Story Reader / Affection / バンジ·明晰夢·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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バンジ·明晰夢·その4

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焚き火の燃える音で目を覚まし、再び意識を取り戻した時には鬱蒼とした山全体が夜に包まれていた

バンジがテントの側で座っている。自分は保温寝袋で寝かされ、首の下には柔らかい枕が入れられている。寝違え対策だろうか?

謝るのは僕。あの薬草には一時的に毒素を刺激する効果があったみたいだ

しばらくは激しい運動も禁止ね

バンジは視線を落とし、再度こちらの脈拍を測る

……うん、大丈夫そう。よかった

頭上で生い茂る葉越しに暗くなった空を見上げながら、ふと疑問を口にした

意識のない君を担いで、町を突っ切って病院まで運べって?

それが君の願いなら叶えてあげたいところだけど……

バンジはあくびをしながら位置特定装置やナビを取り出すと、寝袋の横にまとめて置いた。この感じはまさか……

これ、全部壊れちゃったんだ

来た道をたどってみたけど、ただ一周して戻ってきちゃったし

今夜はここで過ごすことになるけど、悪くはないでしょ。ふわぁぁ……一泊して、明日の雨花祭に間に合うように戻ろう

バンジの2度目のあくびと、彼の周りに散乱するキャンプ用品を見て、とある推測が確信に変わった

……夜の裏山が迷いやすいのは町の常識なんだ。頑張れば抜け出せるけど、かなり面倒だっていうし

夜まで任務が長引いた時のことを考えて、念のため準備しておいただけ

……君も一緒にいた場合のことも想定しただけだよ

誤解って、何を?

寝袋から出て伸びをし、ずっと横たわっていたことによる痺れから解放される

休む?僕が?

バンジの目の下にある淡い青色をビシッと指差す

……わかったよ

バンジはこちらの意見をすんなりと受け入れ、真隣に座ると目を閉じて休み始めた

ゆっくりと揺れる温かい焚き火が、山の湿気さえも温めてゆく

起きてるよ

そうだね……レンガ以外がいいな

そんな冗談を聞きながら、バンジは目を閉じたまま口元に笑みを浮かべた

そんなことしない。君は体を休めないと……本当は任務が終わったらここを休暇先に勧めるつもりだったんだ。でもまさか君も任務で来て、こんなことになるとは思わなかった

それに最近、ずっと僕のことを心配してくれていた気もするし

あの時、僕の意識海で見たもののせい?

