Story Reader / Affection / リーフ·醒夢·その7 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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リーフ·醒夢·その4

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時は1日、また1日とすぎ、風は日ごとに強まっていきます

空気は乾き、青草は枯れ黄ばみ、まるで秋をすぎて冬がすぐそこに迫っているかのようでした

少女はまた体の光を新しい命へと分け与えると、草の上にぐったりと横たわりました

小さな灰色のカラスは必死に彼女の周りを飛びますが、何ひとつできることがありません

カラスさん、自分を責めないで。あなたが傍にいてくれるだけで、私はとても幸せなの

こんなはずじゃない、とカラスは思いました

ある世界では、自分は大きな翼を持っていて、少女をその胸に抱き寄せ、風から守れるはずなのに

ある世界では、自分は少女と同じ手を持ち、彼女の涙を拭い、笑顔を咲かせられるはずなのに

それは遠い過去かもしれず、または遥かなる未来かもしれません

でもそこには、こんなにも冷たく、孤独な空気はないのでしょう

どうして……私はここに取り残されたの?

ただ待っているだけ……

……忘れちゃった。とっても昔のことだから……

少女の顔はぼんやりと霞み、遠くを見ていました

ただ……あの紙片たちが心配なの。傷ついた子たちが、帰る場所を見失ってしまうんじゃないかって

風がどんどん冷たくなっていく……カラスさん、もう帰った方がいいよ。このままだと風に攫われちゃう

小さな灰色のカラスは少女の声色を真似て、深刻ぶって答えました。しかし羽ばたきは止めず、彼女の周りを旋回しながら傍を離れようとはしませんでした

小さな灰色のカラスは黙って空を舞い、彼女の傍にいることを選びました

……無理しなくていいのに

ここにおいで、抱きしめさせて。そうすれば、もう寒くないから

――『エデンの園の少女·IV』――

風……

朝、あまりにも爽やかすぎる風が耳元でさらさらと音を奏でる

[player name]、おはようございます

頬に伝わる柔らかな感触……

夢を見ていたのですか?まだ夢の続きを見たそうな顔ですね

陽が差す部屋で、リーフが温かなタオルで優しくこちらの顔を拭った

今日は私にさせてください。それと……どうしても一緒にしたいことがあるんです

彼女はご機嫌で、口ずさむ歌までもが弾んでいた

あ……もう、また横になって……

彼女は素早くこちらを抱き寄せ、タオルでゆっくりと頬を拭い続けた

今日はお寝坊は許しませんよ。どうしても、一緒にしたいことがあるんですから

着きました

一緒に「着いた」のは、銀灰色の飛行機の前だった

眠気に抗いながら、目の前の状況を思い出そうとした

夢うつつのまま顔を拭われ、服を着替えさせられ、豪華な朝食を食べさせられ――

そして、そのまま近くの小高い丘へ連れてこられた

その「張本人」は、目の前で目を細めて笑っている

風が吹いてきました……感じますか?

彼女は少し体を横に向け、背後の果てしない雲の彼方を見つめた。天へ突き立つ風車塔は、孤独な神のようにそびえていた

湿気と熱気に肌を包まれ、眩い陽光に目を細める。その美しい一瞬は、まるでフィルムの1枚のように切り取られた

――次の瞬間、激しい風が吹き抜けた

風に包まれた少女の姿は煌めき、今にも風に攫われて空へ溶けていくようだった

……どうしたんですか?

「なんだか風に攫われてしまいそうで」なんて、どうしても口にできなかった

あなたと一緒に風に乗って旅をしたいんです。母が遺してくれた、あの飛行機で

家も、秘密基地も、母の本も全て探しましたが……結局見つかりませんでした

町の図書館ならあるかもしれません。でも、それは後からでも行けますから

今日の風は、ふたりで飛ぶにはぴったりです。風がなくなったら、飛べなくなるので……

彼女はそっとこちらの手を握り、潤んだ瞳に切実な光を宿した

飛びましょう?ね?

