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バンジ·明晰夢·その5

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翌日――空は十分に晴れ渡り、町に戻ると雨花祭がすでに始まっていた

昨日は急遽山でひと晩を過ごしたため着替える時間もなく、仲景と小婉から衣装を借りて祭りに参加することとなった

町の伝統的な衣装に着替えた我々を仲景が楽しそうに見つめている

以前、九龍城から手伝いが来た時もちょうど雨花祭でな。彼らも衣装を借りていきおった。ふたりとも、よく似合っておるぞ

なんだか見覚えがあるような気もするが……年を取ると物忘れが酷くなってかなわんな。のう、小婉……小婉?どこに行ったんだ?

仲景は杖をつきながら、ゆっくりと孫娘を探しに外へ出た

ずいぶんご機嫌だね

隠すつもりないでしょ

ま、そういうことにしておくよ

それにしても、ふわぁぁ……天気もいいし、雨も降らなさそうでよかったね

ここまで手伝ってきたのに、もし祭りの途中で……

あ、やっぱり何でもない。九龍のことわざにもあるし

「よきことは叶わず、悪しきことは当たる」

そんな雑談をしながら、ゆっくりと広場へ向かった

広場は「花柱」に参加する人々で賑わっていた。広場沿いの石畳の小道も多くの人が行き交い、中には病み上がりの研究員たちの顔も見える

バンジさん、指揮官!来たんだね!

頭に花冠を乗せた小婉が、水の入った小さな木のバケツを持って走ってきた

ハッピー雨花祭!

ふたりにも雨花祭のお祝いを!

言い終わる前に、小婉はバケツの水をかけようとしてきた

あっ……そういえば説明がまだだったよね。雨花祭では当日に摘んだお花を山から汲んできた水に入れて、それをかけてお祝いするんだよ

服が濡れるのが嫌で、このお祝いを断る人もいるけど……

ふたりはどう?無理にする必要はないから、嫌だったら言ってね

見たところ、バンジはどちらでもよさそうだ。それなら……

わかった!

小婉は花の入った水をかけ終わると、こちらの手の平に腕輪サイズの小さな花冠を置いた。色とりどりの花でできているそれは、バンジの分もあるようだ

これは今日みんなで摘んだお花。一緒に渡そうねって言ってたんだけど、みんな恥ずかしいみたいで……だから私が渡すね

指揮官、バンジさん、南蕴のために本当にありがとうございました

小婉の後ろにいた数人の子供たちは、自分たちの話が出て恥ずかしかったのか、少し照れたように微笑んでいる

バンジはバケツに手を入れて水をすくうと、小婉たちに祝福の言葉を贈った

君たちにも祝福を

すると、最も外向的だった小婉まで照れたような表情を見せた

あ、ありがとう……じゃあ、私はこれで!ふたりとも、楽しんでいってね

小婉は手を振ると、バケツを抱えてぴょんぴょんと跳ねるように走り去っていった

……やっぱり祭りってこんな感じなんだね

九龍の風習に興味があって、色々調べてるんだ

実際に参加したことはないけど……踊りとか、この賑やかさがひと晩中続くんじゃない?

松明が燃え尽きるまで、誰も家に帰らないだろうね

らしいよ。想像するだけで疲れるけど

……でも、僕は君とこの祭りに参加したい

バンジは手の平にあった小さな花冠を、こちらの手首にかけた

うん、似合ってる

やっぱりこういう祭りは、自分の目で見てもらわないと

バンジは目の前に広がる賑やかな光景を指差した

バンジ

南蕴は休暇にぴったりの町だと思う。南蕴に着いてから、君が前に言ってた「現時点では難しいこと」を考えてたんだ

僕はあまり先のことは考えない。エネルギーを使うし、目の前にいる人を大切にしたいから

でも、君が見たい光景は引退してからじゃないと見られない訳じゃない

世界には君が想像するような静かで平和な生活が実際に存在してる。それか、僕がそうなる方法を考えればいいだけ

バンジは広場の中心にある無数の花束とリボンで飾られ、油で艶めく「花柱」を見上げた。花の香りが風に乗って運ばれてくる

バンジ

実際、僕はすぐに見つけられたし、目の前の光景に少しだけ貢献することもできた

バンジに義足を調整してもらった小婉は今、子供たちとともにバケツを抱えながらあちこちを走り回っている

仲景や他の人はゆっくりとその後ろに続き、町の中心に集まってきた

人々は楽しそうな表情を浮かべ、水をかけ合いながら祝福のリズムに身を委ねている

この光景は今では滅多にない「奇跡」だが、彼らが生きている「今」でもある

皆が過去や未来への不安を捨て去り、全力で楽しみ、この祭りに没頭している。太陽の光を反射して輝く銀の装飾品がシャラシャラと音を立てる

――歌おう、踊ろう

――行こう、美しい広場まで

――災厄から遠く離れた地で、熱いステップで幸せに向かおう

自分でも気付かぬうちに、こんな言葉を口にしていた

バンジ

……そうだね

頷くバンジの頬にかかる髪を、爽やかな風が優しくなでた

バンジ

全部、今君の目の前にあるんだよ

バンジは続けて何か言おうとしていたが、それは背中に当たった花のボールによって遮られた

遠くから投げられたようだが、それほど威力は強くなく、バンジは少し驚いただけだった

バンジさん、ハッピー雨花祭!もうすぐ彩取りが始まるけど、もちろん指揮官と一緒に参加するよな?

私たちも参加するぞ!何が何でもだ!

