Story Reader / Affection / ビアンカ·陽昏·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ビアンカ·陽昏·その3

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鳴り響く鐘の音とともに、人々は次々と教会を後にする

儀式の道具を片付け、その場から離れようとした時、彼女の柔らかい声に呼び止められた

指揮官殿

振り返ると、教会の中央でビアンカが両手を身体の前で合わせ、神聖な光を放ちながら立っていた

ええ……ただ、ふと思ったんです。あなたがお相手であれば……

……今の私なら、きっとできると思うのです

聖女として……聖祈の儀では、神に願うだけでなく、誰かの願いを叶えることもできるのです……

白い衣装に身を包んだ女性は、静かに両手を広げた

ビアンカ

儀式の最後のひと幕、ご一緒していただけますか?

花びらが舞い、この瞬間がまるで時の帳に封じ込められたように静止した

何度も心の中に浮かんだその姿は、今、この瞬間、あまりにも優しく……そして、遠い

まるで神が目を伏せて、迷える魂を抱きしめるかのように

ビアンカ

では、教えてください。あなたの願いを

その声は静かに澄んでいて、胸の奥に潜んでいた感情をそっと引き出してくれる

雪原の冬はあまりに過酷で、災厄はこの地を何度も襲った……もう、二度とそんな悲劇を繰り返してほしくない

ビアンカ

ええ

彼女は優しく頷き、導くように言葉を促した。こちらが「世界」への想いを語り終えるまで、じっと耳を傾け続けた

願いを聞き届けるという行為は、彼女の体力をかなり消耗するようだ。自分の話を聞き終えると同時に、彼女は少し疲れた様子で目を閉じ、その美しい睫毛を少し震わせた

次の瞬間、彼女の身体から急に力が抜け、こちらに倒れかかってきた

受け止めた身体は羽のように軽く、透き通っていた肌は血の気を失って蒼く儚く、今にも砕けそうだ

大丈夫です……少し眠いだけ……

誰も気付かぬ内に、祈りを重ねた身体は限界を超えていたのだろう

それはそうと……指揮官殿。あなたの言う「世界」に、私も含まれていますか?

そうですか……よかった

ふふ……そうですか

自分の言葉に驚いたのか、その慈悲深い瞳が一瞬だけ震えた

ビアンカ

ええ……

彼女は優しく頷き、導くように言葉を促した。こちらが「ビアンカ」への想いを語り終えるまで、彼女は静かに寄り添い続けた……

願いを聞き届けるという行為は、彼女の体力をかなり消耗するようだ。自分の話を聞き終えると同時に、彼女は少し疲れた様子で目を閉じ、その美しい睫毛を少し震わせた

次の瞬間、彼女の身体から急に力が抜け、こちらに倒れかかってきた

受け止めた身体は羽のように軽く、透き通っていた肌は血の気を失って蒼く儚く、今にも砕けそうだ

大丈夫です……少し眠いだけ……

誰も気付かぬ内に、祈りを重ねた身体は限界を超えていたのだろう

あれほど、無理な願いは控えてくださいと……指揮官殿は、やっぱりわがままなお方ですね

わかりました……約束します。しばらくの間、私は教会に留まります

私が雪山で祈り捧げていた間に、吹雪はやみ、冬を越すのに十分な食料も確保できました。神が私たちの願いを聞き入れてくださったのです

気候も緩みはじめ、山道の雪もすぐに溶けるでしょう。それは喜ばしいことではありますが……

そうなると、指揮官殿は出発してしまうのですよね?

雪が溶けたら、災厄の原因を調査して怪物たちの侵攻を食い止めるためにも、部隊を牽いてここを発つ必要があった

ですから、それまでの間……私は、ここにいます

私の願い、ですか……春になったら、あなたが教会に戻ってきて、百合の花が咲く光景を一緒に見られたら

そして夏になったら、私たち……

少し考えたあと、彼女は微笑んで人差し指をそっと唇に当てた

秘密です。春の願いを叶えてくれたら、お教えしましょう

はい……

彼女は再び目を閉じて、自分の肩にもたれかかった。穏やかな吐息が、まるで病気の子供のように弱々しく、優しく響いた

ビアンカをそっと横たわらせ、教会に戻った。すると、ひとりの老人が手にしていた聖書を閉じ、微笑みながらこちらに向かって頷いた

この老人とおしゃべりする時間はあるかな?

