Story Reader / Affection / 含英·檀心·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

含英·檀心·その3

>

1カ月目の夜航船からもらった物資と、九龍が援助してくれた蜉蝣銭を集計しました

男性が集計した伝票を受け取って、書類を一時保管している棚に置いた

どうってことないですよ、隣人ですから

ああそうだ、妻が巡回員の仕事に興味を持っているんですが……

キャンプに、登録を手伝ってくれる機械体の女性がいますから、彼女に訊いてみてください

含英が簡素な木製の棚を部屋に運び込んできた。慌てて自分もそれを壁に備えつけるのを手伝う

現状把握のためにキャンプの統計を取ろうと提案し、含英が贔屓衆からいくつかの木の板を借りて、書類整理のための簡単な棚を作ったのだ

信号が不安定なエリアでは、備えが多いに越したことはない

ありがとうございます。じゃあ、私はこれで

お気をつけて

含英が端末上に作った登録表を見ると、すでに何人かの名前が記入されていた

皆、想像以上に熱心です

申し訳ありません、指揮官

あなたを客人としてお迎えしたかったのに……

一段落したら、改めてお礼をさせてください

冗談ではありませんよ。その時はあなたがちゃんと休暇できているか、私が監督します

木製の棚から工兵部隊に借りた建設マニュアルを取って、パラパラとめくった

その時、入口に小さな人影が現れたのが見えて手を止めた

雅琳?

雅琳は入り口に立ったまま、含英に手話で質問した

邪魔なんてとんでもない。雅琳、こっちに来て休憩していって

私たちはまだやるべきことがあるから

後でまた――

手話の意味はおおよそ理解できた。確かに、息抜きは必要だ

ドア脇の低い戸棚へ行き、松ぼっくりを手に取った

ここならよさそうですね

含英は身を乗り出して地面を丁寧に観察し、そっと土をなでた

真昼の太陽が照りつける中、3人は小高い丘の頂上にいくつかの松ぼっくりを植えた。キャンプの方を見ると、焚き火の煙が上がっている

雅琳に目をやると、彼女は疲れ切った様子で水汲みバケツを下ろした。シャベルほどの背丈もないその少女は、そのままどさっと地面に座り込んだ

後は、数日おきにお水をあげるだけ

木を植えようと告げた時、少女はあまり乗り気ではなかった。しかし自分と含英が出発しようとすると、後を追いかけてきた

含英が仕事をしようとすると、それを自ら率先して奪っていた

含英はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭っている

含英と一緒に丘の斜面に立って周囲を見渡した。ここから眺めると、古い山荘が隅々までよく見える

ここなら、この苗木が成長した時に「故郷」を見られそうね

ここに来る途中、食べごろのタケノコを採ったの。今日のお昼に出しましょうか?

目の前のふたりの会話を聞きながら、少女は物思いに耽っているようだった

数日後

少女は、機械体が設置したテントの周りをぐるぐると歩き回っていた。行き交う機械体はそれに気付いていない

少女はしばらくためらったあと、意を決して中に入った

アノ空中庭園ノ指揮官、ココヲ離レル気ハナイヨウデス

先ニ完成シタ新シイ部屋ハ、昨日、天航都市カラ来タ男女……ツマリ、人間デイウ夫婦ノタメニ用意サレタモノデス

なるほど、では今日の私の仕事は、ひと組の夫婦を新しい家に連れていき、キャンプ内を案内するということか

エエ、君タチノ家ノ屋根ハ、贔屓衆ガモウ修理シテクレテイルシ

ありがとう!せっかく用意したバッテリーが湿気てしまうのが嫌だったんだ

ボッチョーニの側にいた機械体は、任務を確認しながらテントを後にした

少女はボッチョーニに近付き、彼をトントンとつついた

ヒャア!オオ、我ガセージヨ!

ボッチョーニは半歩よろめき、転びそうになった。しかし、それ以上に少女の反応の方が激しかった

スイマセン、失礼シマシタ。雅琳サン

驚く機械体を見て、雅琳は少しだけ緊張を解いた

目の前の機械体はとても礼儀正しく、記憶の中の狂気に満ちた侵蝕体とは違っていた

アノ……

機械体の曖昧なつぶやきを聞いて、少女は我に返った

ボッチョーニは、驚いた拍子に机にぶつかって散らばった図面を元に戻そうとして、今度はテーブルの足にぶつかった

ソノ……少シダケオ手伝イイタダケルト、トテモアリガタイデス

少女はただ立ち尽くしていた。記憶との戦いがまだ終わっていない

何カ問題ガアッテココヘ?

ボッチョーニは雅琳の方に振り返ると不器用に体勢を調整し、少し大げさに首を回した

彼女はふぅっと息を吐くとボッチョーニの側に行って、テーブル上の書類を元に戻すのを手伝った

片付けが終わると彼女はテーブルから白い紙を手に取り、ペンで苗木の上にアーチを描いた

ナルホド……ビニールハウス、デスネ?ソレナラ修復シテイマス。第1期ノジャガイモノ収穫ハ1カ月先デス。農地開拓ハ、梅雨ガ明ケテカラニナルデショウ

雅琳はいったんうなずき、そして首を振った。彼女はテントの幕を開けて、そう遠くない丘の斜面を指差した

次に、苗木を丸で囲んで尖った葉の松の木をスケッチした

推測シマスト、丘ニ松ノ木ヲ植エタッテコトデショウカ

ビニールハウスニハ発芽ヲ促進スル効果ガアリマス。ソノ松ノ苗木ヲ育テタイノデスカ?