えっ……あのバンジって人は構造体でしょ?それって反則じゃないの?

回復した数人の研究員たちも、あの時と同じようにやる気がみなぎっているようだ

そんな細かいルールねーよ!機械体であろうと構造体であろうと、最初に彩を手に入れりゃ優勝だ

近付いてきたふたりの逞しい男が囃し立てる。どうやら、最近町で注目を浴びている我々を何が何でも彩取りに参加させるつもりらしい

すると、バンジは花のボールを男に返した

僕は参加しないよ。仲景さんの代理で来た医者だから、注意して見ておかないと駄目だし。それにルール上よくても、構造体がいると他の参加者が不利になるしね

指揮官は参加するよな?

えぇ!?

小婉を始め、町の人々は残念そうな表情を浮かべた。逆に研究員たちは火がついたのか、袖をまくり上げている

指揮官は来なくても結構!むしろライバルが減って助かる!これで私にも優勝のチャンスが……ククク……

優勝賞品は何なの?

しっかり見たわけじゃないが、茶葉や酒、肉の中から好きなものを選べるんじゃないか?

まさに九龍ならではの賞品ね……

研究員たちの会話を聞いていると、少し気持ちが揺らいだ

それだけじゃないよ

賞品にはたくさんの飴もあるよ。もち米紙で包まれてて、一緒に食べるとすっごく美味しいの

小婉と子供たちが、期待に満ちた目でこちらを見つめてくる

食べたーい!指揮官、参加しようよ!お願い!

子供たちの期待とともに、祭りの熱気も広がってきた

子供に囲まれ、せがまれる――この状況を見て、バンジは止めるどころか少し微笑んでいた

助けを求めるように見つめると、バンジは小さく頷いた

行きたい?

それなら僕は待ってるよ

やった――!!

子供たちに囲まれながら広場の中央に向かった。手をパンパンと払い、そびえ立つ2本の花柱を見上げる――油が塗られているそれは、数cm登るだけで滑り落ちそうだった

そして頂上で一際目立つ「彩」――最初にそれを取れば優勝だ

全員、位置についたか?号令がかかったら登るんだぞ!

研究員からは、日頃からフィットネスを嗜むひとりが抜擢された――そう、あの日キノコスープを最も多く飲んだ彼だ。今朝までグッタリしていたそうだが、大丈夫だろうか

繰り返すが、フライングは無効だ!誰かの助けを借りるのも失格だからな!正々堂々と勝負しろよ!

全員

おお――!

皆は待ちきれない様子で、今か今かとソワソワしている

少し離れたところに座っているバンジだけが落ち着いていて、眠くなったのか目を閉じていた。興奮している隣の彼らと比べると、場違いな感じさえする

気分が悪くなったら降りてくるんだよ

深呼吸をして、意識を落ち着かせる

位置について、よーい……

始め!

号令がかかると、一斉に観戦者が花柱の下に集まった。一方では空中庭園の研究員を応援し、もう一方では小婉が子供たちや町の人を引き連れて自分を応援してくれている

何度か滑り落ちたせいでコツを掴み、思いのほか簡単に登ることができた

最後には軽々と登り、ついに手を伸ばせば「彩」――銀の銚子を取れる位置にまで来た

ふと見下ろした先にはまだ多くの人がいたが、その姿は小さくなっていた。このままいけば、本当に「彩取り」ができそうだ

手を伸ばした瞬間――花柱が突然グラグラと揺れ出し、目の前の光景がぐるぐると回り始めた

もう一方の花柱を見ると、登っていた研究員の顔色が悪いことに気がついた。もう一度下を見ると、皆が驚きの表情でこちらを見ている

必死にバランスを保とうとしたが、もはやそれでどうにかなる状況ではない。今にも落ちてしまいそうだった――

花柱を掴んだまま後ろ向きに倒れていく。逆さまの視界に、少し離れたところにいるバンジが映る――彼は目を見開き、瞬時に立ち上がった

バンジは片手で柵を飛び越えると、こちらに向かって両腕を大きく広げた

絶体絶命の中、一瞬で判断した行動は――

下にいる人々に叫び、意を決して飛び降りた

[player name]――

びっくりした、まさか花柱が倒れるなんて……あっちの研究員の人は、まだ完全に解毒できてなかったのかな……?

花柱の頂上にあった飾り布は引っ張られて銚子に巻きつき、宙に軌跡を描きながら自分とともに落ちていった

途中で幻覚症状が出た研究員は真っ逆さまに落ちたが、下にいた人々に受け止められ、大事には至らなかった

その一方で、自分は下で待ち構えるバンジにしっかりと受け止めてもらった

――親しみのある胸に抱き留められる。その抱擁は、全世界の鋭ささえ包み込めるのではないかと思えるほどに柔らかかった

花柱が重々しく倒れる――ハッと顔を上げると、目の前には少し焦ったような表情を浮かべたバンジの顔があった

間に合ってよかった……飛んでくるだろうとは思ってたけど

……それはそうだけど

花柱自体が不安定になるなんて思ってなかった。危険すぎるよ

不満のように聞こえるが責める口調ではなく、そんな意図もまったく感じられなかった

ふと一緒に落ちた「彩」や破いてしまった飾り布を思い出し、拾うために立ち上がろうとしたがバンジに制止された

見てたよ

バンジは冷たい銀の銚子を拾い上げると、こちらの手の平に置いた

最初から最後まで見てたよ。だからハッキリわかる

間違いなく、君が「優勝」だ