時は流れ、気がつけばもう3月。空気はまだ冷たかった

外の吹雪はやみ、雪原を覆っていた雲も晴れた。ビアンカは過酷な祈りを中断し、教会に留まっている

いつもの朝のお祈りと黙想を終えると、ビアンカはゆっくりと薪を暖炉にくべた。それから雪かきをし、食材の下ごしらえをし、祈りを唱える……

神父とボニーはビアンカに休むよう勧めたが、彼女は雑務を自ら進んでこなした

そうして日々は静かに流れ、いつの間にか春がすぐそこまで来ていた。長い冬の間沈黙していた庭に、久しぶりに小鳥の囀りが響いている

窓の外を舞う雪は次第に小さくなり、土の香りにはまだ少し冷たさが残る……けれど、その土の奥深くでは、あの人とともに植えた球根が静かに芽吹こうとしている

そんなことを思う度、自然と彼女の唇に優しい笑みが浮かんだ

ビアンカお姉ちゃん、それで、それで?続きはどうなるの?

あら……書き取りはもう終わりましたか?

空き時間には、彼女は庭の側の部屋で子供たちに読み書きを教える

終わったよ!それで?親戚のみんなが町を襲う魔物になっちゃって、家にひとり残された女の子は、その後どうなったの?

子供たちが理解しやすいように、彼女は難解な経典の中から2冊の絵本を選び、ゆっくりと読み聞かせていた

その後は……魔女の呪いにかかって、女の子は毒蛇になってしまうのです。そしてその毒蛇は、人々を傷つける魔物たちを噛み殺したんです

でも、その毒蛇は人々に怖がられて、嫌われてしまった。それで、ひとりで誰もいない黒い森に逃げこみます

やった!毒蛇が魔物を倒した!彼女は英雄だ!でも、なんか……

ちょっと悲しいね……それからどうなったの、ビアンカお姉ちゃん?

その後は……

視線の先に、軍服を着たあの人が静かに庭に入ってくるのが見え、彼女は思わず話を止めた

そうなんだね

西側の道の雪は深いから、少なくとも数日はかかるかと

それだと間に合わない恐れが……

わかった

兵士は指揮官に簡単な報告をすると、すぐにそこを離れた。指揮官はジェスチャーでビアンカに続けるよう合図し、後方の席にゆっくりと腰を下ろした

ビアンカはその人その人が穏やかな表情の下に隠した不安を察した。それを静かに胸に収め、再び物語の続きを語り始めた

それから季節がめぐり、春が来て夏がすぎ、やがて人間の中から、魔物を倒す大英雄が現れました……

子供たちがその人の周りを囲むようにして座り、その人その人は静かに耳を傾け、時々子供たちと同じ無邪気な笑顔を浮かべた

数年が経ち、大英雄は黒い森の中で、世間から恐れられていた毒蛇と出会いました……

………………

…………

物語を最後まで聞いていた子供たちは、名残惜しそうにその場を離れた。ビアンカは絵本を閉じて、その人のもとへ歩み寄った

指揮官殿、子供たちにちゃんとお手本を示さないといけませんよ

彼女は指揮官の軍服についた雪を優しく払い、ハンカチを取り出して雪の雫を拭き取った

ごめん、ビアンカ。今日は少し遅れた

聞きましたよ。指揮官殿は兵士たちと一緒に、山道の雪かきをしに行ったって……何があったのか、教えていただけますか?

雪が深くて、数日で全部を除けるのは難しい

……

覚えていらっしゃいますか?聖祈の儀の後、あなたと一緒にこの庭に花の球根を植えたこと

彼女はそっと、指揮官の視線を窓の外の庭へと導いた。そこには枯れた古木と荒れ果てた大地が広がっていた

雪原は冷気が集まりやすい場所です。だから、春になっても芽吹かないことも多いのです

でも、「咲かない」と決まったわけではありません。むしろ、私は信じているんです。この子たちはきっと、綺麗な花を咲かせてくれるって

だってこれは、あなたと私、ふたりで一緒に植えたものですから

ですから……

彼女は少し冷えた指揮官の手を取って、心を込めて握った

あなたにはわかっていて欲しいのです。どんなことがあっても、あなたがひとりで背負う必要はないことを

たったふたりの温もりでも、この世界のどんな過酷な冬よりも、温かいのですから

ありがとう

その人は少し疲れた笑みを浮かべ、ビアンカを安心させるように頷いた

指揮官――

遠くから、兵士の声が響いた

ビアンカ……

行ってください

ビアンカはその手を離し、襟元を優しく整えた

お気をつけて

指揮官は何か言いたげな表情を残して去っていった。その人その人の抱えているものを一緒に背負えないことに、ビアンカは胸を痛めた

けれど彼女にはわかっていた。その決意は、きっと自分を守るためだということを。そして、ビアンカはあの人の選択を信じようと誓った

神様、どうか……

その背中を見送りながら、ビアンカは両手を組み、祈りを捧げた