トロッコは軋むような音を立て、ガタガタと震えたものの、どうにか起動した
トロッコの起動に成功し、踵を返してリーフの側に戻った。鉱坑に唯一残るトロッコはゆっくりと動き出し、次第に加速していった
ローデンツ小隊の探索記録、ラボの管理制度、機器リスト……
リーフは研究所の外部から得た資料をめくりながら、有用なものを選んで端末にスキャンしていった
特に価値のある情報はなさそうです。もしかして……うん?
リーフの手が一瞬止まり、すぐに指先が素早く動き始める。画面上に、ある報告書が浮かび上がった
番号III-0007-サイコロジスト第3世代――
サイコロジスト第3世代……これはモリノアの診療記録?
来訪者初診表
氏名:アンドルー
年齢:36
婚姻状况:既婚
職位:第2区隊-採炭機運転士
初回相談日:xxxx年xx月xx日
症状:重度の職業性倦怠感
家庭状況:既婚、子供はひとり。居住都市に3年間戻らず
もう嫌だ、仕事なんてしたくない……家に帰りたい……!
どうしたいのか、ご要望をお話ください
言ってるじゃないか!家だよ!家に帰りたいんだ!
何が職業性倦怠感だ!精神的な病でも何でもない、俺は病気なんかじゃ――!
感情剥離プログラム、起動
プログラム稼働中――
感情剥離プログラム、完了
…………
いくつかの電極パッドに繋がれたアンドルーは、呆然とした表情を浮かべていた
どうしたいのか、ご要望をお話ください
要……望……
俺は何を……したかったんだ?
心理相談は終了しました。評価をお願いします。またのご利用をお待ちしています
来訪者初診表
氏名:ジェニカ
年齢:40
婚姻状况:既婚
職位:第3区隊-油圧支柱作業員
初回相談日:xxxx年xx月xx日
症状:重度の職業性倦怠感、夫婦関係の緊張
…………
来訪者初診表
氏名:モナン
年齢:47
婚姻状况:既婚
職位:ラボ第3班-研究員
初回相談日:xxxx年xx月xx日
症状:重度の職業性倦怠感
…………
ただの診療記録にすぎないが、それは1300件を超えていた
…………
モリノアが払ってきた努力を記した、2600ページを超える「証拠」を前に、ふたりは思わず無言のため息を同時に漏らした
続いて出現したのは数年にわたる監視映像だった。映像は「心理診療室」に座るモリノアの視点からのものだ
彼女はそこに腰かけ、笑みを浮かべながら、「受診」しにきた鉱坑労働者やラボ職員ひとりひとりに対応していた
誰もが怒りに満ちた顔で診療室に入り、そしてスッキリとした表情で出ていく
映像内で、どれほどの時間がすぎただろうか……
まずい!あの機械たち……全部が狂った!
上から退避命令が出た、急げ!退避しろ!ぐうっ――
おい!死ぬな……クソッ!どうすりゃいいんだ!?
どうもこうもあるか!走れ!
モリノアはどうする!あれは会社の財産だぞ!
財産なんざ知らん!こっちは死にそうだってのに悠長な!
騒音がしばらく続いたあと、カメラは傾いたまま地面に倒れ込んだ
恐らく鉱坑内部の発電機がまだ稼働していたため、カメラの電力は途絶えなかったのだろう
映像内で、またどれほどの時間がすぎたのかはわからない……
机の後ろに鎮座していた「番号III-0007-サイコロジスト第3世代」は、誰にも起動されずともゆっくり目を開いた
彼女は、乾燥して硬くなった金属の関節をギィギィと軋ませながら立ち上がり、カメラに近付いた――
……もうすぐ反対側のラボに到着します、指揮官
