Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-13 視覚妨害

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鉱坑の深奥

鉱坑の深奥

記憶の欠片を払いながら、指揮官はアシュリンを連れて鉱坑の中を走り続けていた

キーン――

ハッと足を止めた途端、脳に異様な感覚が走った。また意識が攻撃されている。ただ、今回それに狙われているのはマインドビーコンではない

まるで冷たい水が背骨の中に流れ込むような感覚があった。じりじりと焼けるような微かな感覚が神経の末端から広がり、次第に網膜にまで達した

周囲の空間に、何かが高速で編み上げられていく――

ドォン――

そこから逃げ出せずにいた時、目の前の道が突如、断崖へと変わった

踏み出しかけた足を思わず引っ込める。だが記憶では、この先には必ず坑道があるはず……

断崖はあまりにもリアルだった。自分の記憶を疑って石を投げようとしていると、女の子がうろたえながら服の裾を掴んだ

何かあったの?

ドォン――!!

子供を落ち着かせようとした時、再び大きく揺れ、照明が激しく揺れた。しかし爆発の発生場所がわからない

もしやリーフがいる辺りではないだろうか

警戒して銃を抜いて辺りを見渡したが、他に異常は見当たらない

……指揮官!

リーフの声が右側の坑道から微かに聞こえてくる

前へ進むことをきっぱり断念し、子供の手を引いて右側の坑道へ進んだ

暗くて長い坑道に入って数歩も歩かぬうちに、岩の背後から1体の異合生物が飛び出してきた――

バンッ――

銃声が岩に反響し、異合生物は悲鳴とともに散った

何かが……あるいは誰かが、自分の思考認識を操り、幻境に引きずり込もうとしている

先ほど離れたばかりの坑道へ戻ったが、断崖が依然としてそこにある

つい先刻まで自分と通信していたリーフが右側の坑道にいるはずがない

地面の石を拾って前に向かって投げた

石はまるでクリームが溶けるように断崖の先に消えたが、すぐに地面にカツンと当たる音が聞こえた

やはり視覚神経が干渉され、錯覚を起こしている

誰がこんな幻境を作り出した?その目的は何だ?

足を断崖の縁から踏み出す。予想通り、しっかりと地面を踏む感触があった

天地がぐるぐるとひっくり返る

リーフ

指揮官……

声が四方八方から聞こえた次の瞬間、またもや絶壁の突端に立っていた

マインドビーコンが安定しているのを確認し、迷わず真っ直ぐ前へ進んだ――

次の瞬間、ふたりの前に明るく陽光が差す保全エリアが現れた

あら、もう戻られたのですか

モリノアがあなたたちを探しに行きましたよ。彼女に会え――

銃弾は保全エリア責任者の背後の壁にめり込み、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。そしてすぐにばらばらと剥がれ落ちた

周囲はいまだ鉱坑の中のようだ

相手の「幻境」は自分の視覚神経にしか干渉できず、本当の意味で幻覚に陥らせることはできない

考えることをやめ、端末の地図を呼び出して素早く確認すると、女の子を抱き上げて背負った

……!!

端末をリーフの通信画面に固定し、子供にその大きな緑色のアイコンを見るように教えた

……これを押せば、通信画面になる

彼女はよくわからないまま復唱した

向こうの人が何か話したら、すぐに教える……

彼女は通信ボタンを押したが、呼び出し音が数十回鳴るだけで、やはり繋がらない

う……うん

女の子は落ち着いた様子で操作し、背後からは呼び出し音が響いてきた――彼女はきちんと指示を聞いてくれていた

私たち……ここから出られる?

物資を再確認し、右側の壁にそっと触れた

自分とリーフが鉱坑に入った時の記憶では、前に進んでふたつ目の分かれ道を右に曲がれば、ローデンツ小隊が残した2番目の安全区域にたどり着ける

そこに放置されたままのクレーンは明確な目印となる。迷宮のような坑道の中で、合流地点とするにはうってつけだ

周囲の全てが古びた壁紙のように次々と剥がれ、さまざまな情景が黄金時代の映画の書き割りのように、ふたりの周囲で繰り返し構築されている

指揮官、この先は崖です、それ以上行ってはいけません――

指揮官、輸送機が墜落します――!

[player name]……あなた、今夜は戻って夕飯を食べます?

