Story Reader / Affection / 21号·XXI·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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21号·XXI·その3

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「……狼の子供は自分だけが巣の奥に残されました。」

「……あの災難はあまりにも突然でした。親の保護を失い、か弱い狼の子はまだ狩りの仕方も知らないのに、狼の群れに捨てられたのです。」

「極地の冬が迫ってきていました。数カ月の暗闇を生き残るために、狼の子は自分で狩猟をする必要がありました。」

ケルベロスの基地は真っ暗で、部屋からは断続的に人の声と音楽が伝わってきた。聞き覚えがあるような声だ。空中庭園の教育授業で流れた映像で聞いたことがある

「氷原に小さな黒い影が現れました。移動の途中で食べ物を探そうと、群れを離れてしまったレミングです。彼は、見渡す限り果てしない原野にひとり、残されています。」

「彼らにとって、群れに捨てられることは死を意味します。」

「しかし幼い狼にとって、この事態は生への希望でもありました。」

映像の解説が空っぽの部屋に響いている。音の源を探して部屋の隅にスクリーンの蛍光を見つけると、その前にひとりの小さな姿がいるようだった

暗闇の中では何もはっきりと見えず、端末の光に頼ってそちらの方向へと歩いた

「……レミングは少しずつ豊かな草地に近づき、白い狼の子は草地の隣にある石の後ろに身を隠して、静かに機会を待っています。」

乱雑に散らかった机と椅子を通りすぎ、音の源へとたどり着いた

補給箱と机でできた小さなスペースがあった。古い視聴用端末が中央の地面に置いてあり、黄金時代に人気だったという動物のドキュメンタリー映画を再生している

部屋に響いた音はここから伝わってきたが、先ほど見た姿はどこにもいないようだ

無意識に視線を下げ、端末で再生されている内容に再び耳を傾けた。一体誰がここに置いたんだろう?

「白い狼の子は静かに近づいてくるレミングを待っています。全身の筋肉は準備万端の状態です。」

「狩猟は狼の体に刻まれた生まれつきの本能です。狼は最速のスピードで狙った獲物を捕まえることができ、見逃すことはないのです。」

「たとえば、今――」

急に、背中から「ガチャ」という音とともに、ひとつの白い影が視界に映った

その瞬間、後ろでじっと見つめる野獣のような暗くて冷たい視線を感じた。視線を感じたのと同時に銃を抜き、さっと身を翻した

——そのとたん、灰色の瞳にぶつかった

その時、部屋の明かりがついた

???

