Story Reader / Affection / バンビナータ·瑠璃·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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バンビナータ·瑠璃·その2

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再びホワイトスワンの準備室のドアの前で立ち止まった時、自分は何を考えたのだろう?

「通りかかったついでに寄ってみよう」という軽い気持ちで、再びホワイトスワンの準備室の扉をノックした

懸命に1時間前の出来事を思いだそうとしたが、記憶からあの薄青い面影がどうしても消えない

……こんにちは……

あなた……は?

検査?……何のことですか?

昨日……命令……待機

他に……ありません

バンビナータは軽く頭を振った

覚えている……何?バ……ネッサ……

バネ……ご主人様、はい、バネッサご主人様

昨日と同様、バンビナータはバネッサのことを覚えている。だが、それだけだ

昨日と同じだからこそ、その差異が際立っていた。昨日、バンビナータとバネッサについて話した時はもう少し反応がよかった。こんな風に単語しか話せない状態ではなかった

再び忘れてしまったという事実が、目の前の彼女の瞳に重い影を落とした。虚ろな瞳が外の光を捉えてじっと自分を見つめていて、自分の選択はひとつしかないと迫ってくる――

……

バネッサに連絡を取ると、彼女は当然のように責めたててきた。しかし、バンビナータの症状を話すと、バネッサは珍しくしばらく黙り込んだ

言語能力の損傷は予想していた。だから、機体検査を予約しておいた

チッ……もうちょっと利口かと思っていたわ

賢さがあれば、世界を救う天才がひとり、増えるだろう?

バネッサがそう言ったあと、通信機の向こうから突然、電波が乱れたような雑音がして、やがてくぐもった人の声になった

バネッサの声が元通りに聞こえるようになった時、彼女は明らかに声を抑え、小さくしていた

いずれにせよ、今はちょっと都合が悪い

勝手に準備室に入ったことは、今度改めて追及するとして

バンビナータ?

期待した目で自分の手元の通信機を見つめていたバンビナータは、バネッサに名前を呼ばれてすぐに近付いてきた

バネッサ……ご主人様、バンビナータは……ここにいます

かなりひどそうだな……

ちょっと、お前まさか、バンビナータに何か勝手なことをしていないな?

他に誰がいる

本当だろうな……

ご主人様……グレイレイヴン……指揮官、仲……よし

お友達……ですか?

そうじゃない!

ほぼ同時――すぐさま自分とバネッサがバンビナータのつぶやきを否定した

バンビナータは、自分が何か間違ったことを言ったと気付いたのか、黙ってドアの前まで下がった

ゴホン……もういい、今は他に方法もないし……お前を責めたりしない、バンビナータ

そこの「お優しい首席どの」?

お前……バンビナータ……検査……待ち

…………

不協和音のような雑音がして、通信がプツリと途絶えた

これはおそらくバネッサの言う「都合が悪い」何かが原因なのだろう。彼女にしかできない秘密任務中なのかもしれない

お優しい……首席どの

バンビナータは唐突に自分の服を引っ張って、バネッサの「ギャグ」を繰り返した

検査……ご主人様……あなた……バンビナータ、検査ですか

彼女はバネッサが、自分と一緒に機体検査をしに行くように言った、そう理解したようだ……

……

バンビナータは命縄でも見つけたように、こちらの服を掴んだまま離さなかったが、それ以上は力を入れてこない。それはまるで、静かに蝶が止まっているようだ

お優しい首席どの……

お優しい……[player name]

ホワイトスワンからスターオブライフの診療室に行くまでの30分ほど、こちらの名前にバネッサが冗談で言った変な言葉をつけないよう、バンビナータに一生懸命説明した

1時間前の記憶がまだ頭に引っかかっていたが、スターオブライフの医者の声を聞いて、ようやく意識が現在に引き戻された

無影灯の下で、ベッドに静かに横たわるバンビナータの体に、当直医が指ほどもある太さのチューブを次々と挿していく

うん……これでいい、さぁ始めよう

冷たい光を放つチューブの最後の1本がバンビナータの後頭部に接続された時、彼女は閉じていた目を大きく開いた。青色の瞳が小刻みに揺れ、体も微かに震えだす

……ご主人様……バンビナータ……い、痛……

ご主人様……ご主人様?

