Story Reader / Affection / バンビナータ·瑠璃·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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バンビナータ·瑠璃·その3

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明日の座談会と明後日の卒業講演の原稿を作らなければいけない。こんな大変な任務を、短期間で引き受けるのではなかったと、今になって激しく後悔した

原稿を書くのが難しいとは思わなかった。学校から渡された資料や過去に自分が書いた原稿を参考にすることもできるからだ。ハセン議長でさえそうしている

本当の難題は、内面に湧き起こる不安や葛藤だ。こういった感情は簡単に文章に滲み出てしまう――

「親愛なる友よ……」

「親愛なる生徒たち……」

「皆さま」……

「本日、ここに集まった皆さんは、これから学生として軍人としての生活をスタートさせることになります――」

この言葉を文字にした時、なぜか少しのためらいを感じた

「君たちは人類の希望となり、我々の故郷を取り戻すのです」

この言葉を文字にした時、なぜか少しのためらいを感じた

「君たちは地球を奪還する使命を背負って、私たちの未来を照らす光となるのです」

「数年前、自分も君たちと同じように静かにここに座り、未来を思い描いていました――」

自分がファウンス士官学校の入学式に出席した時のことは、ここ数年のいろんな記憶に上書きされて、忘れ去っていた

どこに座って、誰と知り合ったのか、卒業する先輩と何を話したのか、まったく思い出せない

入学式に出席したことは確かだが、あの時はこんな座談会はなかったはずだ。それは唯一、はっきりと覚えている

「意義ある戦争における一員となり、後輩たちの未来のために戦う」

後輩となる新入生と向き合って思う。自分は彼らのために何かができたのだろうか?

この世界を……少しでも向上することに、自分は役に立ったのだろうか?

現在、ファウンス出身の指揮官はますます減り、地上の状況も更に厳しくなっている……

「確かに、この意義ある戦争は容易ではない。そして大きな苦難に満ちています――」

「仲間が一瞬にして凶暴で恐ろしい敵になる」

「生を謳歌していた命が一瞬にして灰になる」

血と炎に満ちた世界。パニシングがもたらす異質な恐怖は、人類史上、類を見ないものだ

異形の姿をした侵蝕体や異合生物も、人間から変身したまるで挽肉のような敵も、いとも簡単に普通の人間の正気や判断力を破壊する

「パニシングを前に、我々はあまりにも弱い」

「我々は前代未聞の恐怖と絶望に直面している」

「たとえ人間のあらゆる言葉を駆使しても、パニシングがもたらした深い苦しみを言い表すことはできません」

端末上で点滅するカーソルは、まるで表現できない記憶に対して警告しているようだ。もしかしたら、そのような場で話すには適さない言葉だという注意かもしれない

迷った末に、結局、つい先ほど書いた文章を複数行まとめて削除した

人類の美しい未来を創るために、現在を生きる多くの人が苦しまなければならない

しかし、将来の希望は現在の希望ではない。目指すべき美しい世界は、後世の人のためのものだ。それゆえに、現在を生きる人は、より一層深い苦しみを受ける

更に辛いのは、苦難を嫌というほど経験している自分が、これからその苦難を経験しようとする誰かに優しく接して、偽りの慰めを与える。そのことが更に自分の良心を苦しめた

削除した文章を元に戻そうとした時、突然、準備室の扉がノックされた

やってきたのは構造体だった。しかし、その風貌は執行部隊の隊員ではなさそうだ

こんにちは、工兵部隊の巡回員です。こちらは……私の身分証明書です

グレイレイヴン指揮官の[player name]ですか?

