Story Reader / Affection / 含英·檀心·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

含英·檀心·その1

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午後の海で波が光を反射する。それほど大きくない旅客船が、目的地に向かってゆっくりと進んでいる

夜航船の紋章はこの船の所属を表している。大きくはないが、それなりの数の乗客と貨物を運ぶには十分な規模だ

船内では、2体の機械体が談笑していた

船から降りたら、急いで防錆剤のシャワーを浴びないと。腰がまた擦り減りすぎてしまう

予備の防錆剤を持ってないか?ずいぶん前に自己点検モジュールをなくしてしまったんだ

んー……じゃあ先に俺のを使うといい。後で空のボトルだけ返してくれ。なんせ、あそこはもうすぐ俺たちの家になるんだからな

家っていいよなぁ。前の主人はあまり帰ってこなかったけど……

俺もそう思うけど、俺はもっと自由でいたい。あそこで何を描くかもう決めてあるんだ

窓の外では機械ツバメが低空飛行していた。カモメと戯れたあと甲板の手すりに止まって、何度か翼を羽ばたかせる

羽を休めるとその視線が客室に注がれた。中ではひとりの男性が、龍の子の格好をした人間と並んで座っている

俺の弟子が跡を引き継ぐんだ。ははっ、この仕事が終わったらいよいよ引退だな

ずっと建物を建て続け、一生鉄を打ち続けるなんて、誰にもできやしねぇよ

贔屓衆のひとりが、風貌に似つかわしくない荒々しい声で話しながら、携帯端末を男性に手渡した

さ、これで動くかどうか、試してみてくれ

動いた!ありがとう!

なんのこれしきってよ。夜航船で頼んでたら、大金を請求されてらあ

贔屓衆は男性の背中をバンっと叩き、大笑いした

そうだ、あの、なんとお呼びしたら……

ああ、大柱(ダイチュウ)って呼んでくれりゃいい

客室のドアが開く音がすると、機械ツバメはドアの近くへ一目散に飛んでいき、嬉しそうに旋回した。ドアの側にいた含英の肩に止まり、彼女の首元に頭をこすりつける

その拍子に彼女の髪がほどけ、海風に煽られてひと筋舞い上がった

含英とともにデッキに上がり、腕を伸ばして初夏の潮風を感じる

お口に合ったのなら嬉しいです。ご希望とあれば、またあちらで指揮官にお作りしますね

含英の言う「あちら」とは、この旅の目的地のことだ

早朝、含英から1通の手紙が送られてきた

天航都市での一件の後、含英は自分の力で居住区を建てることを決意した

そこで、九龍北部で見つけたという古い山荘に誘われた――手紙には、「気晴らしにいかがでしょう?あなたの故郷再建の経験から知恵をお借りしたくて」とあった

考えてみたが、保全エリアに似た再建計画のサポートならそれほど大変な任務ではない。つまり、断る理由がなかった

早朝に出発し、時刻は午後にさしかかろうとしていた。旅程ではこれが航海の最後の区間だ

船室を振り返ると夜航船のクルーらしき数人の他、機械体も複数いる。中でも異彩を放っていたのは、特異な恰好をした贔屓衆だった

ざっと数えたところ10数人はいるだろうか。言葉にするよりも先に、含英が自分の疑問を察した

路頭に迷う人々の仮設小屋の建設を手伝うために、何名もの機械体の建築家が来ているんです。中には、すでに移住している人もいます

以前、嘲風に頼んで贔屓衆を探し出してもらい、手伝ってもらったこともありました

思いすごしでよかった――

全てがいい方向に進んでいる

含英は隣に来て、例の山荘の写真を取り出した。九龍風の建物が山上に佇むのが映っている。船はまだ到着していないが、彼女の意識はすでにその場所へと向かっていた

彼女の熱い思いに、思わず感化されてしまう

今回の訪問は任務とは少し趣が違いますよね。休暇中……だとして、何かしたいことはおありですか?

