Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-12 リーフの選択

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散発的に襲いかかってくる異合生物を倒しつつ、リーフとモリノアは前方のキャンプへと徐々に近付いていった

指揮官……?

リーフの足取りは失望のせいで重くなった。キャンプは無人で、安全区域の周囲に異合生物の残骸が散乱しているだけだった

指揮官はアシュリンを連れてここに来た……ふたりふたりはここで戦った……

異合生物が巻き上げた土埃を払うと、リーフの顔つきが険しくなった

地面に血痕が現れた――それは人間のもので、広範囲で明らかに大量の出血を示していた

リーフは眉根を寄せ、指揮官に通信し直そうとした

広い鉱坑に呼び出し音が反響する。だがどれほど待っても、応答はなかった

ふたりふたりはもっと奥へと進んだのでしょうか?

そうかもしれません……

何度も通信をかけ直しながら、リーフは先に立って奥へと進んだ――ここはすでに鉱坑の奥深くだ

意識海の幻痛からくる幻覚なのか、それとも鉱坑自体の反響なのか、低く微かなブーンという音が彼女の耳元でずっと響いていた

「通信不能」を告げる音が、ある角を曲がった途端ぴたりとやんだ。代わりに聞こえたのは、異合生物の獰猛な咆哮――

あれは……あの怪物たち!?また来たの!?

モリノアは緊張し、拾ったばかりの鉄の棒をぐっと握り締めた

このままではいけない

リーフは静かに目を伏せた。たて続けに起こるトラブルはさほど激しさはないものの、その頻度が恐ろしく高い

漠然とした不安が常に心にまとわりつき、その不安を振り払おうとするかのようにリーフは小さく首を振った

リーフは目を閉じ、意識海の中に沈んだ

まだ癒えていない意識海は依然、混沌としている。過去の記憶、現在の感覚、未来のプレビューが入り混じり、互いに錯綜しながらも重なり合っていた

…………

精神を集中すると、彼女の意識は白い鳥へと姿を変え、混沌の天穹へと飛び立った

[player name]…………

彼女はその名前を呟きながら翼を広げ、渦巻く黒い雲の中へと飛び込んだ

リーフ、戻っておいで、食事の時間よ。いつもカーリッピオに庭まで呼びに行かせて。いけませんよ

……衛生兵、いや、恐れ入った

彼女が大きくなったら、教えてください……パパとママが……彼女をこの世に連れてきたのは……

こんな壊れた世界でも……美しいと思ったからだと……

生死を達観したベテランの医者がそう言ったって、言葉に重みがないのと同じ。私はいつだって、自分の大切な人を優先して考えます

その光景は翼の間を水のように流れ、衰退と繁栄の記憶が枯れてはまた芽吹く

一方、逃げている最中だったマインドビーコンが、彼方からの幻痛を受け取った。これは……リーフ?

脳は水を吸ったスポンジに包まれているかのようで、湿っぽく重たい記憶の歯車がゆっくり回転した

記憶はとめどなく渦巻き、時間の大河はゆっくりと逆流して、リーフが新機体に適応したあの日で止まった

朝の6時

指揮官は科学理事会の機体適応室の前に立っていた

人工天幕が本物のような夜明けを再現し、朝焼けは煌びやかな織物のように、空いっぱいに広がっていた

視線を空から戻すと、機体適応室ではロサがアシモフの指示に従って、リーフの新機体の各適応データを調整していた

起動パラメータを入力し、バーチャルリンクを開始する

リンク成功。ロサ、機体データを記録しろ

はい、アシモフ先生!

ハセンとの「雑談」はいつしか暗黙の秘密となり、あの後リーフとハセンも話し合っていた。自分は彼女が休憩室に戻る前に、すでに彼女がどちらを選んだかわかっていた

指揮官……

少女は指揮官を見つめ、申し訳なさそうに微笑んだ

はい、指揮官

リーフと自分は肩を並べて立っていた

はい、アシモフさんは私に全て教えてくれました

その不確実性は十分に理解していますし、そのせいで生じる可能性についてもわかっています

リーフの落ち着いた笑顔を前に、胸に渦巻くたくさんの思いや言葉が、結局ため息に変わった

「選択」にしろ、「新技術」にしろ、ただ……なぜリーフが?

彼女の細い肩はすでに多くの重荷を背負っているのに、なぜ更に背負わせるのか……

指揮官、言いたいことはわかっています

彼女はそっと自分の手を握った

指揮官が以前、私に何を訊いたか覚えていますか?

緋色の茨に抱かれた少女は、永遠の夜へと堕ちていった。諦めの悪い語り部は、血塗れの白い鳥を抱え、星の海でそっと包み込んだ

あなたは私に訊ねました……

「もし自分の未来が茨の道だと知っていても……それでも未来に向かうことを選ぶ?」

ふたりの声は次元を超え、奇妙に溶け合った

このやり取りを何度繰り返そうが、私の……リーフの選択は、変わることはありません

指揮官も、同じですよね?

