Story Reader / Affection / リーフ·醒夢·その7 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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リーフ·醒夢·その5

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風車塔にたどり着いた時、遠くからゴロゴロと雷鳴が聞こえた。黒雲がじわじわと陽光を侵食し、久方ぶりの暴雨を孕んでいるようだった

ヴェミニさん!

絵の具のバケツが倒れて辺り一面に広がっている。カラフルなヴェミニは慌てて巨大なキャンバスを片付けていた。リーフは駆け寄り、散らかっている物を一緒に拾った

……リーフ。それに、リーフの……

そうそう、リーフとその恋人

それで、どうしてここに?気象部から連絡があったばかりよ。明後日来るはずだった台風が、今まさにウェンキスに上陸しそうだって

台風?

ふたりも早く退避して。私はもう少し片付けてから、塔の下で雨宿りするわ

ヴェミニさん、お訊ねしたいことがあるんです……この童話集を覚えていませんか?

リーフが差し出した絵本を見て、慌ただしく動いていたヴェミニの手がふと止まった

……覚えてるわよ。パニシングが爆発する前は駆け出しの画家だったから、生活のために依頼されるまま色んな挿絵を描いていたの

仕事は減る一方で、やっと掴んだ数少ない依頼だった。だからひとつひとつの絵も物語も、全部よく覚えてる

では、『エデンの園の少女』という物語もご存知ですか?

リーフは焦る心を抑え、できるだけ穏やかに、昨晩語ったその物語を口にした

もしご存知なら結末を教えてください。私にとって、とても大切なことなんです。小さな灰色のカラスと少女は、最後にどうなったのですか?

あはは、どうだったかな……忘れちゃったかも

そう言ってヴェミニは急に背を向け、画材を片付ける手を速めた

ほら、早く雨宿りしましょう。でないと、3人ともずぶ濡れになっちゃうわ

では、この作者のことは覚えていますか?私と同じ、リーフという名なんです

……

この方は他にも本を書いているのでしょうか?なんでもいいんです、もし何かご存知なら……

……彼女が出版したのは、1冊だけよ

『エデンの園の少女』は、彼女の最後の作品ね。その童話集には収録されていないけど

……本当は、物語をご存知なのですね

お願いです、教えてください。風は強くなり、空気は冷え続け、その後……小さな灰色のカラスと少女はどうなったのですか?

……もしも、その先が幸せじゃなかったら?

小さな灰色のカラスと少女は嵐の中で寄り添ったまま。そこで終わるのも、美しい結末かもしれないわよ

それでも、私は続きを知りたいんです

「今の私には、その結末に向き合う勇気があるから」―― リーフは唇を噛みしめ、こちらの手を強く握った

……風車塔の最上階にある教会。そこに原稿を隠してあるわ

風車塔……?この隣の風車塔に、ですか?

そう。彼女は昔、インスピレーションを求めてよくあの教会に行ってた。そして……娘への祈りを捧げるためにも

……!

