Story Reader / Affection / 含英·檀心·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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含英·檀心·その2

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晩春の朝、山々は数カ月の静寂を経て賑わっていた。鳥のさえずりが次々と周囲の生き物たちを目覚めさせる

この大自然の目覚まし時計におのずと覚醒したが、同時に、もう少し休みたいという思いが湧いてきた

神経を呼び起こしたのは、鼻先をくすぐる食べ物の匂いだった

部屋から出ようとした時、大きな音がした

含英が朝食の入った蒸籠を持って、台所から出てきた

昨夜はよくお眠りになれた?

このような光景を目にすると、まだ夢の中にいるような錯覚に陥る

まだ少し寝ぼけているようですね

照れ笑いしながらも、視線は自然とテーブルの上の食べ物に注がれた

朝食が整えてあるのは別として、テーブルの上に3つの木のボウルがあることに少し驚いた

それと同時に、台所のドアの向こうから密かに注がれる警戒に満ちた視線に気付いた

そこにあったのは子供の瞳だ。少女の目に宿る警戒心は不安とは無縁のもので、むしろ無関心のようにさえ感じる

あ……

含英はドアの向こうを見ながら朝食をテーブルの上に置くと、颯爽とこちらに近付いてきた

私の落ち度です。昨日、ここの状況をきちんと説明していませんでしたね。この子は……

含英はわざと少し声を落とした

彼女の名前は雅琳(ヤーリン)といいます。この子の両親はもともと近くを放浪していたんですが、私と出会った時には彼らはすでに侵蝕体に……

最終的に、彼らは私たちにこの子を託しました

新しい家を見つける過程では、同じようなことが数え切れないほど起こる。含英は優しい声でそう答えた

もう完全に目が覚めてきた

雅琳、この方は空中庭園の指揮官。私の……

友人よ

義弟よ

義妹よ

含英が雅琳に手話で説明し直した

含英の言葉に警戒を解いた少女は、まだ少し緊張した面持ちで、ゆっくりとドアの陰から出てきた

まだどこか堅苦しかったが、彼女が警戒を解けるように、親しげに微笑んだ

この子は声帯を損傷しているのです……

今は優しい人の家に預けられています

キャンプに参加している他の子供たちとは違って、彼女は機械教会の機械体を少し怖がっていて……

でも、ここでは機械体との接触が避けられません。それで、最近は私のところによく来ているのです

そうだわ、親交を深めるために……指揮官、もっと近くに来てください

含英から優しい声でそう言われて、ふたりは少しずつ近付き、雅琳の目の前で挨拶をした

雅琳はまだじっと扉のところで立っていたが、緊張した雰囲気の中、彼女のお腹から思いがけない抗議の音が鳴った

ぐうっ――

これは自分が発した音ではないのは確かだ

そうね、早く食べましょう、冷めちゃうわ

雅琳の視線が逸れた。葛藤の末に彼女は勇気を振り絞って一歩前に進み、テーブルへと向かった

3人は同時に箸を取った

俺は反対だぞ。これが何を意味するかわかってるのかよ?

モチロン。私ハココニ来ルマデニ、九龍ノ建築ニ関シテ多クノ勉強ヲシテキタンデス

へえ、それでよくも俺たち贔屓衆の前で、この建物を取り壊すなんて言えたもんだな!

建設用の重機は俺たちが持ち込んだ。資金援助だって九龍がしたんだ!

