Story Reader / Affection / ルシア·深紅ノ影·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ルシア·深紅ノ影·その2

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空中庭園の小隊が保全エリアに到着する前――

冷たい空気が、不毛の白い大地を包んでいる。まるでここだけ時間が止まっているようだ。丘も森も全てが眩しい白い光で覆われている。ただ――

――目の前にある、焼き尽くされ、廃墟となった保全エリアを除いて

……

遅かったようね

エンジンの轟音が、舞い上がる雪を砕く。αは、保全エリアから少し離れた場所にバイクを停めて、前方の荒廃した街を静かに眺めていた

この保全エリアは誰かに略奪されたばかりらしく、まだ黒煙が上がっている。空気中のパニシング濃度がどんどん濃くなっていた。街の浄化塔が破壊されたのだろう

以前得た情報によると、ここの廃棄された科学研究所に、ウィンター計画のレベル2の極秘資料が保存されている可能性がある。そのため、彼女は休まずに走ってきた

αは無表情のまま、目の前の破壊された研究所を見つめた。残された鉄の看板が、「ガタン」と大きな音を立てて壁から落ちた

そう遠くないところから弱々しい足音が聞こえてきた。彼女は即座に建物の陰に身を潜めた

年配の住民が廃墟に入り、苦しそうに咳き込んでいる。彼女はこわばった面持ちで、皺の寄った両手で崩れたレンガを掻き分けている。何かを探しているようだ

クソ、暴徒たちめ……ゴホ、ゴホン……前から、あいつらが下見に来ていると言ったのに、誰も信じてくれなかった……

冬の食物を奪い、浄化塔を焼き払った……お前たちの善意が招いた結果がこれだ……

……研究所の空き部屋なら、彼らが泊まれると言って……でも、それと引き換えに得たものは……

最終的に残ったのは、更に深い絶望と血にまみれた己の両手だけだ。全てを失った老人は廃墟にひざまづくと、慟哭した

ああ我が子よ、我が子よ!

あの子、教えたのに、ちゃんと忠告したのに!!

……

αは踵を返し、激しく荒廃した保全エリアを後にした

冷たい風がうなり声を上げて、大地をかすめていく。彼女は雪の上の乱れた車輪の跡を見て、背中の刀の柄を握った

彼女の目的はあの極秘資料だ

保全エリアの外――

αは、簡単に近くの地形図を描いて少し考え、武装集団の逃走ルートを絞り込んだ

車輪の跡から推測するに、彼らは小回りの利く小型車両を利用している。おそらく雪で轍が消えてしまう前に、彼らに追いつけるだろう

出てきなさい

彼女は冷たい目で、すぐ近くの廃墟を睨んだ

廃墟の陰から、ボロボロの服を着た女の子がゆっくりと顔を出し、警戒した目で彼女を見ている

あなたは……構造体?

あなたみたいな人たちを見たよ

ついて来ないで

時間を浪費している暇はない。αはバイクにまたがり、エンジンをかけようとした

ま、待って!

どこにそんな力が残っていたのか、女の子は突然廃墟の物陰から飛び出すと、バイクの前に立ちはだかった

……

あの……食べ物、持ってますか?

あの人たちが、街の食べ物を全部奪っていった。私と弟はもう2日間、何も食べてないの。食べ物があるなら……

何かと交換してください!

言い終わる前に、女の子の目から大粒の涙が流れた。彼女は強がって、慌てて袖で涙をぬぐうと、強い視線でαを見つめた

記憶の断片が意識海の中で湧き上がってきた。αは目を伏せ、そっとポケットに手を入れた

ずっと前から、魚の餌にするつもりでポケットに入れていた乾パンがあった

私はお人好しの構造体じゃない。働きもせず物乞いをする誰かに、施しを与える気はないわ

代わりに何をくれるというの?