リーさんとルシアから、指揮官が経験したことについて……少し聞きました

指揮官の側にいられなかったのはとても辛いですが、少し嬉しくもあります。あんな絶望の深淵を経験しても、指揮官はまだ私たちの希望を取り戻すことを諦めなかった

どんな苦難に直面しても、前に進むことを決して諦めない……

このデータが新機体に適合していることが嬉しいんです。それにこのデータが新たな可能性を開いてくれることを願っています……たとえほんの少しだろうと

この世界にもしノアの方舟が実在するなら、私は緑の枝を運ぶ白い鳥でありたい

たとえ選択の代償が命であっても、誰かがこの僅かな緑の希望に頼り、皆が待ち望む未来にたどり着けるなら……

洪水が引いたあと、苦しみの涙は美しい花となって咲き誇り、失われた魂は大地で歓喜の歌を響かせる

だからリーフが新しいデータの試用申請書に記入することを止めなかった。新機体への交換は着々と進められていた――

意識転移は成功した。リーフ、今の気分はどうだ?

アシモフの声に意識を呼び戻され、はっと振り返った――

機体適応室の中で、リーフの初回新機体への交換はすでに終わっていた

伝い歩きの幼児のように彼女はゆっくりと立ち上がり、窓の外で待つ自分に向かって優しく微笑んでくれた

どう?

背後に突然、馴染み深い振動があった。振り返ると、ヒポクラテス教授が無表情な顔つきで立っていた

リーフの新機体への適応はどんな感じです?

そう

教授はいいとも悪いとも判断しかねる表情を浮かべ、腕を組みながら室内で戦闘シミュレーションテストを受けているリーフを見つめていた

シミュレーション侵蝕体がリーフに飛びかかる。最初はぎこちなかった動きが次第に滑らかになり、彼女は新機体に素早く順応していった

あなたでも彼女を説得できなかったのね

とぼけないで

ヒポクラテスは眉を吊り上げ、ちらりとこちらを見た

……だから、私は命を大切にしない君たちのような若者が本当に嫌いなのよ

信仰だの、理想だの、希望だのと叫んで、前にあるのが汚いドブでも、赤潮に染まったマリアナ海溝でも、気にせず次々突っ込んでいく

突っ込む前に、少しは誰かに相談しようとか思わないの?私たち年寄りは、まだ死んじゃいないわよ?

新しいチャンスとか、ハセン議長がこじつけてた選択とかもね。前から言ってるでしょう?どちらの数も同じなら、私はいつだって大切に思う人のことだけしか考えない

窓の向こうで少しずつ新機体に馴染んでいくリーフを見つめながら、ヒポクラテスは怒りをぶちまけ、ため息をついた

まあいいわ。あなたを責めるつもりはない。どうせ彼女の決断は誰にも変えられないし

賛成反対を言いたいわけじゃないわ

私がこのデータの前期研究に参加し、リーフの新機体でシミュレーションテストを行った時、確かにリーフの意識海の幻痛をある程度「癒す」ことができた

でもこのデータは……実機でテストをしていない以上、問題がまったくないとは言い切れないの

私に決定権があるなら、彼女には幻痛を抱えたままでも、普通の構造体として生きてほしい。「希望」なんてもののために、自分の命と引き換えに前線に立ち続けてほしくないの

私は彼女にこんな危険を冒してほしくない

彼女が空中庭園のためにしてきたことは、もし黄金時代なら、世界政府から100個もの勲章を授与されて、名誉ある引退を迎えられるくらいだもの

ヒポクラテスは苦渋の表情を浮かべた

彼女はいつも、自分が犠牲になろうとする。根本的に「自分の命を大切にする」という考えがないのよ。私も1度や2度なら助けられるかもしれない。でも、そのあとは?

フン

彼女は不信感たっぷりに冷たく笑った

…………

どれほど困難があろうと、どんな道が待ち受けていようと、自分は決して諦めない。必ずリーフを連れ戻してみせると

教授は無言で睨みつけてきた

あなたが騙すとは思っていません。私が心配しているのは、あなたが叫びながら彼女と一緒に赤潮に飛び込むんじゃないかってこと。さっきの話、あなたのことでもあるのよ

ほんと、あなたたちはまだまだ子供ね

機体適応室にいたリーフが初歩的な戦闘テストを終え、こちらに向かって歩いてきた

もういいわ。行って彼女と話してきなさい。機体を交換したばかりだから、きっといの一番にあなたに会いたいはずよ

ヒポクラテスは首を振って、ゆっくりと去っていった

指揮官……来てくれたのですね。今いらしたのはヒポクラテス教授?どうして行ってしまったんです?

指揮官……

鉱坑の中で、リーフは神経を張り巡らせていた。無数の思い出の欠片を通りすぎ、意識海の中で指揮官の痕跡を探し続けていた

……指揮官

意識海に走る痛みも、彼女を阻むことはできない。彼女は意識海をかき乱して分厚い雲を払い、再び指揮官とのマインドリンクを呼びかけていた

必ず……あなたを見つけ出します