Story Reader / Affection / 含英·檀心·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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含英·檀心·その4

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降りしきる雨で視界はぼやけていた

浅い溝に沿って2体の機械体が通りすぎていく。彼らは電池の入った箱を運んでおり、その足で少し泥水を跳ね上げた

嵐は音もなくやってきた。急いでキャンプに向かったが雅琳の姿は見当たらず、捜索が始められた

[player name]!含英サン!

ボッチョーニが自分と含英の名前を叫んだ

彼が苦心しながらコンテナを押しているのを見て、すぐに手伝うために駆け寄った

ボッチョーニさん!

マ、マズハコレヲ安全ナ場所ニ。泥棒ニ盗マレタラオオゴトデスカラ……

泥棒?

無意識の内に、腰元の武器に手が伸びた

私ノ防水シートヲ誰カガ持ッテイッテシマッタンデス!

私ノ防水コーティングダケデハ、雨風ヲ耐エ凌グナンテデキナイノニ

含英はボッチョーニを手伝って、キャンプの倉庫の扉を開けた。この急ごしらえの倉庫は、贔屓衆の手によるものだ

コンテナを隅に置き、照明を点ける

アリガトウゴザイマス。コノ資料ガ濡レタラ大変ナコトニナルトコロデシタ

イエ、トクニ。先ホド念入リニ確認シマシタカラ

誰かが一時的に借りただけなのでは……

確カニソノ可能性ハ高イデスネ。先ホドハ動転シテイテソノ考エニ至リマセンデシタガ

あの、雅琳を見ませんでしたか?

雅琳サン?マサカ、マダ帰ッテイナイノデスカ?

最後に彼女を見たのはいつですか?

今日ノ午後4時前デスネ

その頃はまだ雨は降っていませんでしたね

??

あんたらが俺に手伝いを頼んだ人か?

聞き覚えのある荒々しい声が物陰から聞こえてきた

どうしてあんたらがこんなところに?

大柱は目の前の3人と同じく怪訝そうな顔をした

大柱さんこそ、どうしてここに?

いや、洪水になったら土嚢が足りなくなるだろ。もう少し持ってっておこうかと思ってたんだが

あっという間にこの大雨だからな、ったく……

あの小娘か?今日は見てねぇな

待て……探す?いなくなったのか?

こんな大雨にどこへ行ったっていうんだ?贔屓衆を呼んでくるから、一緒に探してやるよ

今ハ、民衆ノ避難ニ人手ガ必要ナノデハ

避難ってどこにだ?ここは換気の整備もまだなんだぞ!こんなところに長い間いたら息が詰まっちまうぜ

付近ノ河川水位ガモット上昇スレバ、人的被害ガ出ル可能性モアリマス

危険地帯は全部地図に書いてあるし、贔屓衆たちが見張ってるよ

あの、おふたりとも――!

含英がふたりの会話を遮った

ひとまず、子供たちをここに連れてきましょう。他の人たちはキャンプの救助に行く、それでいかがです?

言い終わると、含英は自分に視線を向けた

雅琳は出かける前にボッチョーニさんに会いに行くと言っていました

ソウイエバ今日雅琳サンカラ、ビニールハウス補強ニツイテ訊カレマシタ

ビニールハウス?それならずいぶん前に完成してるぞ。ジャガイモは来月まで収穫できない

あ、そういやあの子、籐のツルが欲しいとか言ってたっけな……

ビニールハウスハ、苗木ノ発芽ヲ促進シマス

当初の予定では、明日まで苗木の様子は見に行かないつもりだった

雅琳の秘密とはこれだったのだ

含英の目には一抹の不安が浮かんでいる

ソノ時ハ私ノ充電時間デ、マタ後デ訪ネテクルヨウニ言イマシタ

テッキリ、彼女ハモウ家ニ帰ッテイルトバカリ……

しかし、実際はそうではなかったのだ

答えは明白だ。含英と視線を交わし、ともにうなずいた

あそこしかありません

迷うことなく、ふたりですぐに倉庫を出た

その場に残されたボッチョーニは、大柱の方を向いた

今オフタリハ、暗号化電波デ会話シテイタノデスカ?

「阿吽の呼吸」ってやつだ

ん?あ、いや、あのふたりってもとから……

何デショウ?

