Story Reader / Affection / リーフ·醒夢·その7 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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リーフ·醒夢·その3

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戦闘が終わった。G94と呼ばれる機械体の発射装置は、リーフと自分で解除した。しかし、それでもまだ彼は怯えた様子で銃口をこちらに向けている

な、何するんだ!いくら小さなご主人様に声が似ていても、絶対に通さないぞ!お前たちはパニシングだろ!

わ、私たちが……パニシング?

リーフと顔を見合わせ、その言葉に思わず苦笑してしまった

ご主人様が言ってた。小さなご主人様以外で「グレイウィング」に近付くのはパニシングだから、全力で排除しろって!

G94さん、あなたが言っている「小さなご主人様」って……

「リーフ」っていう人間の女の子だ

……私のことですか?

G94にパニシングや構造体改造のことを詳しく説明し、更にリーフの母親に関する10にも及ぶ「秘密の質問」にも正しく答え……

ようやくG94がリーフと自分を受け入れた頃には、すでに日が傾いていた

だから声がそっくりなのか……あなたが小さなご主人様で、訳あって「構造体」になった……そして隣にいるのは、あなたの指揮官……

G94は砲台をくるくると回転させながら、森の奥へと案内した

着いたよ

煌めく銀色が視界に飛び込んできた。スプレーで描かれた文字を認識するまで、5秒もの時間を要した

飛行機――「グレイウィング-537」

それは黄金時代の飛行機だった。異様なほど広い翼幅を持ち、機体の窓は開閉式に設計されていた

かつてファウンスの航空誌にも掲載されていた独特の型式だ

風を捉えて変換するシステムは、風力を最大限にエンジンの推進力へと転じることができる

通常は人力で低空飛行をするが、強風時はエンジンを用い、乱流の中でも驚異的な適応力を誇った

誌上の評は――あまりに「ロマンチック」すぎる機体

地平線のような広い翼は黄昏の中に静かに眠り、金属の塗装は水面の煌めきを映し出していた

それは森という深海の中に沈み、深く沈黙していた。自分もそれに触発され、声にならない叫びが湧き上がる

陽光が揺らめき、水の膜を織り成す。手を伸ばせば触れられそうなほど近くで揺れ動き、まるで囁いているようだった

「空へ帰ろう……」

――森は獣の眠る海、鳥の心は安らげぬ場所

風が吹き、木々がざわめく。鼓動が微かに高まり、やがて弾むように……ドクン、ドクン、ドクン……

海と空の狭間へ飛躍する

風が荒れ狂い、雷が魂の殻を打つ

苦痛と歓喜がひとつに溶け合う、帰るべき場所

――空

「空へ帰ろう……」

指揮官、指揮官!

突然、無重力感が襲ってきた

我に返ると足下には確かな大地があり、いつの間にか銀灰色の翼に寄り添っていた

リーフが心配そうな眼差しでこちらを見ている

無意識のうちに飛行機と奇妙な幻を共有したようだ。しかし、それを言葉で説明するのは難しい

先ほどの指揮官は、幽霊に連れ去られたみたいでしたよ?

