逆さにぶら下がるバーチャルの城の中、光がゆっくりと進み始めた。ゲームが始まっているようだ
相手が最初の一手を置きました
要するに、マス目を進むゲームってこと?
ええ。以前妹がチェスはつまらないと言って、私たちはこの遊び方に変えたんです
ルールは「フライトチェス」や「モノポリー」に似ていて、駒が対応するマスに止まるとランダムイベントが発生します。もし、敵の駒と出会ったら「戦闘」になります
最終的な目標は、なるべく多くの駒でゴールすること。駒の合計ポイントで勝者を決め……あ、今の例はわかりにくかったかも――
いや、わかる
フライトチェス……ゴールまで駒を進めるボードゲーム?耳にしたことだけはある
知っているんですか?
なぜ私が知らないと思うの?
い、いえ、まだあなたのことをよく知らないので……
「マカロン」だって知ってる
甘くてねっとりしてて、そんなに好きじゃないけど
えっ?そうなんですか?
でも、今の話と何の関係が――
……
何か来る、気をつけて
五感とは別の感覚に導かれるように、ブラック★ロックシューターは携えていた刀を抜き、部屋の入口に向けて構えた
次の瞬間、部屋の扉がゆっくりとひとりでに開き、黒いスカートの少女が軽やかな足取りで入ってきた
あなたは……!
お久しぶり。と言ってもそんなに久しぶりでもないわね
彼女はニコニコとふたりに挨拶した
デッドマスター……いると思ってた
ブラック★ロックシューターは珍しく苦々しい表情を浮かべた
それならもっと嬉しそうにしたらどうなの?
どうしてずっとしかめっ面なのよ、笑うと可愛いのに
あなたたち……やっぱり知り合いだったのですね
ええ、私と彼女は運命が定めた宿敵。何人たりとも私たちを分かつことはできないわ
どこにいようと、どんな理由があろうと、私たちは武器を交える定め
どうしたって切れない縁だなんて、ロマンチックだと思わない?
ええと……
……付き合いが長いだけ
ホントに冷たいわね――
待ってください。ということは、あなたは「キング」の創造したスピリッツではないのですか?
それなら、なぜ私たちと敵対する必要が?
利害関係を見れば、あなたも私たちと同じ立場なのでは
利害関係?そんな複雑なこと考えたくないわ
強いていえば、私の立場はこの人とは違う。もし彼女が「キング」を助けるというなら、仲間になるか考えてもいいけど
それは……
彼女はこういう人、これ以上話しても無駄
それに、考える必要もない
これが「ゲーム」なら、私たちは単なる対戦相手だわ
だから、ここで対戦すればいい、違う?
前回、前々回、前前々回みたいな奇襲はさせない
毎回毎回奇襲されているのですか……?
いいわ――もう待ちきれないの!
――といきたいところだけど、ダメよ、もうちょっとだけお預け
デッドマスターの前で微かに光るサイコロが、まだ進むべきマスに移動していないことを意味している
彼女の足下にはブラック★ロックシューターのものと同じ形のマークが輝いている。白の「クイーン」だ
じゃあ、お先にゴールさせてもらうわ
彼女はふたりを素通りし、部屋を離れた
初対面からインパクトの強い方でしたけど……本当に自由気ままな方なんですね
私はもう慣れてる
彼女が白の「クイーン」……
一度剣を交えたことがありますが、彼女の力は侮れません
うん、私が一番よくわかってる
その時、ブラック★ロックシューターのサイコロがひとつ光った
サイコロは空中を転がり、「11」の数字を上にして止まった
私たちの番だ
11……指揮官の運気、悪くないですね!
「クイーン」は他の駒よりも機動力に優れていますから、このゲームでは有利な駒です
ポイントも一番高いので、他の駒を犠牲にしてでも、「クイーン」を最優先でゴールさせるのがセオリーです
ルシアはこのゲームの制作者のひとりだ。遠い記憶であっても、彼女は妹と一緒にこのゲームで遊んだ時間を覚えている
……先に行く
はい
ブラック★ロックシューターは手短な挨拶でルシアに別れを告げると、サイコロの指示に従い、次の位置へと移動した