Story Reader / Affection / ビアンカ·陽昏·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ビアンカ·陽昏·その3

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氷の魔法に当たったら、魔女に捕まって雪だるまにされちゃうぞ~!お前ら、覚悟しろ~!

軍服姿の青年が両腕を広げ、小さな影を追いかける

はははははっ、捕まえられるもんなら、捕まえてみろっ!

ヴィネスは雪玉を作り、くるりと振り向いてデイヴィスに投げつけた

くっ……魔女が自分の氷の魔法で反撃された!くっ……5秒間動けなくなったぞ!ゴホッ、ゴホッ……

……トビーお兄ちゃん、大丈夫?

ゴホッ、ゴホッ……なんちゃって!かかったな、ガオオオ――!

それって、魔女の叫び声じゃないじゃんっ!

はいはいそこまでよ、遊びの時間は終わり。あなたもよ、トビー·デイヴィス。病人は遊んでないでちゃんと休んでなさい。時間があるなら、あなたたちの指揮官を起こしてきて

久しぶりの晴れ間に、差し込む陽光がまぶしく感じられる

2月に入って、連日の吹雪とともに、夢の残滓も消え去っていく……

目をこすりながら起き上がると、いつものように見慣れた人影が視界に現れた

おはようございます、指揮官!

……うわ、そんなに歓迎されてない感じ出します?

ボニーが、最近はもう物資の備蓄も十分だから、そんなにしょっちゅう狩りに行かなくても大丈夫って。それにもうすぐ聖祈の儀でしょう、僕も手伝わないと……

トビーお兄ちゃん、あれ、高すぎて届かないよ——

トビー、暇なら手伝って。指揮官の邪魔をしないで

はいはい――

じゃあ、僕は聖祈の儀の準備を手伝ってきます。聖女様からもらった薬はここに置いとくので、ちゃんと飲んでくださいね

聖女様はいつも通り、朝のお祈りが終わったら出かけましたよ

今日も行くんですか?これで何日目かな。行っても声は届かないし、無駄だと思うけど……

「神父様、お戻りになられたのですか!?」教会を出る時、ボニーの驚いた声が微かに聞こえた

教会周辺は晴れていたが、山はまだ吹雪いていた。雪に覆われた山道を進んでいくと、陽光はやがて天の端へと沈んでいった

雪が顔に打ちつけ、風に混じって青白い燐光が瞬く。まるで神の指先が雪山をなぞっているようだ

山頂の手前で馬が歩みを止めた。舞い上がる雪の霧をかき分けると、裸足のまま吹雪の中で跪く彼女の姿があった

……どうか、慈悲を手綱とし、荒れ狂う風の駿馬を御したまえ……

願わくば、雪の刃が軒を削ることなく、霜の鞭があなたの御手に鎮まらんことを

凍てつく寒さの中でも、彼女は何も感じないかのように両手を組み、人間の微かな声など耳に届かないようだ。彼女はただ静かに祈りの言葉を唱え続けた

……こんな光景が、もう1週間も続いている

……どうか、輝ける星々をもって光なき深淵を照らしたまえ。願わくば、あなたの御眼に私たちの嘆きを映したまえ

病める子らを安らぎの夢へと導きたまえ。彷徨える魂を炎とくちづけの待つ家へと帰したまえ

彼女は微動だにしない。風雪の中で静かに祈り続ける姿からは、孤独と優しさが滲み出ていた

1カ月前、ビアンカの献身的な看護のお陰で死の淵から救われ、ようやく自由に動けるようになった……

教会付近の天候は回復し、風雪もやんだ……そんな中、ビアンカが忽然と姿を消した。探し回った末に、ようやく山頂で彼女を見つけた

この1カ月間、彼女はどんなに呼びかけにも答えない。教会で顔を合わせても目も合わせてくれず、まるで見知らぬ他人のように通りすぎていく

……やっぱり、ここにいたんですね、指揮官

もう戻りましょう。あなたの声は彼女に届きませんよ

まぁ、あなたが不思議に思うのも無理ありません。初めて会った日から、彼女はずっとあなたに付きっ切りでしたから

でも、あなたはもう命の危機を脱した。だから彼女も元の生活に戻った。それだけのことです

要するに、本来の彼女の務めは雪山で祈り続けることなんです。理解できました?あなたのお世話をするために、通常とは違う対応をしていたにすぎないんですよ

彼女は祈ってる間、人の声が一切聞こえなくなるんです

聖女として、神に声を届け神の導きを聴くためには、他者との関わりを極力断たなければならない

彼女があなたのお世話をしていたあの数日、あれが今までで、彼女が最も長く人と一緒にいた時間じゃないかしら

「彼女が受けた鞭は我らの癒し、彼女が耐えた寒さは我らの温もり」そんな言葉があります。聖女に選ばれた者の定め、なんです……

聖女の力が、風雪の中でも彼女を護ってくれる

でも、人の感覚までも遮ることはできない。こんなに吹雪いてたら、彼女は痛いし、寒いでしょうね……

去年までは、これほどじゃなかった……でも、今年はただならぬことがたくさん起きました。指揮官も知ってるでしょう?

「深淵」から生まれた怪物が町を襲って、いきなりパンデミックが発生し、そして、1カ月以上も吹雪が続いた

これほどの災厄を鎮めるには、聖女が背負う代償も大きくなってしまうんです

栄えあれ、父と子と聖霊に。初めにあり、今も、いつも、世々に至るまで

最後の祈りの言葉を終え、ビアンカは静かに立ち上がり、こちらを振り返った……

陽光が雲を裂いて地に差し込み、彼女の瞳に一瞬、はっきりとした光が宿った。1000分の1秒の刹那、彼女と目が合った

…………

涙が、その美しい瞳からこぼれ落ちる。次の瞬間にそれは風雪に凍りつき、頬を伝って砕け落ちた

その瞳に再び言葉にできない憐憫が宿った。そして、まるで自分たちなどいないかのように、彼女はふたりの横を通りすぎ、ただひとり山を下りて行った

今、呼びかけても無駄ですって。彼女には聞こえませんから。明日、聖祈の儀があるから、その準備をしましょう。彼女が教会にいる時に話しかければいいんですよ

明日、聖祈の儀がありますから、一緒に戻って準備しましょう

名前だけ聞くとすごそうでしょ?

名目上は、聖女様が教会で民のために祈る儀式――実際は、連日の祈りから一時的に彼女を解放するためのものですね

要するに、彼女を休ませるための小さな嘘とでもいいましょうか

そうそう、神父様が戻ってきました。あなたに会いたがってました

スノー神父は、私たちの父親みたいな存在です。聖祈の儀を始めたのも彼ですね

北方の教区はもともと辺境にあって、彼ひとりだけの教会でした。やがて、たくさんの人が赤ちゃんを雪原に捨てたんです。私たちは皆、彼に拾われて育てられたんですよ

……多分、彼に会えばわかることがたくさんあると思うわ

教会内

翌朝

翌朝 教会内

神父様、無事にお戻りになられたのですね

南の町をまわって、人々の苦しみに耳を傾けていたんだ。ちょっと驕った言い方かな……

南で百合の球根を見つけてね。我が子のために持ち帰った

今年の冬は、本当に災厄続きでした。神父様は大丈夫でしたか?私、神父様にお訊きしたいことがたくさん……

焦らなくていい。もうすぐ聖祈の儀が始まるだろう。準備を済ませてから、ゆっくり話そう