Story Reader / Affection / ルシア·深紅ノ影·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ルシア·深紅ノ影·その5

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森の中でαが武装集団に囲まれていた。彼女は冷たい視線でリーダーと思われる人物をじっと見つめている

構造体!?あのボロボロの保全エリアなんか、とっくに見捨てたんじゃなかったのか!?

愚問に答える必要などないといわんばかりに、αは刀に手を添えた

ブツを出して、すぐ去りなさい

……それで、あんたは?何をくれるってんだ?

これをあの保全エリアから持ち出すのに、結構苦労したんだぜ……

生きて逃してやる

……

リーダーが陰湿な目でαを見ている。お互いの戦闘力の差を計算しているようだ

考えても無駄

刀を持つ手に力を込め、冷たく鋭い刃を光らせながら、αは眉根を寄せた。見るからに不機嫌といった様子だ

「バン!」

予想外に、そのリーダーは銃を抜くと、αに向かって発砲した

……チッ

彼女は刀を振って銃弾をかわすと、その後から襲ってくる発煙弾を素早く切り裂いた。暴徒たちが期待していた煙は噴出しなかった

つまらない小細工ね

散れ!逃げろ!散るんだ!

ブツを持ち出せ!報酬は全員で山分けだ!

リーダーが大きく腕を振って叫んだ。素早く横に転がってαの一撃から逃がれ、隙をついて斜面を転がっていく

命令とともに、武装集団がわぁっと声を挙げて散らばり、四方八方に向かって走り出した

それを見たαがバイクにまたがり、逃げる武装集団を追いかけようとした時……

???

α!

視界の隅に見覚えのある人間が現れた。脇の小道から来たようで、体には泥と木の葉がついている

――[player name]だ

後をつけてきたの?

今回は、慈悲深くお目当ての物を譲ったりしないわよ

……

卑怯ね。私を足止めするつもり?

昔話をしている暇なんかないわ

αはバイクを起動して、逃げた武装集団の後を追おうとした

……脅し?

空中庭園と聞いて、αは警戒した目を向けてきた

再び端末で新しいルートをマークして、クロワに共有した

急に現れた「構造体」を不可解だとは思っているだろうが、クロワは微塵も態度を変えず、命令に従って自分がマークした座標へと向かった

……空中庭園の指揮官が、たったひとりで昇格者と一緒にいるつもり?

αは無表情でこちらを見つめている

この状況では、αも自分と協力した方が得策なはずだ

手を組む?

武装集団の人数が多すぎる。たとえもう2組の小隊の応援に頼ったとしても、今すぐに彼らを追いかけなければ、資料が入ったメモリーをどこかへ隠されてしまうかもしれない

計画上、αと自分が協力する以外、お互いが有利になる可能性はなかった

武装集団が混乱に乗じてメモリーを持ち出したら、自分もαも、再び見つけられる保証はないのだ

……計画を話してみて

エンジンの音がやんだ。αはこちらの言い分にはまだ半信半疑のようだ

説明する時間を得られただけでも、いい兆候だと考えた。端末を開けて、素早く3カ所をマークする

……

空中庭園で習った囮作戦のことを思い出したわ。ただ、私はもうかつての弱い「ルシア」じゃない

彼女は微笑んでいるかのように見えたが、その瞳には深い闇が広がっていた

……

αは一瞬黙ったが、そのままエンジンをかけた

ここまで昇格者に接近してるのよ、覚悟はできてるんでしょうね?

どうやら、交渉成立のようだ

バイクにまたがった途端、αはすぐさまエンジンをうならせた

……そう、十分な血清を用意していることを願うわ

エンジンが轟音を立てる。昇格者の腕が鮮やかな赤い光を放った。真っ赤なバイクは血に染まった稲妻のように、想像を絶するスピードで森を駆け抜けた

明るく赤い光の中で、パニシングの数値が凄まじい速度で上昇している

50%……60%……70%……

それにつれて心拍数も上昇し、思わず息を止めた。その数値が防護服で防御できる限界に達しそうになった時、すぐ側で軽く笑う声が聞こえた

もう怖くなった?

パニシングの濃度はちょうど臨界点の手前で止まった

その時、端末から通信音が聞こえてきた

接続すると、クロワの声が響いた

クロワ

指揮官!ここで突然高濃度のパニシング反応を検出しました!検問所に向かって、猛スピードで移動しています!

そして、指揮官の座標が……パニシング反応と重なっています。何があったんですか!?

応援が向かっています。もう少しの辛抱です……

クロワ

しかし……

通信の途中で、突然キーンという鋭い電流音が流れた。クロワの声が聞き取りづらくなる

バイクが急ブレーキをかけた。突然すぎて体勢がとれず、巨大な慣性の作用でαの背中に押しつけられてしまう

応援を呼ぶつもり?

