指揮官、釣りの経験は?
雪上で作業していたところを、唐突にロゼッタに話しかけられる
ぼちぼち……ということは、やはり教えた方がいいかな。指揮官、釣竿を持って
何かとトラブルはあったけど、私たちはようやく極地での火起こしや設営に慣れてきた
次は、食糧の確保について学ぼう
それではあまりに情緒がない。それに、釣った魚は多分空中庭園の野戦食なんかよりもずっと美味しい
うん、前にも言った通り、守林人の生活は自然との共存を重んじるから。釣りもその一環
それに、今回ばかりはきちんと道具を持ってきている。だから、あとは指揮官といい釣り場を探すだけ
——
30分後
…………
…………
ロゼッタの沈黙が全てを物語っている。最初から今まで、バケツの中には海水のみ。丸坊主というやつだ
実のところ、アタリすらない
これも運の悪さか……仕方ない
ロゼッタはひどく落ち込んでいる。やがて地面の石をひとつ拾い上げ、溜息を吐きながら放り投げた
特別召喚!
止めようと思ったが、まるで間に合わなかった
ロゼッタがカードゲームの用語を叫びながら投げた石は、水面を20回以上も跳ねてからようやく沈んだ
辺りは静寂に包まれたままだ。ロゼッタは徐々に焦り始め、海面を物凄い形相で睨みつけている
だが、待てど暮らせどあのクマ型は現れない。当然、おなじみの怒声も聞こえてこない
それもそうだ。考えて見れば、そう何度も同じ偶然が起こるわけがない
いや。あんたらが来たのを見て、先回りして陸に上がってただけだぜ?
え!?
そんな驚くことかい?ていうか、あんた、今回ばかりはわざと投げやがったな?
だって……あなたを特別召喚する唯一の方法、みたいな……
…………
で?今回は魚を捕まえたいってか?
そう。釣れないなら自分で捕まえに行くしかない。でも指揮官は海に入る装備を持っていないし、私も水中での行動が苦手
お願いできない?もう退勤したんでしょう?指揮官に、ここでしか味わえない美味を味わって欲しくて
あんたの石投げには言いたいことが山ほどあるが、これだけ粘って丸坊主ってのも可哀想だからな
いいぜ。魚を分けてやる
そうだ。なんか問題でもあんのか?
指揮官は「分ける」というのはどういうことか疑問に思っている。普通は「捕まえに行ってくる」では?
いちいち海に入って捕まえるなんて面倒なこと、やってられっか
わははは、感謝しろよ
そう言いながらクマ型は自分の腹部を開いた。なんとそこは冷蔵庫になっていたのだ!
冷蔵庫……バイオニックは一体どれほどの機能を隠しているの……
あと10くらいはあるぜ。どれも実用的な機能だぞ。ま、ついでみたいなもんだし、人間に極地の焼き魚をふるまってやるとするか!
クマ型のおさんどんにより、美味なる食事にありつくことができた
——
いつの間にかすっかり日も暮れて……あれからまた釣りを再開したが、まるでからっきし
もちろん、頑張る。でも釣りにはやはり運が大切らしい
もしこのまま釣れなかったら、次は指揮官の言う通りにする
ロゼッタは静かに星空を見上げた
あとは、最後の調査を残すだけ
本当に……ついてない!