珍しく、リーフがこんなにも心を弾ませている。断る理由なんてどこにもない

彼女は嬉しそうにこちらの手を引き、「グレイウィング」へと駆け出した

ふたりで足下のペダルを踏み込むと「グレイウィング」は丘の斜面を駆け上がるべく発進した

そして、離陸した――

しかし想像とは異なり、それは空高く舞い上がることはなく、地面すれすれをなんとか維持している程度だった

そのまま海に出ると、酔っ払ったかのようにふらふらと揺れ、今にも落ちてしまいそうで不安になる

動いてます。でも出力がごく僅かなので、今はほとんど人力頼みです……

構造体は人間より力がありますから、指揮官は休んで、私に任せてください

リーフひとりだけに任せるなんてできない。その思いが、自分に全力でペダルを踏ませた。外骨格が熱を帯びて音を立て、脚へ力を送り続ける

急に力を込めたお陰か、ふらふらと揺れていた「グレイウィング」はぐんと上昇し始め、更に高く舞い上がった

リーフの言う通りだ。外骨格を身に着けていても、人間の力など構造体に比べれば取るに足らない。彼女に任せておいた方がいい

足の力を抜いた途端、飛行機はまるで奇跡のようにどんどん高く舞い上がっていった……

ふぅ……上昇気流に乗れたみたいですね。少し休みましょう

もう少し風が強ければいいのですが……グレイウィングは風が強いほど高く飛べるんです

それはわかりません……私も初めてですから

でも、この機体にはハリケーンを突っ切った記録があるそうです

母は代々パイロットの家系だったんです。この飛行機は、嫁入りする時に一緒に持ってきたそうです

でも母は体が弱かったので、自分で飛ぶことはできず……父が庭に置いてくれたんです。時間がある時に、せめて座れるようにって

小さい頃、よくこの操縦席で母が物語を話してくれました。今の私みたいに、こうして座って

それもありますが、それだけじゃなくて……

彼女の頬が赤く染まり、全身に力が入っているようだった。だが、足はペダルにかかっていない

上昇気流に乗っているから、踏み込む必要はないはずだが……

安定していたはずの機体が突然大きく揺れ、リーフは大きく体勢を崩した。自分は慌ててペダルを踏み、片手で彼女を抱き寄せた

あっ……!

抱き寄せた体はぐったりと力なく沈んだ。戦闘もしていないのに、今の彼女は完全に消耗しきっていた

ち、違います!……今のは、上昇気流が消えただけです

グレイウィングは、か弱い少女の心のように頼りなく揺れた。自分は必死に岸へ向けて操縦桿を切った

ゴトン――機体が揺れると同時に、何かが座席の脇から転がり落ちた

それは1冊の分厚い本だったが、表紙の文字を読み取る間もなく、機体はよろよろと浅瀬に着水した

不思議な短い飛行を終え、ふたりで力を合わせてグレイウィングを浅瀬から引きずり上げた

……それだと、私の機体の推進力を使って飛ぶことになりますね

ダメではありませんが、それは「風に乗る」のとは少し違います

なぜだかわからないが、彼女は自然の風で飛ぶことに強くこだわっているようだった

覚えていますか?グレイウィングは、風が強ければ強いほど高く飛べるんです

そうなんです、グレイウィングは絶え間ない強風を好むんです

でも今日は、その風が途中でやんでしまいました

今日のチャンスを逃したら、この休暇中にこんな強い風に出会えるかどうか……

次はいつになるかわかりません。もしグレイウィングが飛べなくなってしまったら……

私たちは手に入れられなくなってしまいます

風の神様の祝福を……

母が言っていたんです。「愛する人と一緒に風に乗れば、風の神様に祝福されて、一生一緒にいられる」って

私は……本気で信じているんです

童話の物語は、この世界のどこかで本当に起きているはずだって

リーフは砂を足先でつつきながら、飛行が失敗した悔しさに沈んでいた。俯いたまま、赤くなった顔を上げようとしなかった

彼女を慰めようと、背後から「あの本」を取り出した。飛行中に転がり出てきた、分厚い1冊だ

これは……童話集ですか?

昔、母がグレイウィングで物語を聞かせてくれた時に、置いていったものかもしれません

彼女は顔を輝かせて本を受け取り、ページを捲った。少しずつ、先ほどまでの落胆が消え去っていく

15分ほど読みふけったあと、彼女は複雑な表情で顔を上げた

……この中にも、あの童話はありませんでした

でも、この物語たちもすごく好きです。最初は切ないけれど、最後はハッピーエンドで終わる……きっと作者の作風なんですね

ティルミン·シェーレステ·リーフ……

作者の名前です

リーフがリーフに書いた物語?ふたりで顔を見合わせ、深い衝撃と困惑を覚えた

この「もうひとりのリーフ」こそ、あの童話を書いた人だと思います

この本に描かれている細部を覚えていますから。母から聞いたこともありますし、挿絵にも見覚えがあります。最近もどこかで見たような……

そう、それを見たから……思い出したんです。ついこの間……

彼女が見惚れていた、あの1枚の絵が脳裏をよぎる

……そうです、あの絵です!だから、挿絵の作者を見つければ……

息を吞みながら一緒にページを捲り、ついにその名前を見つけた

――ヴェミニ