Story Reader / Affection / ナナミ·遥星·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ナナミ·遥星·その2

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背中が押される感覚は長くは続かなかった。目を開けると、どうやらここはベッドルームのようだ

窓の外を見ると、辺りはすでに暗く、星と欠けた月だけが煌々と光っていた

月灯りを頼りに、何とか照明をつけてみた

ベッドルームはとてもシンプルな造りだ。シングルベッド、二段クローゼット、机、椅子。それ以外には何もない

着ている服が変わっていた。普段の戦闘服ではなく、肌触りの柔らかい部屋着になっている

携帯していた軍用端末は小型の民間用のものに変わっている。空中庭園のシンプルなものとは違って、スタイリッシュで凝ったデザインだった

ふと耳に異物感を感じて、指で触れてみると、ミニイヤホンが入っていた

テーブルに置かれた時計が20時を表示している。ふと、時計の横に置かれた青色のスクリーンに目が留まった

近づいて確認しようとすると、イヤホンから冷たい機械音声が流れてきた

機械音声

システム、オン

こんばんは、一般人[player name]

空中庭園で生活している者なら誰でも、その声をよく知っている

スーパーAI「ゲシュタルト」の声だ

しかし、話しているのは本物のゲシュタルトではなく、マーボーがシミュレーションしたものらしい

「ゲシュタルト」

まず最初に、お誕生日おめでとうございます

パンパンと短い花火の音が鳴った

「ゲシュタルト」

世界政府の『一般厚生福利法』第3章第291の規定により、ゲシュタルトに接続する一般人は、18歳になると、システム経由で他人と合法的にマッチングできる権利があります

あなたにマッチング資格が与えられました。マッチングを始めますか?

「ゲシュタルト」はそう質問すると、静かに答えを待っている

しばらく考えて答えを出した

一緒にこの世界に入ったはずのナナミが見当たらない。今の最優先事項は彼女を見つけることだ。ゲームでいうなら、メインクエストをまず終わらせないといけない状態だ

「ゲシュタルト」

承知しました。では中断プログラムを……

冷たい機械音声なのに、少し困惑しているように聞こえた。短いノイズが聞こえたあと、「ゲシュタルト」はいつもの無感情な口調に戻った――

「ゲシュタルト」

あなたにマッチング資格が与えられました。マッチングを始めますか?

あなたにマッチング資格が与えられました。マッチングを始めますか?

あなたにマッチング資格が与えられました。マッチングを始めますか?あなたにマッチング資格が与えられました。マッチングを始めますか?あなたにマッチング資格が……

――まるで壊れたラジオだ

ナナミとマーボーとの会話を思い出した。「ゲシュタルト」が同じ言葉しか言わないので、仕方なく「始める」と答えて、クローゼットやベッドの下、天井の裏等をチェックした

ナナミは無類のかくれんぼ好きだ。この「スタート地点」に、こっそり隠れている可能性もある

「ゲシュタルト」

意思確認完了。一般人[player name]、マッチング開始……

マッチング完了、ご協力ありがとうございました。交流をお楽しみください

システム、オフ

「ゲシュタルト」の音声が消えると同時に、元気いっぱいの声が響いてきた

こんちは!

興奮しているせいだろうか、その音声が少し割れている

私、マッチングなんて初めてです……でも、あなたはかなり落ち着いているみたい。慣れてるんだね

えっ?まさかあなたも初めて?じゃあちょうどよかった!

好きな動物は?私はね、うちの犬が大好き。みんなミミって呼んでる。ステキな名前でしょ……

女の子はこちらに話す隙を与えず、自分の趣味について語ってくれた。彼女の説明を元に、ゆっくりと相手の姿を想像してみる

名前も年齢もわからない。今は両親と一緒に住んでおり、どうやらひとりっ子のようだ

家の近くの高校に通っていて、成績は中の上、18mの「一般用人型決戦兵器」を作ろうと日々奮闘しているらしい

毎夜、自作の運動増強装置をつけ、ミミと高速道路を1周して航空燃料を1リットル消費し、家に戻ったらストレッチ、決まった時間に寝て、朝、母親に起こされるまで爆睡する

冒険が大好きで、負けず嫌いだが、勝ちにこだわっている訳ではない。一番好きなアニメは『仮面の騎士ライダー』だそうだ

自称、明るく元気な普通の女の子――

――ビンゴ、どうやらナナミを見つけたようだ

あ、そうだ。まだ名前を訊いてないな

名前を教えて?