ちびっこ、攻撃停止

小柄の女性構造体は天井から逆さまに降りてきた。大きな袖が空中で揺れており、少女の顔がちょうど自分の目の前にあった。長い白い髪が垂れ下がり、滑らかな額が見える

予想外の状況に対し、銃を持ち上げた腕がしばらく空中をうろうろした

何かがだしぬけに足にそって通った。21号に寄り添って離れないスレーブユニットが激しく動きながらこちらの身体を一周すると、攻撃に構えるポーズを見せた

21号は両脚を軽く揺らし、美しい姿勢で身を翻して静かに着地した

21号の境界線、踏んじゃった

ここ、21号のテリトリー

彼女の目線に沿って頭を下げると、どうやら自分がいる地面の足下、消えかけた粗末な線が見える。武器で無理矢理引っ掻いて作ったような線だった

「境界線」は地面に円弧を描き、ひとつのスペースを囲んでいた

銃を腰に戻して隣へと数歩下がって、補給箱で囲って作られた小さな「巣穴」から離れた

距離が遠くなるにつれ、21号の緊張状態が明らかに緩和してきたのがわかる

指揮官こういう挨拶が好きって、隊長が言ってた

だから、21号、こうやって指揮官を歓迎した

……21号、覚えた

21号は頭を下げて端末に「グレイレイヴン指揮官への挨拶――普通」とメモした

「ザッ――」

ずっと無視されていた視聴端末が注意を集めるかのように鋭い雑音を放った。ドキュメンタリー映画を再生していた画面は意味不明なモザイクになり、断続的な接続不良音が響く

21号、これを使って戦闘以外のことを「勉強」する

……けど毎回ここで、画面が壊れる

21号は視聴端末を胸の前に持ち上げて揺らし、それを直そうとしているようだ

何のボタンに触れたかはわからないが、視聴端末からの雑音が本当に停止し、画面も正常に戻った

21号の目が少し輝き、端末を持ち直して胸の前へと戻した

端末は映像再生をまだ続けているようだ、しかし――

移動中の動物たちが猛スピードで逆戻りし、レミングは後退しながら口に入れた植物をそのまま吐き出した。ずっと穏やかだったナレーションは不気味な低い囁きになっている

……

21号は違和感を覚えていないというように、静かに画面を見つめている。スクリーンに映った白い狼は、必死に転んだ鹿の子を救って鹿の群れに送り届けているように見える

白い狼が、家に帰った

前まではそれだけだった。今、隣に他の狼がいる

21号は端末を持ち上げて画面を自分に向けてきた。映像は逆再生され、狼の子が群れに捨てられる前に戻っている

この子、自分の「居場所」、見つけた

画面は幼い白い狼が生まれた瞬間まで戻り、小さな野獣は母親の側にぴたりと寄り添っている

好き?

ずっと続けて見たいのは、「好き」なの?

21号、「好きじゃない」ことしかわからない

うん……

21号はゆっくりと考えている風情で、頷いてみせた

[player name]がここに来たのは、新しい任務なの?

最近、隊長はずっと新しい任務を言ってこない

任務がない時……21号は何をすればいいのかわからない

21号の疑問の視線を受けて、頭にヴィラの少し複雑な表情が浮かび上がった

その通り

上の方々曰く、最近の21号は戦闘中、頻繫な暴走を見せたため不安定な要素と判断し、全ての戦闘作戦を即刻停止して観察を行う必要があるってことらしいけど

彼女が他の小隊の隊員と衝突して……空中庭園で大喧嘩したって噂もあるわね

もちろん、私はわかってるわよ。もっと変なバージョンからまともなのを選りすぐったつもりだけど?こんなこと、私たちには日常茶飯事だから

ヴィラは嘲るように笑うと、またすぐに冷酷ないつもの表情に戻った

でも21号は、ノクティスや私とは違うのよ

彼女が欲しいのは……

……まあ、どうでもいいわね

重要なのは、こんな些細なことで「21号の戦闘適合性を再評価」したい人間が、もうケルベロスの基地の前まで来て21号を連れて行こうとしてたこと

もし21号がこのまま連れて行かれたら……彼女の今の状態で、事態が好転すると思う?

遠隔リンクでの戦闘に不適合と判断されたら、21号はケルベロスから除隊させられるでしょうね

意識海の問題で戦闘に不向きと判断された構造体には……どんな結末が待っているのか、私から首席サマにご説明申し上げるまでもないでしょう?

何もわからない愚か者どもが私の隊員の運命を決めるより先に、さっさと問題を解決すべきなのは明白よ

ただ今の状況は、私だけじゃ解決できない

だから――この観察期間中に、21号をサポートして戦闘シミュレーション訓練を完了させて、彼女はもう暴走しないってことを証明して欲しいの

あなたって、本当にバカなのか……それとも何かを誤魔化そうとしてるの?

21号の暴走傾向が顕著になったのは、あなたと遠隔リンクしてからなのよ

小さなか弱い女の子に降りかかった疑念を払ってあげようと思わないの?グレイレイヴン指揮官?

21号の暴走は、この前行った意識リンクの影響によるのかもしれない

記憶の再生で表れた……それらの記憶と感情が、いまだに21号を影響を与えている可能性があった

快諾ね、じゃ、よーく覚えておいて――

もし、あなたのせいで私が優秀な隊員を失うなんて事態になったら――殺してあげるから

おわかりね、首席さん?

――記憶から戻ると、まだ21号から見つめられたままだった

……戦闘シミュレーション

21号は急に体を強張らせた

実験?

なぜ[player name]が?

口ではいつもあんな風だけどね

隊長が……

了解。隊長の任務、21号協力する