ちぇっ、どうでもいいか。俺たちもとっとと仕事を終わらせよう

あんたらももう少し、阿吽の呼吸ができればいいんだけどな

俺はあんたたち機械体や、空中庭園のやつらには見下されたくないんだ

大柱はマントを羽織り、徐々に高くなる水位を目にしながら土嚢を持ち上げた

……

少女は精一杯の力でビニールハウスの一角を支えていた

もうどれくらい時間が経ったのかはわからない。彼女が防水シートをかけ終わったタイミングで、激しい雨が降ってきた

強風を伴った雨は、固定用の杭をぐいぐいと持ち上げてくる。昨日ボッチョーニと一緒に張ったばかりのテントも雨の攻撃を受けている

幸い、準備はできていた。ボッチョーニが去ったあと、彼がキャンプに置いていった緑の防水シートをこっそり拝借したのだ

雷が鳴り響き、彼女は我に返った。この小さな屋根を守るのに必死だった少女は、その音に驚いて身を縮めた

ここを補強すればお家に帰れる――

雅琳はそう思いながら、目にかかる雨を拭った

彼女は思わず咳き込んだ。だが懸命に立ち上がり、ふたりの「保護者」のために準備したサプライズを守ろうとした

吠えるような風雨が丘に打ちつける。雨はそこら中に平等に降り注いでいる

次第に雅琳の息が荒くなった。なぜいまだにシートの端を固定できないのか、皆目わからない

ボッチョーニはどうやって、こんな大変なことをいとも簡単にやってのけていたのだろう?彼女は不思議でならなかった

……

空を見ても土砂降りの雨がやむ気配はないが、雨の勢いは多少なりとも弱まってきている。ただし防水シートで覆われたビニールハウスの一角は、強風で持ち上げられていた

雨の降る山道は予想以上に険しかった。含英に支えられ、夜の闇の中でひときわ目立つエメラルドグリーンの防水シートが目に入った

急いでビニールハウスに駆け寄ると、雅琳の姿が見えた

無我夢中で子供をマントに包み、そのほっそりとした弱々しい体を抱き上げた

もう大丈夫よ……

意識が混濁している雅琳を含英が安心させている

土の匂いが水蒸気と一緒に空気中に広がり、霧となっていた

霧は山野や密林を覆い、そして家のある方向も覆い隠していた

……

キャンプに入ると、ところどころに浸水が見られた。けれど今は構っていられない

小屋に戻り、まずは雅琳をベッドに寝かせる。彼女の意識はすでに少し朦朧としていた

よくない状態だ。自分の手を少女の額に当てた

コートから持参した解熱剤を探し出し、半分に割って雅琳に飲ませた

(ごめんなさい、心配かけて)

雅琳は懸命に手を使って思いを伝えてきた。高熱による痛みで、腕を上げるのも大変だろう中で

いいの、気にしないで……

含英と声を揃えて慰める

(あの苗木を無事に育てたかったの)

(あの子たちは大丈夫かな?)

安心したのか、雅琳は思わず微笑んだ

……タオルを取ってきます

含英が静かに立ち上がると、少女が自分の手を握った

(側にいて)

(含英お姉ちゃんも)

雅琳の目が懇願していた

足早に部屋に戻ってきた含英は、すぐには返事をしなかった。まず濡らしたタオルを折り畳むと雅琳の額に当てている

雅琳がそっと手を伸ばす

こう?

含英は少女の右手を握った。少女の左手は自分に繋がれている

少女はそれらをゆっくりと懸命に引き寄せた

ふたりの手と手、肌が触れ合うまで

無意識の内に含英を見ると、琥珀色の瞳が自分を見つめていた

窓の外では雨がやみつつあった。雲の切れ間から差し込む銀色の光が窓を通り抜け、彼女の顔を照らしている

なぜだかわからないが、手を握り合うのがとても自然に思えた

(私もここのために何かしたい)

(あなたたちみたいに)

……次はもう、あんな無茶をしないで

そう口にしながら含英は間違いなく、自分の落ち度だと心を痛めている様子だった

(やっぱり)

(ただの友人じゃない)

誰も何も言わず、長い沈黙が訪れた