ブリギットと一緒に、観光ブリッジにやってきた。宇宙船のブリッジと似た構造をしており、地球を――つまり、46億年育まれた奇跡、人類の故郷を一望することができる
もの寂しく静かな宇宙の中で、その存在は美しく、孤独だ
雄大な彼女の前では空中庭園など、まだへその緒も切れていない赤子のようなものだった
ブリギットはおもむろに電解液を置いて、観光ブリッジにあぐらをかいて座った。自分もその隣に並んで腰を下ろす
綺麗でしょ?ここはほとんど人が来ないから、気に入ってるの
前は、悩みごとがある時はいつもここに来て、気晴らしをしていたわ
ブリギットはそっとうつむいた。前髪が瞳を覆い隠し、彼女の感情までも見えなくした
[player name]、もしね……
もしパニシングがなかったら、今頃どんな暮らしをしてるのかって、考えたことはある?
そっか……
ブリギットは黙ったまま地球を見つめていた
ここに座って地球を眺めていると、どうしても考えてしまうの……
パニシングがなければ、父も母も死ななかったのに、って
きっと普通の子供時代を過ごしてたはずね。学校に通って、週末は両親と一緒に街へ出かけるの
多分、母は私にダンスを習わせたでしょうね。父にワルツを教えたって、いつも話していたから
それから、綿あめ……
ブリギットの声が沈んだ。彼女は少し間を置いてから、話を続けた
初めて食べた綿あめは、父が買ってくれたの。あの時の私は、まだすごく小さくて、他の記憶はおぼろげなんだけど、これだけは覚えてる……
すごくすごく、甘かった……
彼女はぐっと顔を上げて電解液を勢いよく飲み干し、そのまま後ろに倒れるようにして床に寝そべった
こんなに「弱々しい」ブリギットを見るのは初めてだ。どう言葉をかければいいのかわからず、自分も彼女と同じように横たわった
ブリギットは、こちらの考えを見透かしたように言った
慰めの言葉はいらない
今日、私の誘いに乗ってくれてとても嬉しかった。ありがとう、[player name]
球状の展望台は、寝転んでいても宇宙を眺めることができる
ブリギットは右手を上げ、まるで星を掴もうとするように空中で手を握った
[player name]、私ね、ここが好きなんだ
空中庭園が好き。ここで暮らしている人たちが好き。地球が好き。人類が今日まで築いてきた全ての文明が好きなの
そう話す彼女の言葉には、もう悲しみの色はなかった
突然、宇宙が広がっていた視界にブリギットが飛び込んできた。彼女は覆いかぶさるようにして、こちらの頭の両側の床に両手をついている
あなたのことも好きよ、[player name]
ブリギットの頰が紅潮してるのがはっきりと見える。電解液疑似酒のせいだろうか?
彼女の顔がとても近く、その息遣いが感じられる
一瞬、心臓が止まったかのように、呼吸が乱れた
言ったでしょ……
空気が読めない指揮官はモテない、って……
最初に言ったわよね、これはデートだって
あなたは私の誘いに応じたんだから
額にほんの一瞬、とても軽い感触があった。自分の……気のせいだろうか?
次の瞬間、耳元でささやく声が聞こえた
酔っちゃった、これは全部、電解液のせいね……
熱い息が耳元をかすめ、とてもくすぐったい
ドクン、ドクン、ドクン
これは自分の心臓の音だろうか?それともブリギットのコアの動作音?
もしかして……両方?
ブリギットはそっと体を起こした
[player name]、見て、日の出よ!
空中庭園で日の出を見ることは珍しくない。時には1日のうちに何度も日の出を見ることもできるが、毎回足を止めずにはいられない
弧を描く地平線の端にゆっくりと赤い光が現れ、大地を照らし、ブリギットの上半身を照らし出す
彼女は全身でこの星空を抱きしめるように、両手を広げた
そして、まだ少し煤がついた顔を上半身ごとこちらに向けると、爽やかな笑顔を見せた
私って相当な野心家なの、[player name]
争いや死は嫌い。私は平和が欲しい
誰であれ平等に、尊厳を持って生きられるべきだと思う
この天幕の下や、あの星にいる全ての平凡な住民たちを助け、地球を取り戻したい
たとえいつか人類が地球を離れることになっても、それが悲惨な逃走であってほしくない
それよりも家を離れる子供のように、地球を名残惜しみ、未知への期待を抱くような旅立ちであって欲しいの
それこそが、黄金時代に空中庭園を建造した人々の考えだと思うから……
ハハ、一気にたくさん話しちゃった
でも、すごくスッキリしたわ
今の話は、酔っ払いの戯言だと思って
それがブリギットだ。彼女は繊細な花ではなく、鉄のような存在だ。泥に埋もれ、炎で鍛えられる強い鉄
こういう時、言葉はあまりにも頼りない。言葉では言い表せない感情がたくさんある。それなら……
えっ?
ブリギットの口元が一気に緩んだ
アハハ、ハハハハハ……
笑い声は次第に大きくなる
明日から、あなたの噂話に私のことも付け加えられちゃうわね
じゃあ、踊ろっか!
恒星と銀河の下でふたりは手を取り合い、足を揃えてステップを踏んだ
本来、意思など存在しないはずの宇宙と夜空は、まるで魔法をかけられたように一瞬で明るく輝いた
星の光が彼女に降り注ぎ、この瞬間、この上なく優しい光景に見えた
音楽も、決められたステップもいらない。ただ気の向くままに踊る
どのくらいの時間が経ったかはわからない。ふたりは踊るのをやめ、星河も宇宙も時間も忘れて、互いの瞳を見つめ合った
……そっか、わかったわ
指揮官、ありがとう。あなたの瞳に映る私は、特別な存在であってほしい
それ以上、言葉はいらなかった。この瞬間に、言い尽くせぬ想いが伝わってきた
これからも、一緒に未知の運命を背負っていきましょう