αの言葉の意味を理解し、女の子の顔がぱっと明るくなり、青ざめていた頬が紅潮した。彼女は慌てて服のポケットに手を突っ込み、αにいろんな「商品」を見せた

これ!これは保全エリアの外で見つけた新しいハンカチ、あと、清潔な包帯、それから……

最後の商品を取り出した時、女の子の手の動きは明らかに遅くなった。それは紙で包装された小さな包みだった。中に何が入っているのか、見た目ではわからない

これは……お母さんが残してくれたヘアピン。これは……お母さんが最後に残してくれた物

じゃあ包帯でいい、取引成立ね

あ……

αの即決に驚いたのか、女の子は無意識に手を引っ込めた。αは包帯を手に取ると、引き替えに彼女と弟が数日間は食べられるであろう量の乾パンを1袋渡した

こ、これは多すぎ!私……

女の子は何かを言いかけたが、αは颯爽とバイクにまたがって、すぐに去っていった

彼女にとって必要以上の感謝など意味がなかった

時刻は夕方になっていた。武装集団の痕跡を追ってきたαは、ほど近い丘の麓でしばらく休むことにした

夜間に動くとやつらに警戒されるだろう。それに、彼女はやつらを徹底的に追い詰めるつもりだった

どこからか現れた猫が、焚火に寄ってきた。白く長い毛の猫はαに敵意がないことを確認したのか、リラックスした様子で焚火の近くに横たわった

パチパチと火花が飛ぶ。αは、真剣な眼差しで機体をチェックし始めた

ウィンターキャッスルの戦闘の後、彼女はウィンター計画の失われた資料を探すために奔走していた。そのため、機体を念入りにチェックする時間が取れなかったのだ

彼女は、ずっとルシアとリンクしているのが嫌だった

時間をかけて意識海をチェックし、彼女はルシアとのリンクが完全に切断されていることに満足した。しかし……

???

ザ、ザ――

しばらく使っていなかったマインドリンクチャンネルが、再び使えるようになっていたようだ

ルシアとリンクしたことで、彼女の信号帯域に変化が起きたのだろうか?空中庭園のセキュリティシステムが彼女の信号をルシアと勘違いしているのだろうか?

あるいは……空中庭園が[player name]をエサにして、誘い出そうとしているのか?昇格者を制御する新しいシステムを[player name]を使って試したいのだろうか?

前回、彼女はパニシングを利用してグレイレイヴンの逆元装置信号を生成し、[player name]のマインドビーコンに逆方向干渉リンクを行った

その後、空中庭園は彼女の信号帯域をブロックしたようだ。時々、気が向いた時にリンクしてみたが、1度も成功することはなかった

冷たい風が木々の間を通り抜けて、ザーザーという音を立てている。αは慣れた様子で例のチャンネルにリンクした

???

ジジ、ジ――

途切れ途切れの電流の音が響いて、馴染みのある感覚が意識海の奥で小さな波を起こした

???

……[player name]指揮官……

リンク成功。微かにガヤガヤと人の声がする。信号が明確になってきた気がする。聞き覚えのある声が何か話している様子が断続的に聞こえる

……[player name]?

電流の音が突然大きくなり、ぼやけた声が彼女の意識海に響いた。はっきりとは聞こえないが、相手が驚いている様子はよく伝わってくる

どうかした?私じゃ駄目なの?

思ったよりスムーズにリンクできた。しかし、相手の驚いた口調は、嘘をついているようには思えない

空中庭園はどういう算段かしら、あなたみたいな貴重なエースを来させるなんてね

どういう風の吹き回しかしらね。空中庭園で優雅にコーヒーでも飲みながら、技術者が私から昇格者の新しい情報を引き出すのを待ってるんじゃなかったの?

それとも空中庭園が、指揮官と昇格者が個人的に接触する機会を与える、なんて致命的なミスを犯した?

チャンネルから相手の答えが聞こえてきた。その口調にαは微笑んだ

相手は明らかに彼女のことを警戒している。それがいいのだが

……ふふふ

その時、彼女は気付いた。チャンネルから伝わってくる雑音は、電波の干渉ではなく、吹き荒れる風の音だと

……地上ね?

会話が急に止まった。αも黙り込む。焚火の側の猫はだらしなく体を崩し、やわらかそうなお腹を火の方に向けている

グレイレイヴン指揮官の反応から見て、なぜ自分の信号帯域が接続されたのかがわからないようだ

この状況……なかなか一興だ

私?私は……命知らずのネズミ狩りってところね

今回は何に対処するために、地上に来たの?赤潮?昇格者?異合生物?