あなたが帰ったら、アンソニアもきっと喜ぶわ

あなたが小さい頃、抱っこしてあげたこともあるのよ

廃墟を狂風が駆け抜け、木々の葉を舞い上がらせた

あの物語の作者って、まさか……

あなたの母親、アンソニアよ

ッ……

温かく、それでいて切ない痛みが胸に込み上げ、嵐と混ざり合って彼女の華奢な体を打ちつける。リーフは言葉を失い、ふらふらと後ずさった

ティルミン·シェーレステ·リーフ、彼女のペンネームよ。それに込められた意味は……

Til min kj{195|166}reste Liv――

「最愛のリーフへ」

彼女が綴った物語は、全て娘のリーフへの贈り物だったのよ

リーフは耐えきれず、風車塔へ駆け出した

高塔が長年の風雨に蝕まれているせいなのか、それとも押し寄せる複雑で強烈な感情のせいなのか。リーフは、自分の世界が微かに震えているように感じた

風車塔の最上階にある教会まで駆け上がり、入口の右手の棚を開け、上から3つ目の引き出しを開ける――そこには、かつてリーフが絵本だと思っていた原稿があった

……冷たい風がどんどん強くなっていく

原稿に並ぶ文字を見つめながら、彼女はただただ声に出して読み上げた

この世界から逃れる方法を見つけるために、小さな灰色のカラスは空を飛び続けました

ひとひら、またひとひら……銀白色の雪の花がその羽に舞い落ち、冬は約束通りにやってきました

カラスが少女のもとへ戻ると、彼女は冷たい雪の大地に倒れていました

「心配しないで……ちょっと眠くなっただけ……」少女はカラスに囁きます

彼女の体から淡い光が零れ、徐々に透明になっていく……このままでは、彼女は消えてしまいます

「行かないで、寒いの……ここにいて、私の傍に……」

………………

だからこそ、カラスは飛び立たねばならなかったのです。家へ帰る道を探すために

必ず戻ってくる――少女を連れて、温かな世界へ飛び立つために

小さな灰色のカラスは、再び翼を広げて飛び立ちました。今度こそ、かつてないほど高く飛ぶのです

昇れば昇るほど、空気は冷え、風は荒れ狂います

少女に授けられた綺麗な灰色の羽も雪に染められ、白く変わっていきました

羽ばたく度に、死が近付いてくることをカラスは感じました

それでもなお、高い空へと飛び続けます。ただ、そこに少女を救う道があると信じて

飛んで、飛び続け、ついに星々の群れにたどり着きました。ようやく「大地」の全貌を眺めることができたのです

「これは……?」カラスは星たちに問いかけました

かつてカラスと少女がいた場所は大地ではなく、少女の「エデンの園」――大陸の上に浮かぶ、天空の島だったのです

そこは傷ついた生き物が運ばれ、癒され、やがて少女に見送られて人の世界へと帰る場所

彼女はこの世の神であり、生き物たちの「天使」だったのです

しかし彼女が生き物を癒やす度、このエデンの園は高く昇り、風が吹き荒れる天へと押し上げられ、冬のように寒くなっていきます

孤独を宿命づけられ、愛する人の世界から遠ざかっていく――それが彼女の代償だったのです

それでも彼女は気にかけず、ただ優しく人の世を見守り続けていました

――そう考えながら、小さな灰色のカラスは力尽きて落ちていきました。羽ばたくことで、全ての命と力を使い果たしてしまったのです

やがてそれは、1枚1枚の破れた紙片に変わり、寒風に舞い散りました

…………

これが……結末?

ヴェミニは顔を上げて、病床に横たわり目を閉じる女性を見つめた

病院へ駆けつける前、彼女は『エデンの園の少女』の挿絵を描こうとしていた

描きたかったのは陽光の空、緑の草原、白い服の少女……ウェンキスの景色を写すはずだったが、その日は風が吹き荒び、天地は昏く翳っていた

キャンバスを片付けて帰ろうとした矢先、病院から電話があった――アンソニアが危篤だと

…………

医療機器が発する無機質な機械音が、命のカウントダウンのように響いていた

違う……

白い唇から、ため息のような声が漏れた

何?

ヴェミニは慌てて耳を寄せ、言葉を聞き逃すまいとした

これは……まだ結末じゃない

…………

でも……もう間に合わない……

彼女は水底でもがくように、水面に浮かび上がろうと必死に腕を伸ばした

彼女の荒い息を聞き、ヴェミニはとっさにその手首を握った。そうすれば、彼女を深海から引き上げられるかのように

ヴェミニ……暗いの……何も見えない……

…………

ヴェミニ……教えて……

何を?

物語の……結末を教えて……

わからない……

小さな灰色のカラスは……どこへ行ったの?

……わからない……

教えて……物語の中の少女……私の娘……私のリーフは……

最後は……幸せになれたの?

……わからないわ

…………

あなたたちも、もう気付いているでしょう?これはリーフを描いた物語なの

私はアンソニアの問いに答えられなかった。物語をどう終えるべきか、わからなかったから

あの日、彼女に託されたの。原稿を風車教会――つまりここに置くようにって

それが、彼女がリーフのために捧げた最後の祈りだった

風車塔を離れると、辺りにはすでに雷鳴が轟き、空は重く曇り、土砂降りの雨が降りしきっていた

ヴェミニに別れを告げ、ふたりは家路を急いだ

意識海が揺らぎ、強烈な悲しみが再び彼女の瞳を満たしていく

彼女は気付いていた。指揮官のマインドビーコンが灯台のように淡い光を放っているのを

「リーフ、リーフ」……優しく、名前を呼ぶ声が聞こえる

幼い日のメリーゴーランド、母の弱々しい笑顔……

羊の柔らかな毛並み、カーリッピオが心配する声……

涙に滲む視界の中で、過去の記憶が小さなガラス片のように煌めき、目の前で万華鏡のように舞った

彼女は手を伸ばし、その小さな水晶を抱きしめようとした

だが、狂風が吹き荒れ、母の背中も、グレイレイヴンの軍服も、微かに光る灯台も……全てどしゃ降りの雨に呑まれていく

彼女は雨の中で、この天地にひとりきりで立ち尽くした