クロワ

(ザ――)パニシング――干渉(ザ――)のことです……

今回の取引、第三者は除外よ

「通信中断」

このまま自分が拉致されるかも、とは思わない?

単純なのか、死を恐れていないのか、どちらなの?

……ふん

冷たく鼻を鳴らすと、αは前進するスピードを上げた。雪が車輪の下で冷たく波打っている

加速するにつれ、耳元で風がうなる。αの声も、風に紛れて途切れ途切れにしか聞こえなくなった

……しっ

しっかり掴まって

言い終わる前に、バイクのアクセルが全開になった。抵抗できない力に体を縛られ、見えない手で吹雪の中に引きずり込まれていくようだ

ふと気付くと、両手を目の前の人物の腰に回していた

防護服を通してでも、柔らかい感触と体温が感じられた。αの体が一瞬硬直したのが、はっきりとわかる

……

予想外にもαは何も言わず、黙ってバイクのハンドルを握っている

冷たい風が肌を突き刺し、雪が豪雨のように降りかかってくる。目に映るもの全てがぼんやりとし、灰色一色に埋め尽くされ、視界の端へと流れていく

天と地の間、空間と時間の概念すらもなくなったように感じる。自分とαだけが吹雪の中を猛スピードで前進しているような感覚だ

どのくらい時間が経ったのかはわからない。突然のブレーキ音とともに、バイクは颯爽と雪の大地に弧を描いて、ある人物の前で止まった

驚いた様子で目の前に立っているのは、先ほど武装集団で命令を出していたリーダーだ

αは即座にバイクから飛び降り、よろよろと後ろに向かって逃げようとするリーダーの行く手を阻んだ

やっぱり、ここだったわね

あなたが持っているはず

……渡すもんかよ!

ふん

彼女はためらいなく刀を抜いた。刀の光で冷たい風を切りながら、慌てて逃げる武装集団を追う

麻酔弾がリーダーの皮膚に刺さり、彼はうめきながら倒れた。αの刀は宙で空を切って、そのまま鞘に収まった

ずいぶん優しいのね

……ふん

αは鼻を鳴らして、否定も肯定もせず、もう刀を振るうことはなかった

彼女がリーダーに近付いてポケットのメモリーを取り出した瞬間、武装集団のひとりが突進してきた。小さなメモリーはαの手から滑り落ち、崖の下へと消えていった

――絶対、お前らには渡さないぜ!

暴徒の最後の叫び声と同時に、αが即座に飛び上がった。そのまま迷いなくメモリーを追って崖から飛び降りる

ここは山の中腹だ。崖の下には奇妙な形で突き出た石がいくつもあって、底の深さはここからはわからない。急いで下を覗くと、そこには誰の姿もなかった

指揮官!大丈夫ですか!?

クロワが荒れた山道から現れると、自分が崖の縁に立っているのを見て、大慌てで駆け寄ってきた

これは一体……何があったんですか?

もしかして、あのパニシングの反応がそうだったと?

クロワに簡単に状況を説明した

……つまり、昇格者の目的は我々と同じだということですか!?これほど深い崖では……これ以上、追跡はできませんね

ここまで来て……昇格者に先を越されたか

端末を操作して昇格者の活動信号を受信した。端末のモニターをタップすると、地図上に赤い点が光っている

実はαとバイクに乗っている時、彼女に位置特定装置をつけておいた。今、赤い点は移動している最中だ

――しかし、取引はまだ終わっていない

抵抗して撃たれた3人以外、残りの武装集団のメンバーを捕えました

指揮官、これから……

再び崖の下を覗いた。まだ心臓の鼓動が激しい。あの白い姿が見えるような気がした

端末のモニターでは、目標を追跡する光が点滅している。それはまるで無言の誘いのようだ

やがて闇夜が訪れた

αが崖の上に立って見下ろすと、ちょうど麓にある保全エリアが見える

日が暮れ、保全エリアにも明かりが灯った。この保全エリアの被害はそう酷くなかったようだ。物資が豊かとはいえないが、彼らは狼狽する遭難者を受け入れてくれた

[player name]もあの保全エリアにいる

微かな明かりが、彼女の瞳に宿る小さな炎を映し出した。αは刀を握ると目を伏せた

彼女はもはや、他人がもたらす「希望」など、期待していない

彼女自身が道を選ぶ。たとえそこに明かりがなくても、暗雲に満ちていても、前が見えなくても

たとえ血を流そうとも、彼女は自分が選んだ道を歩む

崖で負った傷を簡単に手当てすると、αは踵を返して山頂に向かった