バンビナータは途切れた声を発しながら、先ほどはただ痙攣するだけだった手の拳を開け閉めし始めている

直接、神経ネットワークを刺激する必要があるので、彼女の知覚システムを完全にオフにすることはできないんです。でも、機能は少しずつ回復しています

確かに痛いとは思います。でも他に方法はありません。これが唯一の有効的な治療法なんです

当直の医者は首を横に振り、背を向けて機械を操作し続けた

ご主人……様……

バンビナータは自分を安心させようと同じ言葉をしきりに繰り返しているが、震える体はまったく落ち着かない

心の一部が勝手に立ち上がって、自分を責めて、追いつめて、別の一部と戦っているように見える

痛みで痙攣している彼女の手を思わず握りしめた。その痛みが彼女の冷たい指先を通してこちらにも伝わってくる

誰であろうと、こんな苦しみを受けるべきではない。誰であろうとも

しかし、自分のこの行動は衝動的なものだった。彼女の苦しみを和らげたいと思う気持ちは、良心よりももっと根本的なものだったからだ

ご主人様?ご主人様……

側に寄り添う存在を感じたようで、バンビナータのつぶやく口調が少し落ち着いてきた

今、話しかけても、彼女には聞こえませんよ

彼女が今話していることは……意識海の深いところの潜在意識のようなもので、ほとんど意味がありません

だがバンビナータの状態が落ち着いてきたのを見て、医者はそれ以上何も言わず、近くまで寄ってきた。仕事に鋭く注がれていた目には、優しさが浮かんでいる

こういう意識海の問題は、構造体の治療で一番難しい問題なんです。辛いでしょうね……

え……ご存知ないのですか?この機体の意識海モデルと型番は、もうずいぶん古いものなんですよ

彼女の記憶喪失と失語症の症状は、意識海の問題と関係しています

医師はモニターを見せてきた。混乱しているかのようにさまざまな色の線が絡み合って乱れ、不規則に動いている。一方で、後ろの方には一定のリズムを刻んでいるものもある

彼女の意識海の電気信号です。彼女の意識活動が非常に活発になっていると同時に、非常に混乱していることを示しています

これを見てください

医師が端末の別の画面を指差した。それは心電図のような折れ線グラフで、先ほどのデータよりは規則的に動いていることを示していた

これは彼女の意識海の活動サイクルです。普通は、このグラフがゼロに近い数値になることはありません

でも、彼女の最近の活動サイクルはこんな感じで、24時間ごとに、彼女の意識海がゼロに近付いていく傾向にあります

新しいデータに上書きされた意識海には、このような現象が出るんです。それも完全にまっさらなデータに、です

彼女の意識海は今、24時間毎に新しいデータに上書きされています。そして、その間の記憶も当然上書きされます。失語症は、この上書きが原因で起きているのです

治療の効果が表れたのか、今はもうバンビナータは単語をつぶやいてはいない。しかし、痛みによる痙攣はまだ続いている

わかりません。少なくともこの機体が初めて検査に来た時には、すでにこの症状が出ていました

機体の治療にはまだ30分ほどかかります……休憩でもしていてください。ずっとつき添っていなくても大丈夫ですから

……

まぁいいでしょう。誰かが一緒にいれば、彼女も少しは気が楽になるでしょうし

そうして30分が経過した頃、医者がバンビナータの体に挿し込んでいたチューブを1本ずつ抜き始めたので、自分もようやくバンビナータの手をそっと放した

基本的な認知テストを行い、バンビナータの言語能力が回復したことを確認した当直医は、バンビナータの診断報告書を自分に差し出してきた

詳しいことはここに書いてあります。もういいですか、他にも患者の診察がありますから

医者に急かされながら診察室を出て、混雑するホールを通り、スターオブライフの向かい側の通りに戻った

夕方になっても、スターオブライフの外側の通りは空中庭園のどこよりも賑やかだ。エデンの人工太陽は午後6時の夕陽を忠実に演出して、慌ただしさに彩りを与えている

行き交う人混みの中、身長差のある2つの細長い影が静かに来た道中で寄り添っていた

バンビナータはただ黙って自分についてきている。検査が始まってから今に至るまで、医者の認知テストに受け答えする以外、彼女はひと言もしゃべらなかった

何を話そうかと悩んでいると、手にバイオニックスキンの感触が伝わってきた

おそらく、ずっと手を握りたかったのだろう。バンビナータがそっと優しく自分の指に触れてきた

機体のメンテナンスの時……バンビナータの手を握ってくれました

ですから今、バンビナータも手を握ります

バンビナータは軽く頷いたが、その目は前方の道路を見据えたままだった

機体検査の時、ご主人様もバンビナータの手を握ってくれます

だからバンビナータもその後、ご主人様の手を握ります

バンビナータがお医者さんに行く時は、いつもご主人様がバンビナータを連れて行ってくれます

ご主人様は時々、お医者さんとたくさんお話をします。今日の[player name]が、お医者さんとたくさんお話をしたように

バンビナータが痛かった時は、ご主人様はもっとたくさんお話をします

でも、いつも痛いんです。バンビナータは、なぜご主人様がバンビナータが痛い時がわかるのか、それがわかりません

痛い時、ご主人様はバンビナータの頭をなでてくれます……

バンビナータは落ち着いて話をしている。今の彼女は幼い臆病な子供のようで、自分が質問したことにひとつひとつ答え、そして心に浮かんだことをそのまま話してくれる

自分の知る限り、バネッサは自分の隊員を単なる道具として扱っていて、他者の目のあるところで優しく接する素振りを見せることなどなかった

しかしバネッサについて訊ねると、バンビナータの口調は無邪気な子供のように、ぐっと優しくなるのだ

いえ、バンビナータは覚えていません

ご主人様の外付け記憶モジュールがなければ、バンビナータにはこれらの記憶がありません

でもバンビナータは覚えています。ご主人様はとてもとても大切な人だから、バンビナータは覚えています

その他のことは……覚えていません。ご主人様の外付け記憶モジュールにないことですから

ご主人様は時々バンビナータの手を握ったり、バンビナータを抱きしめたりしてくれます

[player name]がバンビナータの手を握ってくれて、お医者さんとたくさんお話をしたので、バンビナータはご主人様が同じことをしてくれたことを思い出しました

外付け記憶モジュール。スターオブライフの検査報告書にもその単語があった

医者に訊いたところ、それは脳科学研究の非常に貴重な産物であり、空中庭園でも類を見ないほどのものだそうだ

バネッサはバンビナータにそれほど貴重な装置を与えた。ただ、今その装置とともにバネッサはどこかに行ってしまっている

バネッサとバンビナータの関係は自分が思うよりよほど複雑なようだ

自分はまだバンビナータとバネッサのことをよくわかっていない。そして「よくわかっていない」ということには、別の意味も含まれている

相手が自分のことをどう思っているのかも、よくわかっていないのだ