……それから妻と一緒に、少しずつこのバーの経営を軌道に乗せていったんです
どうです?感動的なラブストリーでしょう?
あれ、そうですか?話し方が悪かったかな。でも、私にとっては感動的な……いや、天地がひっくり返るほどの衝撃的ストーリーなんですよ、ハハハ
そうでしょう、指揮官ならわかってくれると思いましたよ!
サービスでもう1杯お作りしますね!
パパ、ラム肉の串焼きが食べたい。隣のお店のやつ
そう言われてチャールズはお金を取り出し、レイに手渡した
レイが走って店を出ていくのを見送りながら、チャールズは微笑んだ
でも、改めて振り返ってみると、あっという間にこんなに時間が経っていたんですね。姉御にもパートナーができているし
知ってるんですよ、支援部隊には姉御を慕うやつが大勢いる
この事実を知ったら、大勢が泣き喚くと思いますよ
ちょ……
んん!?
出た、ブリギットのイタズラな視線だ!
なるほど
すみません、失言でしたね
チャールズは小皿に入ったピーナッツを差し出し、そっと奥にさがった
ブリギットはグラスを持ち上げ、また一気に電解液を飲み干した
「実は、自分たちは……」
彼女はニヤリと笑った
さあ、何を言うつもりだったか白状して?指揮官
指揮官って、私が思ってたよりずっと大胆なのね
鼻が空まで伸びてるわよ!
ただの友達なの?
ああ、悲しい答えね!
これからはもうデートに誘わない方がいいのかなあ
まさかグレイレイヴン指揮官がこんなに――冷たい人だったなんて!
おどけて笑ったあと、ブリギットは表情を元に戻した
でもね、だからこそ私たちの関係を……
言葉の途中で、ふいにブリギットが距離を詰めてきた
もう一歩、進めてもいいかもよ?
そして、彼女はすぐに元の位置に戻った
コホン、なんでもないわ。さぁ、乾杯、乾杯!
金色の液体がグラスの中で揺らめいた。グラスがカチンという澄んだ音を立てると、白い泡が波のように立ち上がり、液体が豪快に喉へと流し込まれた
皆が談笑をしていると、店の後方の窓から突然濃い煙が立ち昇った
次の瞬間、店の警報が大音量で鳴り響き、客たちが大慌てで立ち上がった
――大変です、オーナー。隣の店から突然煙が!
張姉さんの店か!?
いえ、反対側の――ニコラス炭火焼き店です!
レイがいる!
私に任せて!
指揮官はお客さんたちの避難誘導を。チャールズは消火器を探して。そこの店員さん、そう、あなたよ。あなたは消防部とスターオブライフに連絡を!
素早く指示を出し、ブリギットは外へ飛び出した
通して!支援部隊隊長のブリギットよ!
市民を避難させたあと、火災現場を振り返った
ブリギットが突入してからすでに2分が経ち、火の勢いは想像以上に強くなっていた
レイ……
ええ
遠くからこちらへ走ってくる3人の姿がチラリと目に入った
何があったんだ!?
俺たちは支援部隊の隊員です。何か手伝えることは!?
バンッ――
扉を蹴破る大きな音が響いた
姉御!?
レイを抱えたブリギットが店内から飛び出してきた
レイ!
パパ――!
抱き合う親子を見つめるブリギットの目に、一瞬寂しそうな表情が浮かんだが、それはすぐに消えた
ブリギットは「高壁」たち3人の方を振り返った
ちょっと、登場タイミングが最高じゃない!
「高壁」、「コルサック」、「トカゲ」、指示を出すわ!
はい!
火災の原因は、今のところ電気回路の老朽化のようね。私たち支援部隊は建物の中に入って消防部が到着するまで、できる限り火勢を抑えるわよ
わかった!?
了解です!
行くわよ!
4人が身を翻すと、つられるようにすぐ側にいたチャールズが半歩踏み出し、そこでぐっと足を止めた
振り返ると、レイがチャールズのズボンを掴み、じっと彼を見つめている
…………
ブリギットはその光景に気付いた
一般市民と構造体ではない人は下がって、早くここから離れて!
[player name]、彼らのことをお願い
事態が完全に収束したのは、すっかり夜が更けてからだった
幸い、対応が早かったため負傷者は出なかった
ブリギットは離れた場所で消防部の人と話をしている最中だ
彼女がその人と握手を交わし、こちらに向かって歩いてくるのが見えた
姉御、ありがとうございました
眠そうなレイを抱えながら、チャールズはブリギットを迎えるように近寄った
お礼なんて。姉御を何だと思ってるのよ
缶入りの電解液1パックをもらうわね。もう夜も遅いし、レイも眠いでしょ?あなたは早く家に帰りなさい
ブリギットは電解液を手に取ると、お金をカウンターに置き、こちらに振り向いた
行きたい場所があるの。ちょっと付き合ってくれる?指揮官
歩き出したあと、背後からチャールズが大声で叫ぶのが聞こえた
また来てください――おふたりは永久に3割引です――
ブリギットは振り返らず、ただ手を上げて「OK」とサインをした