼女は颯爽として、澄んだ目を輝かせている。まるで現役の女子高校生が目の前に立っているようだった

まぁ、ほぼそれ。記憶を頼りにカスタムした塗装。空中庭園から持ってきてた

で、屋台の場所は確保できた?

八咫は今回集めた品々を手に取り、こちらを見ると、人けのない窓の外を指差した

果てしない空から夕焼けの色が完全に消え、星がちらちらと輝き始めている

オンユアマーク?

おっけ!今回は全力で、思う存分楽しむ!