先ほど執行部隊の施設を巡回している時、ある……女の子に会いまして。正確にいえば、若い構造体ですが

10歳くらいの子供かな、2本の三つ編みをしていて、体のパーツがちょっと変な感じの……

ずっと廊下に突っ立っているので、少し気になって訊ねてみたんです

彼女は何も話してくれませんでしたが、ただ、あなたがどこにいるのかとだけ訊いてきました。案内しようかと言ったのですが……彼女はうなずきませんでした

そう言うと、目の前の構造体は首を振って乾いた笑いを浮かべた

口調も……私とは話したくもないという感じで

ちょっと変だと思って、バネッサ上官に報告しようとしましたが、少し迷って、やはり先にあなたにお話した方がいいと思いまして

可愛らしい子でした……

その説明で、この巡回スタッフが会った人物が誰なのか容易に推測できた……

素早く普段の服に着替えて、巡回スタッフとともに彼が言っていた場所に向かった

目的地につくと、「話題の人」は静かにホワイトスワンのドア前のベンチに座り、周りを見回していた。背が低いので、足がぶらぶらと浮いている

あなたは……

バンビナータは顔を上げて自分を見上げたが、同時に自分と一緒にいる巡回スタッフに気付いて、本能的に警戒心を抱いたようだ

巡回スタッフに、ここは自分が引き受けたから大丈夫と合図をする

巡回スタッフが立ち去ると、バンビナータの子猫のような警戒心もいくぶん和らいだ

あなたの声に聞き覚えがあります……

バンビナータは[player name]を探しています。グレイレイヴン指揮官です。ご存知ですか?

あなたは?

バンビナータは首を傾げて、澄んだ瞳でこちらを見つめている

バンビナータは、あなたの声に聞き覚えがあると感じました。あなたは誰ですか?

お優しい首席どの……バンビナータはその言葉をここに書いています

もしかして、あなたが……あなたが[player name]ですか?

あなたが……[player name]?

見てください……ここに、昨日、あなたとバンビナータが一緒にお医者さんのところに行ったと書いてあります

バンビナータは1冊のノートを差し出して、淡い黄色のダウリング紙に書き留められた幼い文字を指差した

「グレイレイヴン指揮官[player name]が病院に連れていってくれました。夜、準備室へ戻りました」

人類の文明に紙が登場して以来、それらは静かにある意義を担ってきた。かつての貴重な遺産となった今も、その意義は変わることはない――

記録のため、忘却への抵抗のため

その意義を与えられると、つまりは記録されると、紙は珍しいコレクションとはまた別の意味を持つ

はい、ご主人様に言われました。バンビナータが忘れるのが心配なら、ここに書けばいいと

バンビナータは昨日のことを思い出せません。でも、ここに[player name]とご主人様の名前が書いてあります

ご主人様がいませんので、[player name]を呼びます

そう言いながら、バンビナータはもう1行を自分に見せた。そこには、自分とバネッサの通信が記録されている――

「ご主人様のお友達、同僚[player name]とご主人様が話をしています……」

「ご主人様がお優しい首席どの、[player name]と機体検査に行くよう命令されました……」

友達と書いてから同僚と書き直し、「お優しい首席どの」と自分の名前が横に並んでいる。そこまで細かく書く必要があるかは疑問だが……

バンビナータは、更に日記のもう1行の文字を指差した――

「[player name]は、また来るからねと言いました」

バンビナータは日記を自らの方へ引き寄せて、胸に抱えた

バンビナータは、[player name]がなぜ来なかったのかわかりません。バンビナータの記録と異なります

だからバンビナータはここで探しています。でも、バンビナータがいろんな人に訊ねても、誰もちゃんと聞いてくれません

バンビナータは自身の言葉にどれほどの悲しみが含まれているのか、まったく気付いていない様子で、淡々と事実を述べている

ホワイトスワンとバネッサの評判は執行部隊の間にも轟いている。普通の構造体ならホワイトスワンとは関わりたくないだろう。彷徨うホワイトスワンの隊員ならなおさら……

思い返すと、昨夜バンビナータをホワイトスワンの準備室に戻したあと、そういえばそんな言葉を言った気が――

「また来るからね」

バンビナータは「また」が「明日」を意味するものではないことを理解していないようだ。でも、気軽な口約束をここまで真剣に受け止めているとは、思いもよらなかった

未来のいつかはいつですか?今日ではないのですか……

ごめんなさい、バンビナータは[player name]の言葉の意味を理解できませんでした。ご迷惑をかけました

バンビナータはベンチから飛び降りて、日記を強く胸に抱いて、頭を下げて謝った。彼女が謝るようなことは何もされていないのだが

……はい、バンビナータは今回の教訓をちゃんと覚えておきます

「また」とは「未来のいつか」という意味です。バンビナータは覚えました

これらのことも……バンビナータはここに記録します

バンビナータが立ち去る前、一生懸命な、そして真剣な表情でそう言った

彼女の姿がホワイトスワンの重く冷たい扉の向こうに消える時、再会のラストにバンビナータが見せたのは、後ろ姿ではなく微笑みだった