あなたを呼び戻すより、一緒に乗ってみたいです

風の神様が準備できていないみたいです。グレイウィングは風を頼りに飛びますが、今日は風が弱いので別の日にしましょう

その前に、童話の絵本を見つけたいんです。行きましょう、「秘密基地」はすぐそこです。母の形見も、きっとそこにあるはず……

ふふ、そうですね。「秘密基地」はすぐそこです。母の形見も、きっとそこにあるはず……

ドアノブを回し、中へ足を踏み入れる――カサカサという音がふたりの注意を引いた。開けたドアが紙のようなものを押しのけたようだ

幼い頃と変わらぬ陽光が、無邪気に小屋の中に差し込む

窓は白金色の光に満たされ、外を覗けば奇想天外な未来が広がっているように思えた

先ほどの音の正体を探すと、ドアの陰に散らばっていたのは……

紙飛行機……

長い年月に晒され、黄ばんで今にも崩れそうな紙片を、リーフはそっと両手に乗せた

私が子供の頃に折った紙飛行機です。でも、どうしてこんなにたくさん……

どうしてでしょう……もう忘れてしまいました……

季節風の時期に願いを書いて風に託せば、風の神様が祝福を与え、願いを叶えてくれる……そう伝えられています

――しかし、紙には何も書かれていなかった

折り紙を折った子供は、願いを書くのをためらい、1文字も残さなかったようだ

どの紙飛行機にも、小さなリーフの願いは記されていなかった

あまりに昔すぎて……子供の頃に何を願っていたのか、自分でも覚えていません

紙飛行機をまとめて片付け、更に奥へ進むと木の床が嬉しそうに軋む。足に何か硬い物が当たったので見下ろすと、そこには小さな椅子があった

これは机なんです。でも低すぎて、よく椅子と間違えられました。カーリッピオが私のために木工職人に頼んで作ってくれたもので……

リーフは小さな机の底から、手品のように引き出しを取り出した

ここに、私の宝物を入れてあるんです

いつもは物静かな少女が、少し誇らしげに笑みを浮かべた

丁寧に畳まれた金色のキャンディの包み紙、透明なビー玉、丸くてつやつやした小石……小さい頃の宝物は陽光を浴びて、活き活きと輝いた

彼女が「机」を見せようとこちらに渡してきた時、小さなビー玉が隙間から転がり落ち、ころころと部屋の隅へと転がった

リーフはすぐにそれを追って拾い、顔を上げると、目の前に大きな木製の棚が静かに佇んでいた

これは……本棚?

目隠し用の布を捲ると、厳かな光の中で色とりどりの本が、まるで発掘された遺物のように浮かび上がった

童話の本がぎっしりと並ぶ棚を、リーフは無意識に手を伸ばしてなでた

懐かしい……

まるで久しく会えなかった友に語りかけるように、彼女は呟いた

しばらく思い出に浸ったあと、こちらに振り向くと、彼女は少し照れくさそうに髪を触った

指揮官、あの……子供っぽいかもしれませんけど……その……

一緒に読んでくれませんか?

……はい!

旅をしていたカエルは、ようやく本当の海を見つけました。ところが、水辺にあったのは星空の煌めきで、気付くと月の上に跳んでいたのです……

悪いドラゴンがお姫様を攫ってしまいました。騎士がお姫様を助けに洞窟へ向かうと、そこで彼を待ち受けていたのは、お姫様に化けたドラゴンでした……

それから、この本も……

彼女は夢中になって次々と童話を語り、子供の頃の心をそのまま映すように、きらきらと瞳を輝かせた

やがて夜が訪れた。最後の1冊を名残惜しそうに閉じたリーフは、何も言わずにベッドを整え、何も言わずに湯を沸かし、何も言わずに……

あっ……はい?

歩き回っていた少女は、ようやく足を止めた

少し寂しそうな、あるいは夢うつつのような……薄暗い照明の下では、その表情を正確に読み取ることはできなかった

私、勘違いをしているのかもしれません……

隅々まで探しているのに、見つからないなんて……

……秘密です

あなただからこそ、秘密にしておきたいのです

自分にだけは秘密にしたい物語?リーフがわざわざ秘密にするなんて珍しいが、今回は意志が固いようだ

少なくとも今は、です。まだ結末を見つけていませんから……

彼女の視線は宙を彷徨い、頬には熱を帯びた紅が広がっていた

だって、もしそれが「悪い結末」だったらどうするんですか?

私は……本気で信じているんです

彼女は静かに言った。その瞳には子供のように澄んだ憧れが映っていた

小さな王子様は自分の星に戻り、カエルは愛する人からキスをもらい、白雪姫は眠りから目を覚ます……

童話の物語は、この世界のどこかで本当に起きているはずだって

たとえ世界の片隅に、僅かな希望の光しか残っていないとしても……人はそれを支えに生きていけますから

まるで存在しない光を掴もうとするように、彼女はそっと両手を差し出し、その幻を慈しむように包んだ

私が探している物語は、冬の夜の小さなマッチのように、記憶の中でほのかに灯って揺れています

私は、その温もりに深い愛おしさを感じるんです。その炎の中に、ぼんやりとあなたの影が映っているから……

……やっぱり子供っぽいですよね。もう大人なのに、童話を信じてるなんて……

え?

