Story Reader / Affection / ラミア·深謡·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

ラミア·深謡·その4

>

人の腕の中に抱かれながら、ラミアはしっかりと相手の腕を抱えていた

下ろして。私を抱えてたら、遠くまで走れないよ

私、重いでしょ

(チッ、それならわざわざ浮遊で重さを軽減しなかったのに……)

止まれ!さもないと撃つぞ!

ラミアは自分を抱えている人間の肩越しに背後を見た。3人の武装した守衛が追いかけてきている

彼らは口では撃つと言っているが、足下の樹の根や滑りやすい苔のせいで注意が削がれている。こちらをまともに狙える状態ではない

その上追いかけているターゲットは頻繁に方向を変える。更に大きな樹に遮られているので、相当なハードモードといえる

後ろへと遠ざかる変わり映えのない景色に、ラミアは思わず嘆きたくなった

(なんでこんなことに巻き込まれてるの!)

その理由は数時間前に遡る――

あの涙の一件以降、指揮官がラミアを問い詰めることはなかった

その代わりなのだろうか、指揮官はキャンプにラミアの仕事を手伝うと申し出ていた

いつもサボりながら仕事していたラミアは困り果てた。いつもならゆっくり1日かけてやる仕事が、たった1時間で終わってしまう

ついに耐えかねたラミアは警告――というより懇願した。結果として、指揮官もサボりに加わることになった

数日の交流を経て、相手はラミアがキャンプ内の他の人々とは違うと判断し、徐々に警戒心を解いていったようだ

そしてラミアも、自分が盗み聞いた多くのことをその人間に伝えた

同じように身分を偽るふたりの間に、不思議な暗黙の了解が生まれていた

もっと早くこうしてればよかった……

周囲に人がいないことを確認して、相手はそう呟いた

何?

……

(知ってるって……むしろ、それが私の目的だってば)

(今になってそれを言うなんて……もしかして……)

ラミアの胸の中で、嫌な予感がした

(ビンゴ!)

えっ……逃げる?どうして?

安全って?ここにいると何か危険なの?

人間はそれ以上詳しく説明することなく、深く頷いた

(信じないって言うとこれまでの行動も怪しく見えちゃうかも……あーあ、ちょっと後悔)

仕方ない。ラミアも同じように深く頷くしかなかった

(さて、外でこっそりこの人間を始末するか、わざと捕まるか……)

そこまで考えて、ラミアは目の前の人間に僅かながら同情を覚えた

(捕まったらきっと酷い仕打ちを受けるはず……その時は助けてやるかな)

わ……わかった

夜の闇に紛れ、ふたりは逃亡を決行した

その時ラミアはこの人間がすでに、各エリアの守衛の巡回ルートや死角を全て把握していることを知った

(エリアを転々として仕事をしていたのは……このため?)

(って、逃亡準備をしてたんなら、なんでここに来たわけ?)

わけがわからずラミアが困惑していると、前にいたその人物が突然口を開いた

相手はどこかから手に入れたペンチを取り出し、道を塞ぐフェンスを切断していた

(えっ……ここには確か……)

何者だ!

見つかった!

ラミアは心で湧き上がる喜びを抑えながら言った

あなたは逃げて、義足じゃ早く走れない。足を引っ張りたくない

(さっさと行け。そうすれば、バレる危険を冒してまで私が始末しなくてよくなる)

そう考えていた彼女は出し抜けに、宙に浮き上がったような感覚を覚えた

あの人間がラミアを抱え上げ、強く腕の中に抱きしめている――

ちょっ……

ラミアは反射的に相手の腕にしがみつき、相手の胸の中で身を縮こめた

待て!

背後から数発の銃声が響いたが、暗視スコープのない銃で夜の狙撃は難しい

その人間はラミアを抱えたまま、すごい速さで近くの森へと駆け込んだ。追手はせいぜい2、3人といったところだ

(こいつ、こんな時まで英雄ヅラして……)

流れに身を任せるしかないラミアは、人間の腕を強く掴むのが精一杯だ

――時間は再び現在に戻る

どう頑張ってもこの人間は血の通った生身の肉体なのだ。更に難民キャンプの潜伏期間中は重労働を強いられて、食事も満足にできていない

それに反して守衛たちは、日課の巡回以外ほとんど肉体的な労働をせず、優先的に食事する権利を有していた

狙撃を避けるために頻繁に方向を変えるのはかなり体力を消耗する。延々と続く耐久レースで、指揮官は徐々に劣勢へと追い込まれていった

私を下ろして。じゃないと逃げられないってば

すぐ近くにある顔の包帯が、汗ですっかり濡れていた。汗の雫が髪を細い束にまとめて、慣性に従い後ろへと飛んでいく

人間の息遣いがラミアの頬にあたっている。その熱さに、過度な疲労が滲んでいた

早く諦めてよ……

(私なんかのために……)

私たち?

ラミアは低い声で繰り返した。その声には理解できないことへの困惑と……名状しがたい動揺が込められていた

何の役にも立たない子供を気にかける人なんているの?

しかし今、彼女を守るその人間に答える余裕はない

あ……あいつ、とうとう力尽きたか!も……もう少しで……

はぁはぁと息切れしながらも、追手の声は確実に近付いてくる

人間が低木を越えると、目の前に現れたのは……

ハハハ、行き止まりだな?

切り立った崖。その下には荒れ狂う海が口を開けている

(あーあ、今回の任務は失敗確定だね。じゃあ、海から逃げるしかない……)

飛んで!ためらってちゃ……えっ?

自分を抱えた人間は足を止める、そう思っていたが、止まるどころかますます速度を上げている

ラミアの言葉を聞いた相手は少し怪訝そうな目で彼女を見たあと――大きくジャンプした!

きゃああー!

まったく心の準備ができていなかったラミアは、突然の無重力感に絶叫し、抱かれた腕にギュッとしがみついた

耐えきれずに彼女が偽装を解除しようとした時、柔らかい感触がふわりとふたりを受け止めた

(えっ、網?)

同時に、崖の上から騒がしい声が聞こえてきた

お前ら、何者だ!

グッ!!!

そして、辺りは静けさを取り戻した