降ってくる雪が風で舞い上がり、大地を分厚く白い絨毯で覆う
雪がますます強くなった……
指揮官?大丈夫ですか?
口ではそう言ったが、実は少し寒かった
地面の雪はどんどん厚さを増していく。外骨格があっても、足を深い雪から抜くのにはかなりの力が必要だった
研究資料を手に入れるため、保全エリアの移動部隊から離れてしばらく経っていた。後ろの部隊の状況はわからない……
保全エリアからついてきた猫がリュックの上に座っている。高く立てた尻尾を左右に振ると、突然、リュックから飛び降りた
力を込めて足を引き抜き、猫の後を追うように小さな丘を登っていく
この先!氷の湖です!
真っ白な雪が果てしなく広がる氷の上を舞っている。その下には凍った結晶のような色の湖。遠くから見ているだけでも、その冷たさが伝わってくる
指揮官、事前にチェックしたルートに従うとこの氷の湖を渡れば、武装集団の手がかりを掴めるはずです
クロワは素早く地面を掃いた
ちょっとこちらで休んでいてください。氷の湖の周りを偵察してきます
もともと、マンティス小隊のふたりが自分の護衛をしてくれていたが、ひとりは保全エリアの別の作業を行っているため、今、側にいるのはクロワだけだった
冷えて硬くなった体をゆっくりと動かして、地面に座り込む。寒さで麻痺していた脳が回転し始め、その時になってようやくマインドビーコンにかかる異常な負荷に気付いた
……ふん
αは小さい発声で自分の存在を示してきた
さっきからずっとリンクしていたのだろうか?任務の内容や場所が特定できるようなことは話さなかったとは思うが……
言動を振り返る間もなく、αが口を開いた
シンプルプランが破綻したの?
今すぐに助けを求めれば、まだ間に合うわよ
体力が奪われていくにつれ、思考能力も低下している。αの目的が何なのか、すぐには理解できなかった
自分の薬と食糧を全部配ったんでしょう
十分な物資もないのに、どうやって次の保全エリアまで行くつもり?
そう
別のプラン?
どれくらいの間、食べてないの?
雪上で硬くなった体を広げると、脳がゆっくりと動き出した
食べてない期間は……たぶん1日だろうか?昨日、最後の乾パンを病気の老人に渡したから、残っている物資は応急処置用の止血バンドだけだ
しかし、そのことは関係ない。計画上、武装集団に追いつきさえすれば別の保全エリアは近いのだ。余計なことを考えず、計画を練った昨日の自分を信じるだけだった
指揮官!いいものを見つけました!
クロワの声とともに現れたのは、緊張した様子の猫だった。赤い果実を口にくわえて、頭を高く上げると自分の懐に飛び込んできた
こんなところに、なぜ果実が?
ふっ
気のせいかもしれないが、こちらが果実を発見したことを聞いて、リンクの向こうのαが少し喜んだように感じられた
錯覚じゃないの
αの言葉と同時に、チャンネルの向こうから聞こえてくるエンジンの音が更に大きくなった
指揮官、下に行って休憩を取りましょう。湖のほとりで、まだ燃えている焚火を見つけました。焚火の側に美味そうな果実が置いてありまして……
付近の狩人が残したものでしょうか?空中庭園で書物で読みましたが、狩人は後から来る誰かのために、道中で食糧と物資を少し置いていくそうですね
猫の後について丘を下ると、本当に湖の近くに、完全に消えずにまだ燃えている焚火があった
焚火の側には、赤い小さな果実が山と積まれていた。白い雪の上で炎に照らされ、ツヤツヤと美味しそうに輝いている
……ふん、こんな時代に狩りですって?何を狩るの、侵蝕体、それとも異合生物?
チャンネルの向こうのαは、冷たく鼻を鳴らした
それ以上はαと言い争わず、果実を雪で簡単に洗った。甘酸っぱい果汁が口の中いっぱいに広がる。空っぽの胃袋に食料が補充されると、理性と体力も徐々に回復した
とにかく、その……「お人好しの誰か」には感謝しかない
冷たい風が吹き荒れている。αは森の中に隠れて、冷静に前方の痕跡を観察している
彼女がこれまで追ってきたルートからすると、武装集団はおそらくこの付近にいるはずだ
ただ……
彼女はここまでの道中で、自分と武装集団の痕跡を全て隠してきたにもかかわらず、[player name]はもう追いついてきている
最初の予想外のリンクから計算すると、[player name]は少なくとも自分より1~2日遅れて出発したはずだ。それに加えて、連れている保全エリアの住民が足を引っ張っている
[player name]との距離を測るために、αは鮮やかな赤いクランベリーを集め、自分が通った道に置いてきた
チャンネル経由で果実の情報が入れば、あの人間との距離を測ることができる
予想外だったのは、あっという間に[player name]が果実を「偶然に見つけた」ことだ
αと[player name]の直線距離が、ますます近くなっていることが明確になった
追われる危機感が意識海から溢れ出て、徐々に全身に広がる。彼女の手が思わず刀の柄に伸び、ざらざらした模様を握り締めていた
さすが、見込んだ相手だけのことはある
ただし、まだ始まったばかりの段階だ。最終的な結末は誰にもわからない
すぐ側にあった松の後ろに身を隠し、αは目を細めると、森の中に潜んでいるはずの武装集団を見つけようとした
殺すのは簡単だが、誰が資料を持っているのかがわからない。万が一、彼らが散らばって逃げ出したり、資料をどこかに隠したりしたら……
彼女は、必ず欲しい物を手に入れるのだ
……なんか嫌な予感がする
あの保全エリアのやつらで、追いかけて来れるようなやつはいない。安心してください、兄貴
俺たちが奪ったあのメモリーを彼らに渡して、報酬を手に入れたら、しばらくの間は生活に困ることはないですよ!
……いや、やっぱり何かヘンだ
計画していたルートを変更だ。2チームに分かれて、2チーム目は別の道で行こう
えええ、そんな必要ないでしょ、兄貴。あの道はめちゃくちゃきついのに……
……チッ
間に合わない。やつらが分散した上に[player name]が追いついたら、資料が更に手に入りにくくなる
αは静かに刀を抜いた。雪の光が刃に反射して、冷たく鋭い輝きを放つ
ならばここで――彼らにブツを出させるしかない
「バーン!」
数羽のカラスが森の中から飛び出し、木に積もった雪が音を立てて落ちた
その銃声は遠くから聞こえただけではなかった――耳元のチャンネルから、よりはっきりと響いたように思える
あの武装集団でしょうか?
近くで任務中のふたつの小隊と調整して、今こちらに向かっているところです。彼らのスピードなら、おそらく1時間後には合流できるでしょう
端末で新しい場所をふたつマークした。応援部隊には直接、そのふたつの座標に向かってもらう。武装集団に遭遇した場合は、ただちに制圧するように依頼した
了解の返事を受け取ってから、自分の外骨格の出力を上げ、カラスが飛び上がった方向に向かって走り出した
おそらく、αだ
道中の疑念は、銃声の共鳴で確証に変わった。αが追いかけている「ネズミ」はあの武装集団なのだ。αもウィンター計画の極秘資料を探しているのに違いない
αはきっとあそこにいる
再び外骨格の出力を上げて、銃声が響いた方向へと走った
あそこが、最後の戦場だ