この辺りに……空中庭園がグレイレイヴン指揮官を派遣してまで執行しなければいけないような任務なんかある?

それとも……

しかし、[player name]は彼女の質問に一切答えるつもりがないようだ。逆に、彼女の居場所を探り始めたらしい

……

そういうことね

相手が話しているのを無視して、αは一方的に接続を切った

前回は強制リンクが手に負えないようだったが、今回は逆に、このリンクを利用して昇格者の情報を探ろうとしているのだろうか?

面白い状況だった。これを見逃す訳にはいかない。彼女は、あの人物がどこまで抵抗するのか、見てみたいと思った

αはチャンネルの破壊行為をやめて、振り向くと焚火に薪をくべた

消えかけていた火が、再び勢いづく

αは、氷が割れた大地の上をひとりで進んでいる

[player name]との最初のリンクから1日が経っていた。その間、彼女が再びリンクを試みることはなかった

チャンネルから聞こえる声ではうまく隠されていたが、αは声の主の疲労を察知していた。あちらはあまりいい状態ではないらしい

あの人間は、一体何を探しているのだろう?簡単な捜索任務にエースの指揮官が派遣されることは通常ない。グレイレイヴン小隊がいないから、危険な任務でもないようだ……

……

ふと、ある考えが芽生えた。しばらく考えてから、彼女は再びチャンネルに接続した

……不凍液はなんとか足ります。一番深刻なのは食料不足です。最初の一行の進行速度から計算すると、私たちは……

ぼんやりと電流の音がチャンネルから聞こえてきた。今回ははっきりとエンジン音が聞こえる。それに伴って、もう慣れっこになった意識過負荷の現象が襲ってきた

クロワに静かにするように合図を出す。こちらの表情を見て、彼はすぐに悟って頷くと、口を閉じた

α

そうよ

α

言うつもりはないわ

α

何を心配しているの、私が、あなたたちの不凍液の分配方法に関する秘密を盗むとでも?

激しい風が雪原を吹き荒れ、冷たい息が頬をかすめる。通信の向こうから、エンジン音とともに、低い笑い声が聞こえてきた

α

探し物は見つかった?

α

ふふ、私にカマをかけようとしてるの?

α

どっちが先に欲しい物を手にするか、競争ってのもいいわね

α

好きにしなさい

そう言うと、チャンネルの向こうで再び沈黙が広がった。こんな無意味な会話を気に留めている時間はない、再び注意を手元の物資リストに戻した

その時、少女の怯えた声が背後から聞こえてきた

女の子

……あの、あなたが空中庭園から来た指揮官ですか?

チャンネルからの声

……あの、あなたが空中庭園から来た指揮官ですか?

……弟が、あなたが自分の缶詰を分けてくれたと言ってました。これ、この前、あるお姉さんが包帯と交換してくれた乾パンです……

あの……食べ物、持ってますか?

少し前に聞いたことのある声だ

……

――不凍液、防寒、吹雪……そして[player name]に乾パンをあげる女の子

突然、αはブレーキを強く握った。車輪が地面にこすれて、大きな摩擦音を立てた。彼女はハンドルを握り締め、おぼろげだった予想の確証を実感していた

[player name]は同じエリアにいるのだ。距離も近い

それならば、彼らが探している「何か」とは、自分の目的――ウィンター計画の資料ではないだろうか?

彼女が得た情報によると、この荒れ果てたエリアで回収価値のあるものはひとつだけだ

予想通りなら、今回の狩りは楽しいものになりそうだ。獲物自体はただ逃げ回るだけの雑魚だが、彼女に刺激を与えてくれる競争相手がいるのだから

彼女から[player name]にいかなる情報も与えてはならない。万が一に備えて、彼女がリンクをするのは、必要最低限にしておかなければ

[player name]はこんなにも大幅に遅れて来た上、より少ない情報しかない状況でも、彼女に追いついてきているのだから……

彼女は[player name]との争奪戦も視野に入れておこうと覚悟を決めた