Story Reader / Affection / ルシア·深紅ノ影·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ルシア·深紅ノ影·その3

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小さな丘を越えると、αの目の前に大きな氷の湖が広がった

痕跡を隠すために、武装集団はあえてこの氷の湖を渡ったのだろう。雪に残る足跡を警戒したのだろうが、αの追跡がこんなにも早いことは想定外だったと見える

武装集団の痕跡を確認して、αは力強くアクセルを回した。エンジンが鋭い音を立てて、赤いバイクは完璧な曲線を描き、ゆっくりと湖畔に停まった

この氷の湖を渡れば、逃げ回るネズミたちを捕まえられる

バイクのタイヤが、凍った湖の表面に白い跡を残した。αが前進しようとした時、空に漂う濃い煙が彼女の注意を引いた

あそこは……

目を細めて方向を確認すると、αは眉間をぎゅっと寄せた

あれは……保全エリアの方向

[player name]……保全エリアの人々を連れて、あそこから移動しているはず

移動の途中でハプニングでも起きたのだろうか?

悪環境下で補給も少ない、暴徒による襲撃もある。だが空中庭園の執行部隊にとって、ある程度のトラブルに対処することは、別に難しいことではない

しかし、これが原因で[player name]の行程が遅れるのは……興が削がれるというものだ

突然、意識海の中にあの疲れを隠そうとしている声が蘇った。たとえどんな緊急事態であっても、あの人間は決して自分の弱さを表に出さないはず

……

彼女は再び通信チャンネルを開いた

チャンネルの向こうの人間は、唐突に異常な負荷がかかったマインドビーコンに構う余裕がないようだ。誰かと議論している最中らしい

じっと聞いていると、保全エリアの住民たちが「指揮官の特別待遇」と「誰かが物資を盗んだ」ことで、指揮官に抗議しているようだ

クロワ

指揮官は、ここへ来る道中に少し侵蝕を受けています!この血清は、指揮官個人あての配給物資なんです!

あなたたちの食べ物は、全て指揮官が……

おそらく[player name]が連れてきたと思しき構造体が諫めようとしているのだろう。数人の住民が大声で、「あの物資はもともと自分たちの物だ」と主張している

現場は静まり返っている。時々囁く声がする他は、群衆からはこれといった反応がない。αには、周りを取り囲む人々の麻痺したような表情が容易に想像できた

一部の者たちがあげる抗議の声はますます大きくなり、チャンネルが騒音で溢れた。彼女は理解できないというように頭を振った

無駄の多い主張と説得力のない説明など、何の意味もなさない

実力さえあれば、真の発言力が得られるのに

αの冷淡な視線は虚空を漂っている。チャンネルの向こうでは、まだ争いが続いていた

もう少しの辛抱ですから。保全エリアに到着すれば……

そんなの不公平だ!どうして俺たちだけに辛抱させるんだ?指揮官がなんだ!指揮官だったら、堂々と俺たちの食べ物と薬を盗んでもいいっていうのか?

α

ふぅん

α

物資を配るですって?指揮官が持っている物資はたったあれだけなのに?

α

やっぱりね

α

彼らの命が優先、で、自分はどうなの?

α

ということは、お目当ての物は次の保全エリアにあるのね

α

本当に用心深いのね

α

ふうん……また無茶するのね?まったく……救いようのないバカね

……どういう意味だ?

すぐ側に置いてある食糧を取り上げて、面と向かっている住民に手渡した

もちろん!ここに俺たちの保全エリアのマークがあるだろ。でも、あんたのテントから見つかったんだ!

携帯していた赤外線装置を取り出して、包装に光を当てる

これは……

光に照らされると、本来の白い包装紙の上に緑の蛍光色の文字が現れた

なっ……

周囲でざわめきが起こった。住民の顔から血の気が引き、彼は振り返って先ほどまで激しく抗議していたもうひとりを見た。だがすでに人混みに紛れていなくなっている

あんた……

……チッ、お、お前ら、なに見てんだよ!散れ、散れ!

先ほどまでの高圧的な態度とはうらはらに、その人物は手を振りながら背中を丸めて人混みの中に紛れようとした

クロワが一歩前に出て、彼の行く手を塞ぐ

何でしょうか、指揮官

わかりました

通信の向こうの喧噪は徐々に静まった。αはチャンネルを通して、軽いため息を耳にしたような気がした

彼女は、あの人間が隊員に物資の窃盗を徹底調査するよう指示するのを聞いた。そして自分の食糧の一部を配り、免疫血清まで「もっと必要な誰か」に渡すのを

少し侵蝕を受けた?だからマインドビーコンにリンクできたのだろうか

通信チャンネルからこちらに話しかける声が聞こえ、αの思考は中断された

まさか、グレイレイヴン指揮官が非武装の住民を脅迫するなんてね

そう?綺麗事を演説して感動させて、皆で手を取りながら行進するのかとばかり思ってたけど

例えば……「彼らはただ不安だったんだ。保証さえあれば、こんなことはしなかっただろう」とか

何か手伝える?

言っている意味はわかるはずよ

あなたの力をもっと活用するべきね。十分に広い場所が必要だわ

昇格者になって、一緒に新しい道を探しましょう

泥沼から抜ければいい。醜く争うピエロたちから離れるべきよ

断られても別に驚きもしない。αは無意識にアクセルを回して、エンジンを吹かした

……必要ない?

いくら彼らを助けても、彼らはより多く貪るようになるだけ

苦難で人間性を試すべきではない。このような世紀末の時代に生きていようとも我々は、結局のところただの普通の人間でしかない

食べることは、人間にとって必須かつ最も基本的な生存の保証である

誰であろうとも同時に全ての人を救うことはできない。ただ目標に向かって、一歩ずつ前進するしかないのだ

……ふん

チャンネルから聞こえてくる声を聞いて、αはいつのまにかしかめていた眉を緩めた

このような明るい炎を、汚れた泥沼の中でくすぶらせるのは忍びない。これはもっと鮮烈に燃え上がり、強烈に世界全体を照らすべき炎のはずだ

もし彼女がもっと早い時期に[player name]に出会っていたら……彼女はこの人間を自分と同じ道に進められたのだろうか?

それも、今は虚しい妄想でしかない

時間を逆戻しにすることはできないのだ。彼女はやがて、[player name]とは道を分かつ

だから、自分の補給品まで配ったのね

さりげなく話題を逸らして、αは冷たく笑った。最後に聞いた「最適な分配プラン」を思い出していた

記憶が正しければ、この人間が自分のために残した食糧は1日分だけだ。血清に至っては全部差し出していた

そう、解決する気のないその場しのぎのプランよね

せいぜい次の保全エリアまで辛抱なさい。餓死するまでには、確実にあなたのところに現れてあげる

当ててみて

気のない風でその言葉を吐き捨てると、αは再びバイクのアクセルを握った

エンジンの音が響き、氷の湖に積もった白い雪が舞い上がって、αの最後の声を遮った

どこまで辛抱できるのか、見せてもらうわね

見せてもらう。こんな風に耐え忍ぶことがどんな未来を創るのか

彼女は通信チャンネルのリンクを切らなかった