大柱は力任せに図面をテーブルにバサっと叩きつけた

目の前の機械体の様子は変わらない。その機械体の無感情な口調に反比例して、男性の怒りはますます激しくなった

アナタノソノ方法デハ、プロジェクト全部ガ終ワルニハ少ナクトモ秋マデカカリマス

ソレデハ作業ガ1カ月以上遅レテシマウ。人口増加ニ伴ウ新仮設住宅ノ建設ガ始マレバ、モット作業ガ遅レルデショウ

これは九龍の歴史なんだよ

絶対って理由がない限り、俺たちの手でこれを破壊するなんてできるもんか

大柱は、これ以上この機械体と話しても無駄だと悟ったのだろう。大きなため息をついて、テントから出ていった

その時、少し離れたところから話し声が聞こえてきた

話し声はだんだんと近付いてきて、贔屓衆と機械体に合流した

……ボッチョーニさんと彼らの応援にやってきた贔屓衆の大柱たちが、この旧跡を再建するんです

含英と一緒に、この廃墟となった山荘を見学し始めたところだった

時代が経ってもはやその名を知る者はいない。門は破壊され、朽ち果てた木材と化している

家屋は緩やかな斜面に沿って建てられており、棚田のような建築群を形成している。まるで古風な小さい町のようで、階段に沿って上へと続く

修復する間、外部からやってきた者たちは山のふもとに一時的に作ったキャンプで暮らしていた

歳月は災害がもたらした傷跡を静かに覆い隠していた。道を歩きながら、数十年前の賑わいに思いを馳せる

しかし我に返ると、目の前に広がるのは幻想の中にある人の賑わいではなく、鬱蒼と生い茂る森だった

山頂に残された広大な空き地は、中央が広場になっているらしい――がらんと静まり返っている。廃墟の間に根を下ろした木の一部が、壁の向こうから枝を出している

不機嫌そうな声が思考を中断した

あいつ、まったく話が通じねぇ!機械体の方がやりやすいと思ってたんだがな

贔屓衆の口調や態度から察するに、含英の言っていた「大柱」だろう

えっ?

含英さん、それと……

ああ、そうだ。[player name]、グレイレイヴン指揮官の。すまんすまん、見苦しいところを見せちまった。俺は大柱と呼んでくれ

大柱が咳払いをしてぎこちなく手を差し出したので、その手を握り返した

大柱さん、何か問題が?

私ト彼ニ見解ノ相違ガアリマシテ

後ろから出てきたボッチョーニを見て、大柱はため息をついた

相違……?

そんなたいそうなもんじゃない

このロボット野郎は、ここの建物を全部ブルドーザーで壊して新しく建て直すって言うんだ。それに俺は反対してる、それだけのことだ

大柱サンハ建築物ノ保存ニコダワッテイマス。デスガ改修ニカカル時間トコストガ、再建ヨリモ遥カニ高クツキマス

コレハ建築家トシテノ最適ナ判断ノハズデス

九龍に古い建物なんて、もうほとんど残ってねぇんだ!だから、これらは貴重な遺産なんだよ!

含英さん、あんたならこの意味がわかるだろう?

険悪なムードになってきたのを感じ、慌てて口を挟んだ

大柱さんのお気持ちはよくわかりますが……

でも指揮官の言う通り、こういったことには客観的な根拠が必要ですね

俺たちはまだここに到着したばかりなんだ。資料やデータなんかねえぞ!

私タチハ建物ノ半分以上ヲ検査シマシタガ、全テ維持不能デシタ

あんたたちが段階を踏んでいるのはわかる

だが、俺はこいつら機械体の判断を信用できねぇ。贔屓衆と一緒に確認するまで、結論は待ってもらおう

そう言うと感情の高ぶりが収まったのか、大柱は少し冷静になった様子で周囲を見回した

ただ時間を無駄にするのはもったいない。雑草や木は再建の邪魔になるしな。これは間違いなく、今すぐ解決できる問題だ

ボッチョーニは首をかしげて大柱を見た

薪ダケデナク防護柵等モ足リテイマセン。トテモ建設的ナゴ意見デス

来週ノ作業予定ニ組ミ込ミマショウ

争いは一時中断となったが贔屓衆と機械体はそれ以上会話することなく、それぞれの仕事に戻った

知らず識らずの内に、含英とともに山村の奥深くに足を踏み入れていた

含英は少し考え込んでいるようだった。ふたりは無言のまま、傍らにある緑に覆われた古い家を眺めた

……さすが指揮官ですね

いつも一緒にいる仲間でも衝突することはありますし、ましてや今日初めて一緒に仕事をする相手同士ですから……

含英は首を振る

今までずっと、言い争う両者に対して判断を下すことがとても苦手だったんです

だから、指揮官から学ばせていただきたいの

その時、つま先に何かが触れた

松ぼっくりが足下に転がっていた。含英がそれをゆっくりと拾い上げる

ふたりが顔を上げると暖かな風が吹き抜け、松林がざわざわと音を立てた。それはまるで彼らのささやきのようで、誰にも推し量れない感情を帯びていた

庭の木から落ちてきたのでしょうか?

彼女はそれをそっとなでて観察した

これが彼らの「継続」

これを、私たちでどこかに埋めませんか?