誰かと一緒にお茶を楽しむなんて久しぶりだわ。ほとんどの機械体には、お茶を味わう術がないから

蒲牢が九龍から大紅袍を送ってくれたんです。もちろん、他の茶葉も用意してありますよ

釣り?心身を鍛えたいのですね。私はあまり得意ではないけれど、お望みならば

遠慮しないでください。私が指揮官に付き添う立場なのですから

どうか気を遣わないで、私がよしなにいたしますから――だから、もっとリラックスしていてください

含英は髪を耳の後ろで留めた

将来的にこの山荘には、機械体と人間の両方の家になってほしいの

「夢」は無限にあるけれど、これは私たち自身の手に委ねることができるものです

彼女は幻想から抜け出し、今、人々が「夢」と呼ぶ未来を実現させようとしている

穏やかな海上では船のエンジンが独奏を披露する。機械ツバメは遊び疲れたのか船首に降り立ち、じっと前方を見つめていた

一面が舞台のようだった――太陽がちょうど地平線に触れ始め、気温が徐々に下がっていく

夜風が吹き始める前に、遠くに見えていた小さな黒い点が埠頭となって姿を現した

指揮官、もうすぐ着きますよ

荷下ろしにそれほど時間はかからなかった。簡単な点検の後、旅客船は回送夜航船として出発した

丸一日を海の上で過ごした体で陸に上がったため、無重力感から慣れるのに少し時間を要した。その時、1体の機械体が含英と自分に近付いてきた

含英サン

機械体は含英に会釈をした

ボッチョーニさん?

あ、こちらは手伝いに来てくださっている建築家のボッチョーニさんです

九龍の活動に携わる前は、仮設キャンプの建設を担当してくださっていました

アナタガ[player name]デスネ、初メマシテ

わざわざ埠頭までいらっしゃるなんて、ボッチョーニさん、何かありましたか?

空中庭園ノ指揮官ヲオ出迎エスルノハ礼儀デス

デスガ、実ハソレガ主ナ目的ジャナインデスガ……

目の前にいるボッチョーニという名の機械体の口調は淡々としているが、彼が懸命に好意を示しているのは伝わってきた

今日ノ昼、大勢ノ放浪者ヲ迎エ入レタンデスガ、ソノ人数ハ現在ノ収容可能人数ヲ超エテイテ……

名誉アルコノ客人ニ、別室ヲ用意スルノガ難シクナッテシマイマシタ

含英の表情が一変した。万全の準備ができなかったことに対し、明らかに落胆していた

申シ訳ナイ、ソウ言ッテモラエルト助カリマス。コレガ九龍文化ノ「察シト気遣イ」トイウヤツデスカ?コノ手ノ知識ハマダデータガ揃ワナクテ、ゴ容赦ヲ

デスガ、残念ナコトニ事実ナノデ

デスガ、他ニモ方法ガアルカモ。例エバ……

ちょっと待ってください

私の部屋に、もうひとつベッドを置けませんか?

フム、ナルホド……

寸法上、含英サンノ部屋ニベッドヲ追加スルコトハ可能デス

ウン、フタリデ寝泊マリスルノハ十分可能デショウ

含英は自分のような驚きは微塵も見せず、少し考えてから、うなずいた

私と指揮官はお互いによく知る仲ですし

でも、もし気になるのでしたら、部屋ごとお譲りしても構いません。私は……

含英はほっとした笑顔を見せ、緊張が緩んだようだ。彼女は手を差し出して、自分の手荷物を持ってくれた

後はボッチョーニさんたちにお任せしましょう

ボッチョーニは頷き、仕事に戻った

まずは部屋に行きましょう、指揮官。明日また、ここの現状をお見せします

そうして、含英とともに埠頭を後にした

いち、にの……

含英と一緒にシーツを空中に広げ、ベッドに敷いた

他に何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくださいね

九龍スタイルの寝室は、2台目のベッドが入ったためにやや手狭になった

広くはないが、必要なものは全て揃っている。逆にこの「緊密感」が居心地のよさを醸し出していた

体を洗って横になるだけで、疲れが取れる

慌ただしく長い1日を終えた今、やらなければならないことでも明日でいい、そういう気になる

夜も更けた頃、温かみのある暖色の光が「カチッ」という音とともに消えた

遠くに伝統的な九龍スタイルの建物が立ち並び、月明かりに照らされている――山々はいつものようにコマドリの子守唄を聴いていた

機械ツバメが地面に落ちている小枝を拾い、軒先へと飛んでいく