よかった……それなら、私の気持ちもわかってもらえるかもしれません。怖くて、言えないんです……

はい……でも、ハッピーエンドだったら、一緒に分かち合いたいんです

っ……

少女は秘密を暴かれた子供のように、恥ずかしそうに俯いて指をいじり、やがて照れくさそうに顔を上げた

ど、どこに先生がいるんですか!

突拍子もない予想外の返しに不意を突かれて、少女は混乱した

研究を持ち出されるとリーフは思考が停止し、その要求を受け入れてしまう

そ、そうですね……じゃあ……

……じゃあ、正面に座らないでいただきたいです

こうやって面と向かって話すのは、少し恥ずかしくて……

ベッドに来てください。子供の頃、母がしてくれたみたいに、ここに頭を乗せて……

彼女は視線を逸らしながら、自分の太腿を優しく叩いた

そのままでいてくださいね

彼女の指がそっとこちらの髪をなでる。そして、子供を寝かしつける母親のように、優しく静かに語り始めた

今日のお話は、『エデンの園の少女』……

それは、遥か昔の世界のお話

青く澄んだ空はどこまでも高く遠く、緑の大地は果てしなく広がっていました

雲の隙間から差し込む光は、神様の眼差しのように静かに大地を見つめています

広大な空と大地に存在しているのは、ひとりの少女だけ

彼女はひとりきりで、途方もなく長い時をすごしていました

1カ月?1年?もはや、時間の感覚さえも曖昧になるほどに

そんなの、きっと寂しいよね?

とても寂しいでしょうね。でも……ゴホッ、ゴホッ……

お母さん、大丈夫!?

ちょっと疲れただけよ。少し遠くで休まないといけないわ……

じゃあ、リーフは?リーフはひとりぼっちになっちゃうの?

お父さんとカーリッピオが傍にいてくれるわ

でも、リーフはお母さんにも一緒にいてほしい……ダメ?

お母さんは小さなお星さまになって、リーフをずっと見守っているから

じゃあ、お母さんに会いにお空を飛ぶね。この、今乗ってる飛行機で!

幼いリーフは胸を張って操縦席に座り、足で床をトントンと叩いた

……お星さまは、すごく高いところにあるのよ。「グレイウィング」じゃ、そこまで飛べないわ

……じゃあ、どうすればいいの?

そこまで高くは飛べなくても……この子は、私の代わりにあなたに寄り添ってくれるわ。童話の王子様のようにね

本当に?でも、これはただの飛行機でしょ?

童話の世界のお話よ。リーフも想像力を働かせてみて

でも、お父さんは「童話なんて全部嘘だ」って……

ちょっと意地悪したのね。そんなこと、真に受けちゃダメよ

じゃあシンデレラも、ピノキオも、星の王子さまも……本当なの?

もちろん本当よ。大きくなったらきっと彼らに出会えるわ

それに、リーフをとても大切に愛してくれる人とも出会えるのよ

その人って……誰?

まだわからないけど……そうね、その人その人をリーフの愛しい人と呼んでおきましょう

その人はずっとリーフの傍にいてくれるわ。私たち家族が傍にいるよりも、もっとずっと長く

じゃあ、その愛しい人愛しい人とはいつ出会えるの?

明日出会うかもしれないし、少し先かもしれないわね

本当に?……すごく長く待つことにならない?

約束するわ。リーフが大人になったら、その人その人は必ず、そっとあなたの傍に現れる

お耳を貸して?秘密を教えてあげるわ……愛しい人愛しい人に出会う時……

…………

あの夜がどれほど長かったのかは覚えていない。ただ空は澄み渡り、星々が高く瞬き、笑いかけていたことだけは覚えている

少し切ないその物語に、彼女は夢中になった。母の声は星の光のように朧げで遠く響いた

母親は本を閉じ、リーフの背中を優しくとんとんと叩く。リーフはそっと目を閉じ、甘い夢に抱かれて眠りに落ちた

幾年もの時が経ち、彼女は目を開いた。自分の口で再びその物語を語った時、視界は熱い涙で霞んでいた