[player name]……[player name]か……

突然、端末にビデオ通話の接続要請が表示された

こんにちは[player name]、私の名前はナナミ

目の前に、ホログラムの少女の姿が浮かびあがった。その顔はナナミと同じだが、頭の逆元装置や大きなチェーンソーがない

あのびっくりするような自己紹介を忘れてしまえば、ワンピースを着た目の前の少女は、ごく普通の女の子だ。まだ見ぬ運命に期待を膨らませているのか、少し震えているようだ

彼女は胸の前で両手を重ねている。一度息を吸ってから、心を開くように、ゆっくりと右手を伸ばした

「ナレーション」

「若い男女は、誰しも美しい恋愛に憧れるものです」

「青年が初めてそのうら若き女性と会った日、青年は友達に手紙を送りました――まるで巨大な磁力に吸い寄せられる船のようだ。小さなネジも全て引き寄せられてしまった、と」

目の前の映像がゆっくりと拡大した。どうやら自分はナナミの方へ押し出されているらしい

「ナレーション」

skip

「ナレーション」

「若い女性はあなたに十二分の尊敬と優しさを示しました。これでもうすぐ女神を手に入れられる……skip」

「ナレーション」

「しかし、周囲はふたりの間を引き裂こうとする者ばかり。誰ひとりとして味方はいませんでした。夜が訪れる前に、ふたりは悪意の波に押しつぶされてしまった……skip」

「ナレーション」

「未来を求め、男性は故郷から逃げ出しました。欺瞞に満ちたこの薄汚い世界を嘆きながら。唯一の癒やしは、あの女性との思い出だけ……skip」

「ナレーション」

「離れ離れになったふたりは、もう語り合うことすら……skip」

「ナレーション」

「……skip……男性は自分の頭に銃を向けました」

ナナミ

[player name]、やめて!

涙ぐむ若い女性が、出会った時のように手を伸ばしていた。しかし彼女は何かに触れたい訳ではないらしい。その姿から、最初の初々しさや気恥ずかしさは消えているようだ

彼女は必死に叫びながら、両手を伸ばして捕まえようとしている。今まさに目の前で消えゆく命と、あの美しい思い出を——

我に返ると、自分はいつの間にか拳銃を手にして、こめかみに当てていた。火薬の匂いが鼻を掠める。まさに死神の到来を物語っている香り……

えぇ~?めちゃくちゃいいところなのに!

指揮官、どうしてやめちゃうの?

ここ、ナナミが愛の言葉をかけるシーンだよ。指揮官はそれを聞いて、生きる希望が湧いてくる、みたいな重要な場面なのに。んもう、わかってないなぁ~

ナナミが青いモニターを表示させた。そこにはぎっしりとセリフが並んでいる

指揮官は、悲恋モノが嫌いなんだね……

ナナミは急いでモニター上のセリフを修正している

ほうほうなるほど、指揮官ならそう選択する、と……

ナナミは目を閉じ、何らかの葛藤と戦っているようだ

よーし、ナナミ、わかったよ

ナナミは指揮官のことがもっともっと知りたいの。もちろん、本音の指揮官と色んなことを体験したいし

だから、これからナナミは指揮官の選択に干渉しないから。指揮官、ちゃんと役を演じきってね!

少女はウィンクをしたあと、足早に近づいてきた

彼女はこちらに向かって両手を伸ばし、ゆっくりと頬に触れてきた――

――ただの映像なのに、なぜか温度と感触がある

彼女の掌はほんのりと温かいのに、指先は少し冷たい。まるで、ハイキングをしている時に冷たい小川の水が顔に飛んだような感覚だった

それから、花と草のいい香りがする

やがて彼女は少し力を入れ、掌と指先を頬にぐっと押し込んできた

ギリギリと万力で挟まれたように頭が固定され、一寸たりとも動けない

でもさぁ、雰囲気をぶち壊しだったよね~。ちょっと罰を与えないとねっ!

ナナミ

ハァッッ!!!

いきなり、額にナナミの頭突きがお見舞いされた