Story Reader / Affection / ナナミ·遥星·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ナナミ·遥星·その3

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どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、額はまだズキズキと痛かった。背中にベッドの柔らかい感触がある。天井の照明が風でゆっくりと揺れている

最初のベッドルームに戻ったようだ。室内の家具も服も、あの時と同じだ

ただひとつだけ、窓の外は明るい昼間だった。テーブルにある時計は8時を表示している

相変わらず、部屋にナナミはいない

「コンコンコン」

軽いノック音がした。服を整え、ドアノブに手をかけ、回そうとすると――

ナナミ

指……えっと……[player name]先輩、起きてる?

ドアの向こうから声が聞こえた。全身に電流が走ったかのように、頭から足の指先まで全ての筋肉が強ばり、ノブにかけた手も止まった

ナナミのいう演じ切るということについて、やっと理解が追いついた

少し気持ちを整えてから扉を開けると、そこにはワンピースを着たおとなしそうな少女が立っていた

なんだ、もう起きてたんだ。寝起きビックリしようと思ったのに

残念……

はーい

ナナミは大人の身長の半分はありそうなチェーンソーを隅に向かって放り投げた。地面にぶつかり、ドスンという大きな音がする

えっと、指……[player name]先輩の寝顔が見れなくて超ショック……

違うってば、チェーンソーは扉を開けるために使うつもりだったの

ビックリってのは……えっと……[player name]先輩の寝顔を見たかっただけ~

軍人は時間厳守なんだ

ふむふむ

ナナミはまたモニターを立ち上げ、メモを取った

指……[player name]先輩、早く学校に行こう

その前に、ひとつ質問だけど――

だってナナミ、後輩になってみたかったんだもん!

ナナミらしい答えだが、しかし――

でもぉ、設定では……

ええ……

うーん、確かに指揮官の言う通りだね。やっぱナナミも指揮官っていうほうが呼びやすい

ナナミが諦めてくれてほっとした。後輩として「ナナミちゃん」と呼ばなくてはならない状況は何とか回避できた

えっ、どこにいくの?

学校じゃないの?

あぁ、それはもういいの

もういい?

ナナミは指揮官の後輩役をやってみたかっただけだから、さっきのシチュエーションだけでいいや

定番の「あと5分寝かせて」ができなかったし、チェーンソーも使えなかったけど、まあ、後輩シチュはこれでいいかな

チェーンソーでどう扉を「開ける」の……

学校に行っちゃったら、先輩後輩はクラスが違うから会えなくなって、「同級生」の方にチャンスがあるじゃん

そんなのはダメーッ!

ナナミは両手をクロスさせて、大きなバツ印を作った

それに、学校なんてつまらないし。ナナミ、別に行きたくない

勉学を疎かにすべきじゃないよ!

指揮官、次に行こう!

ふふ、こ~んなにもい~っぱいっ!

ナナミはモニターを見せてくれた。目の前に、極小スクロールバーの横の終わらない文字列が現れた

下の行がどんどん増えてない?

大丈夫、ナナミがちゃんと考えてあるから!

それに指揮官、時間のことは心配ないよ。ここは実際の時間より、とっても速く進むから

だけど、時間をムダにしちゃいけないね。行こ!

ナナミはこちらの手を引いて、前へ一歩踏み出すと、周りの景色がベッドルームから遊園地に変わった。しかもここは……

指揮官、懐かしいでしょ?

そ、指揮官と一緒に行った廃棄された遊園地だよ

ナナミが、ここのアトラクションをぜーんぶ直しといてあげましたぁ!

やっと思いっきり遊べるよっ!

確かにナナミの言う通り、ここはかつてのように荒れ果てた場所ではなくなっており、アトラクションが全部きちんと修理されている

ゆっくりと回る観覧車、颯爽と走るジェットコースター。お化け屋敷の前では、ピエロの機械体がこちらに手を振っている

鋼鉄、プラスチック、布。全てが鮮やかな色を発し、童話に出てくる遊園地のようだ

しかし――

指揮官、一緒にメリーゴーランドに乗ろうよ~!

メリーゴーランドまで連れていかれたので、仕方なく適当な馬を選んで乗った

するとナナミは流れるように自分の後ろに座って、腰に両手を回してきた

指揮官、メリーゴーランドが動くよ。ちゃんと捕まっとかないと

ナナミが言い終わると同時に、メリーゴーランドがゆっくりと回り始めた

指揮官、心臓がバクバクしてるね

ナナミはこちらの背中にぴったりと体をくっつけて、心臓の音を聞いている。彼女が話すと、その息が服の隙間から背中に当たっていた

でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない――

確かに今、心臓は破裂しそうなまでに激しく打っている。正直にいえば、こんなに鼓動が早くなったのは、生まれて初めてかもしれない

なぜなら――

乗っているメリーゴーランドは推測時速500kmで空を飛んでいるのだ。まさに全方位型飛行体験だ

顔に強風が吹きつけ、声を出すどころか、凍えてもぎとられそうだ。振り落とされないように、必死に馬にしがみつくしかなかった

わーい、アハハハハ!指揮官、楽しいでしょー?

人間は興奮すると心臓の鼓動が速くなるんだよね。指揮官の心臓がこんなにもバクバクしてるってことは、きっと、すっごい楽しいんだね!

反論しようにも、その声は強風に吹き飛ばされ、無意味な言葉の断片と化した

えー、じゃあ、ナナミがもっと楽しくしてあげる!

プププ、シークレットモード、起動!

その後、何があったのかはもうわからない。最終的に、メリーゴーランドは元の場所に着地した。馬から降りる時、必死に力を入れて踏ん張ったので何とか地面に倒れずにすんだ

指揮官、どうだった?

最初の恐怖が消えたあと、大量に分泌されたドーパミンのお陰で、仕事の疲れは完全に吹き飛んでいた

じゃ、次はジェットコースターだね。その次はお化け屋敷で、観覧車でしょ。バンパーカーも行かないと……

アトラクションの名前を聞く度に、どんどん血の気が引いていくのがわかる。それらのアトラクションにどんな魔改造が施されているのか、想像したくもない

でも、ナナミがワクワクしながら指を折って数えている姿を見ると、とても断る気にはなれないのだった