バンジの少し長めの前髪が目を覆い、彼の反応が見えなくなった

廃棄された研究所の地下――あの突如として起きた意識海の変動は誰も予測できず、バンジ自身を「砕いた」だけでなく人間である自分も巻き込まれた

マインドビーコンが荒れ狂う大波に呑まれる中で、彼の意識海を抱き締め、新たな出発点を探しにいくように伝えた

彼が意識海でその人生をたどる時も一緒にいた。そのため、必然的に彼の過去を見てしまったのだ

まあ、僕が執着してきたものの全てだからね

彼は最初から、常にあまねく人々と別れる道を強いられてきた

切り離し、捨て去り、人間としての自分自身に別れを告げることで、今の「バンジ」となった

彼は「自己」を構成する核となるものを守るために、現実と妥協すること、そして捨てるべきものをすぐに手放すことを学んだ

しかし、その全てはいつか「清算」を迎えることとなる

生を与えてくれた母、己のやり方で守ってくれた義母、ともに成長した仲間、信頼して空の薬箱を握りしめる子供――そして、意識伝送という嘘に希望を託した無数の構造体たち

薄明かりに包まれた今、彼は依然としてかつて皆が歩いた道に立っている――それは自らの意志で別れを迎えるため

しかし、今回ばかりは手放すことを許さないようだ

……僕は何度も選択を間違い、その度に失敗の代償を払ってきた

でも今は周りに大切な人がたくさんいるし、自分が何を望んでいるのかもわかってる

それは琥珀から解き放たれ、新たな人生を求めるようなもの――

そう言いながら、バンジはこちらに目を向けた

焚き火の明かりは微かなものだったが、その瞳がハッキリと見える

ひとつ確かなことは、君があんな棺に入ることはないってこと

世界にどれだけ仮説があっても「君がいない」という仮説だけは絶対に生まれない

月の光、星々、焚き火の明かり――そのどれもが、今この瞬間に琥珀色に輝くバンジの瞳には及ばなかった

そして、その輝きの中にいるひとりの人間は、同じような真剣な眼差しをしていた

その返事を聞いて安心したのか、バンジはそれ以上過去の話はしなかった

彼はいつもの様子に戻った――いや、何かを終えたあとにお菓子をねだる子供のようだと言うべきかもしれない

正直に答えた人にはご褒美があるはずだよね?何をくれるの?

じゃあ、これの「黙認」よろしくね

こちらの返事を聞いた瞬間、バンジは突然寝転がり――

そうだな……じゃあ、これ

バンジは突然寝転がり――

そのままこちらの膝の上に頭を乗せると、目を閉じた

そんなのどうでもいいよ。大事なのは枕があるかないかだから

バンジの少し崩れた天然パーマの髪の毛が目の前にあり、思わず手を伸ばして整える

その白い人工毛髪が手の平に繊細な感触を残す。どれだけ押さえつけても、次の瞬間にはまた跳ね上がってしまう

時折、不意に触れてしまう横顔が少し熱を帯びているように感じた

……まだ起きてるよ。僕の髪にどれだけ興味があるのかなって考えてたんだ

吹き抜けるそよ風、瞬くホタル、空にはっきりと浮かぶ夏の大三角形――顔を上げると、そんな光景が広がった

心地よい大地に身を預け、空を見上げて宇宙全体を観察するなんていつぶりだろうか

全てが夢のように美しく、この瞬間を永遠に止めてしまいたいと思わずにはいられなかった

ここから夜空を眺めると……なんだか落ち着くね

知ってる?あの黄金時代に地上の都市に住んでいても、誰も天の川を見ることができなかった期間があったんだよ。それもずいぶんと長い間

1990年代に、海の端にある国で大規模な停電があって……皆が暗闇の中で茫然としていたんだけど、ふと自分たちの頭上に見慣れない光景が広がっていることに気付いたんだ

世界が終わると思って、警察に通報する人もいたらしいよ

話によると巨大な天の川は都市全体を覆っていたが、何十年もの間、人間がそれに気付くことはなかったという

バンジは月明かり越しに、その先にある空を見つめた

実は天の川はずっとそこにあったんだ

その数百億光年離れた光を隔絶していたのは、工業文明のネオンだったって話だよ

バンジは遠くを見つめていた視線をこちらに向けた

今はもう北極よりも遠い宇宙を探索できるようになったけど、地球で何が起こっているのかすらわからないこともある

近くにいても、その人の心の内がわからないこともよくあると思う

……僕はそれが好きじゃない

僕はさっき答えたけど、僕の過去を全て知った君は僕をどう見てるの?

バンジの言葉によって長い記憶に亀裂が走り、無数の思考がその琥珀からゆっくりと流れ出す

その中で彼の全てを見た。彼が今まで何を捨て、何を選択してきたのかも理解できた

……基礎教育センターで同じようなことを聞いた気がする

バンジは少し眠くなったのか、小さくあくびをした

そう、それ

でも、僕はその解釈が好きじゃない

君が言ってたことの方が好きだな

過去の選択が今の「自分」を作ってる、ってやつ。今あるものは全て、過去の選択の結果……

そう言いながら、バンジは髪の上に置かれていたこちらの手を取る。すでに眠さが限界なのか、目を細めている

僕はこれからも前を向いて、前に進む……それで……周りにいる人を守り続けることを選ぶよ……

そうすれば……こんな風に心配し合うことも……なくなるから……

バンジの声が次第に小さくなり、この夜の静けさに溶け込んでいった

相変わらず彼の声や言葉には何か不思議な力があるように思える。聞いていると安心感に包まれ、柔らかな夢の世界へと誘われるのだ

気付けば自分も船を漕ぎ始め、くせっ毛を整えていた手も止まっていた

完全に目を閉じる前のぼんやりとした瞬間――

誰かが自分の手の平に温もりの跡を残していったように感じた