雅琳は力強くうなずき、自分自身と目の前の機械体を順番に指差した

手伝ッテ欲シイノデスヨネ?デモ今ハスケジュールガイッパイナンデス

少女は困ったような顔でボッチョーニを見た

今ハ私ノ仕事ノ時間デシテ……植林ヨリモ優先順位ノ高イ仕事ガタクサンアルンデス

……

……デスガ、仕事時間外ナラ?

機械体は素早く計算し始めた

仕事外ノ趣味トシテ成立シマスシ、他ノ創作活動ニモ刺激ヲ与エテクレルカモシレマセン

雅琳は機械体に歩み寄り、そっと腕を伸ばして小指を立てた

ボッチョーニ

コレハ人間ガ約束ヲ交ワス時ノ行動デスネ

ボッチョーニの腕は人間のものとは造りが異なっている。彼はやむなく自分の「手」で少女の小指にそっと触れた

数日後

キャンプの状況を把握するのに数日を費やし、含英と一緒に役割配分を決めた。お陰でスムーズに運営できるようになった

含英はポットを持ち上げ、丁寧にお茶を磁器のカップに注いだ

カップからひと筋の湯気が静かに立ち上り、お茶の香りに満ちた空気の中を漂っている

3杯目は、お茶が一番おいしいの

指揮官、どうぞ

含英がカップを差し出すと、ほのかなお茶の香りが鼻先をくすぐった

太陽が頭上へと昇ったとある朝、ふたりきりの家の中で含英が茶器を取り出し、良質の茶を淹れてくれた

最初の2杯を味わって口の中にはお茶の香りが残っている。もう1杯を一気に飲み干すとシナモンの余韻が広がった

疲れが洗い流されていく

何かと忙しい朝でしたね

この大紅袍は、感謝の気持ちです

指揮官、これ以上は無理をしないてください

これから、指揮官がしたいことを一緒にしませんか?

含英は静かに微笑んだ。お茶を淹れる彼女の動きは優雅で洗練されており、お茶をひと息に飲み干す姿にはしなやかさがある

含英の昼食作りを手伝いに来た少女がテーブルの隅にそっと手を置いた

(私も飲みたい)

子供はお茶を飲んではダメよ。夜、眠れなくなってしまうでしょう?

(眠れるもん)

付け焼刃ながら手話を覚えたことで、雅琳ともようやく簡単なコミュニケーションが取れるようになった

窓の外では、ツバメが低空飛行で軒下の巣へ帰っていく

雅琳は窓の外の空に目をやり、微かに心配そうな表情を浮かべた

(ちょっとボッチョーニを探しに行ってくる)

え?どうしてボッチョーニさんを?

(秘密!)

含英はポットを置くと戸棚からレインポンチョを取り出し、雅琳にかけた

いつ雨が降るかわかりませんから、風邪をひかないようにね

雅琳はうなずき小走りで去っていった。それを見届けてから、含英は4杯目のお茶を注いだ

以前の彼女の機械体に対する恐怖心は、とても深いものでした

そう言うと、含英は安心したような笑みを浮かべた

指揮官が来てからです、彼女があまり人見知りしなくなったのは……

指揮官は、子供たちに好かれやすいのね

さっきの様子からして、きっと楽しい秘密なんでしょう

話は戻るけれど、ボッチョーニさんは隠し事が上手だわ。雅琳と友達になっていたなんて、まったく気がつきませんでした

もう1杯の熱いお茶が、梅雨の湿気を吹き飛ばしてくれた

ええ、私たちも始めましょう

含英は茶器を簡単に片付け、アルコールストーブの火を弱めた

彼女はふたつのコンテナを並べ、本棚を部屋の隅に押しのけた。こうして、シンプルな「寝室」ができた

普段雅琳の世話をしている夫婦が夜勤なので、今夜、雅琳はここへ泊まりに来ることになっている

窓の外の厚い雲は一向に晴れる気配がなく、太陽光がこの障壁を必死に突き抜けようとしているのがうっすら感じられる

時間を確認するために端末の時計を見た時、ここ数日、あまり端末を見ていないことに気付いた

指揮官、今晩食べたいものはある?この間のタケノコが少し残っているのと、蒲牢が送ってくれたものが……

含英は台所に入り、あちこちを見て回った

それは申し訳なさすぎます!

私が作りますから、気を遣わないで。ただでさえ……遠路はるばる来てくださっているのですから

含英はまっすぐにこちらの瞳を見つめた。彼女の澄んだ瞳に、言葉にできない感情が溢れるのがわかった

その感情は、まるで重荷を下ろしたかのように笑顔に溶け込んだ

彼女は感情を隠すことに長けているので、こんな複雑な気持ちを推測する状況は滅多にない

でしたら、私もお手伝いをしましょうか?

暖炉の火が家の暖かさを映し出していた。しかし空気を読まない春雷が鳴り響き、瞬時に雰囲気が一変した

しばらくして、窓の外からポツポツと雨音が響く

雨が窓枠や窓ガラスをリズミカルに叩いていたかと思うと、すぐに無秩序な音に変わった