Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-20 夢醒めの刻

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蜘蛛の糸の彼方にある力はあまりにも強大で、しばしの間、モリノアは「幻境」を維持することができなかった

漆黒の狭間を裂くように、一筋の天光が差し込んだ

息を詰め、集中する。だが、ふたりが再び新たな幻境へ落ちることはなかった

天光がゆっくりと広がっていく

……うまくいきました、指揮官

もうすぐここから出られます……

彼女は指揮官の「目」をそっと覆った

次に目覚めた時、私たちは現実の世界で再会できるでしょう……

その刹那、白光が溢れた。リーフの手の平越しであっても、力に満ちた輝きがはっきりと感じられるほどだった――

次の瞬間、世界は闇に包まれた

意識は優しく肉体へと戻され、自分の知覚の全てが現実へ回帰したことを告げていた

網膜がようやく暗闇に順応した。まだ薄暗い視界に映ったその場所は依然として鉱坑の中で――リーフと最後に会ったところだった

最後の記憶は、怪しげで不気味な鉱物に覆われた岩の台を必死に登り、リーフと深層リンクをしたこと……

台の横からカサカサと微かな物音が聞こえた

…………

金色の瞳をした子供が、台の脇に立っている

彼女ははっきりと理解していた。モリノアが失敗したことを

ほとんど万能ともいえた「養育者」が、初めて失敗した。彼女が望んだ「食べ物」を持ち帰ることができなかった

どうして……こんなことに?

彼女は不可解そうに台を見つめた

あなたたちは……私を愛してるんじゃないの?

台の上ではふたつの人影が寄り添っていた

銀髪の少女は目を閉じ、武器を分散させ糸を絡めて繭を作った。不気味な鉱物に侵蝕されないよう、繭の中で人間人間をしっかりと守っている

愛の繭が、その中心で人間を優しく包み込む。彼女は自分の全ての世界を抱いていた

愛って……養育者みたいなものじゃないの?

望めば与える。彼女が欲しがり、養育者が手に入れられる限りは

わからない……

「アシュリン」は裸足のまま台に登ると、戸惑いながら手を伸ばし、リーフに触れようとした……

すると武器が突然飛散し、ふたりの周囲を覆っていた鉱物がガラガラと砕け散った。異色の石塊が砂のように崩れ、サラサラと地面へ落ちる

人間が力を込めて「繭」の外殻を破った。台の縁に青い髪の少女が立っており、リーフを包み込む鉱物に触れようと手を伸ばしていた――

黒々とした銃口が真っ直ぐに「アシュリン」を狙う

……どうして……

愛という名で編み上げられた虚偽の幻境……それは本当の家族ではない

私はふたりともふたりとも愛してる。だから一緒に……

彼女の足下に弾丸が撃ち込まれ、飛び散った泥が彼女の足に降りかかった。子供は黒々とした銃口を恐れるようにビクッと身をすくめた

彼女はリーフを、そしてモリノアも自分も、ただ利用していただけだ

青い髪の子供は黙り込み両目を伏せた。とても悲しげに見えたが、その悲しみが嘘か真実かはわからない

指揮官……

鉱物が耳障りな音を立てて砕け、リーフが目を覚ましかけていた

…………

「アシュリン」は数歩後ずさると、クルリと身を翻して別の坑道へ向かって駆け出した

彼女は最後に台へと視線を向けた

台の上のリーフはすでに目を覚ましていた。警戒するように武器をすぐ側に浮遊させ、身を乗り出してこちらに何かを語りかけている……

彼女に、今のリーフに対抗する術はない

彼女はハッキリと感じ取っていた。何か抗いがたい「触媒」の下で、リーフの意識海が徐々に満ち、強さを増していくのを

幻境に抵抗しモリノアに対抗したリーフを、今の「アシュリン」が相手にできるはずもない

それに、あの人間……

なぜ自分の力をもってしても、あの人間の意識へ侵入できないのだろう?

そしてなぜ……自分はあの人間に近付きたいと渇望しているのだろうか?

「アシュリン」

お帰りなさーい!

アシュリンね、今日もたくさんの果物を採ってきたんだよ!

だから、草原って何~?

うーん、アシュリンは、草原を見たことがない

薄暗い鉱坑の中を、「アシュリン」は裸足のまま駆け続けた

彼女の手の中にはグレイレイヴンの徽章があった。無数の疑問と、満たされぬ飢えを抱えながら、ただひたすら駆け続けた

彼女にはまだ、長い長い時間がある。いつの日か……必ず全てを解き明かす時が来るだろう

彼女は必ず成長するのだから

……指揮官!

悪夢から目覚めたばかりのように、リーフは慌ててこちらの姿を探し出した

……アシュリン!

遠くないところに子供の背中を見つけ、リーフは瞬時に戦闘態勢に入り、武器を抜いた

だが次の瞬間にリーフは体勢を崩し、隣にいたこちらの腕の中へ倒れ込んだ

限られた条件下では、たとえ深層リンクをしても、自分にできるのはリーフの意識海を安定させることだけだ。外層に広がる混乱を収めることはできない

外層はまだ混乱しています……でも指揮官とリンクしているお陰で、さほど深刻ではありません。問題は、この鉱坑内部にあるのでしょう……

鉱物の影響かもしれませんが、私はそれだけではないように思います

リーフは素早く台から鉱物をひとかけら採取してサンプルボックスに収めると、眉をひそめた

アシュリンは鉱坑の奥へと逃げたんですね

恐らく、鉱坑の奥には鉱物を研究する研究室があるはずです。モリノアも、もともとはそこに勤めていたと話していました

通信を試しましたが、繋がりませんでした

ローデンツ小隊が送ってきた簡易マップを素早く開くと、前方の未探索の部分に大きなクエスチョンマークが記されていた

彼らはそこまでの深部は探索していない。だがこのマップをたどれば、彼らの進んだルートを見つけられるはずだ

はい