足を踏み出した瞬間、幻聴と周囲の幻影がガラスのように砕け散った

次の曲がり角を越えれば――

あ……あの化け物たちが……

女の子が突然、自分の服をギュッと握りしめた

パニシング濃度が急上昇し、監視機器は赤い光を点滅させている

異合生物が苦痛で咆える――残念ながら、今回は幻覚ではない

異合生物がすぐ側まで近付いたせいか、女の子は怯え、泣きじゃくっている

また数体の異合生物が反対側の通路から飛び出した。連射で銃身が熱を帯び始めた

背後からの攻撃は避けられたが、側面にいた異合生物の攻撃は避けきれなかった――

前方の異合生物は撃退したが、背後からの攻撃は避けきれなかった――

異合生物の鋭い爪が人間の軍靴を引き裂いた

……怪我してる!

携帯している弾薬はそれほど多くない。節約するべきだが、幸い、襲ってくる異合生物は多くはなく、なんとか対処できた

向かうべき方向へ走っていた時、背後の呼び出し音が突然ホワイトノイズに変わった……通信が繋がったのだろうか?

掠れたホワイトノイズは聞こえるが、向こうからの声はない

化け物……追ってきた……

残弾数を頭の中で計算しながら再び発砲し、ふたつ目の弾倉を装填した

空の弾倉が地面に落ち、ガシャッと音を立てる。声をかける余裕もなく、異合生物の追撃を振り切ろうと急いで進んだ

左の分かれ道は真っ暗闇だ。照明でかろうじて足下を照らせる程度だ

右の分かれ道は地震で崩れた石や土が散乱し、足場が悪い

分かれ道の入り口に転がる異合生物の死体。銃口と死を恐れたのか、それ以上追ってくることはなかった

血がいっぱい……

アシュリンが鼻をすすりながら、自分のふくらはぎを指さした。手当てをする余裕がなく、傷口からは今もだらだらと血が流れていた

服の裾を裂いて応急処置をしようとした時、「通信中」と表示されたままの端末がふと目に入った

……指揮官?

リーフの意図的に抑えた声が端末の向こうから聞こえてきた

通信は相変わらず途切れがちだった

指揮官……怪我……?

腰……応急ポケットに……薬品……

まるで情報をひとつでも聞き漏らすのを恐れるかのように、彼女はその言葉を繰り返した

応急ポケットを探そうとした時、視界が急にぼやけ、数体の異合生物が分かれ道から顔を覗かせたのがぼんやり見えた

化け……

ふたりで息を潜めて岩壁に張りつき、照明も消した。手持ちの弾薬も少なく、当面は戦闘を避けるしかない

異合生物は中に入ってこようとはしない

何が……指揮官たちを……追っていますか?

分かれ道の入り口で倒れていた異合生物が、肉眼でわかるほどもぞもぞと動いた。それが自分の幻覚なのかどうかもわからない……

銃声が鈍く響き、異合生物が猛り狂いながら立ち上がった――

呆然としている女の子の手を引き、真っ暗な鉱道の奥へと走った

端末の通信は再び途切れた

鼠を狩る猫のように、異合生物はいつもまったく予測できない場所に現れる

幻覚の場合もあれば、本物の異合生物の場合もある

パニシング濃度の監視機器で本物かどうかをかろうじて判断しているが、続けざまの戦闘のせいで、疲労がどうしようもなく脳に押し寄せていた

曲がりくねる坑道を、大まかな地図を頼りに正しい方向を探した。もうどれだけ歩いたかもわからない

バンッ――

3つ目の弾倉に交換し、残りの弾薬数を心の中で数えながら分かれ道を曲がろうとした時、ふいに戦闘音が聞こえた

また幻覚なのか、それとも現実?

坑道を進むと、前方で異合生物が金切り声をあげて倒れ込んだ。ある人影が必死に武器を振り回している――あれはリーフ!?

彼女はどこかに怪我を負ったようで、壁の隅に寄りかかり、腕を上げるのも辛そうだ

……指揮官!ここにいます!

彼女も近付いてくるふたりに気付いていた

よかった、やっと見つけました……うっ!

循環液が絶え間なく流出し、彼女は痛みにうめき声を上げた

指揮官……手を貸していただけませんか?足が……立つことができなくて

指揮官?どうしたんです……私です、リーフです……

そんなはずはない

彼女の名を呼ぶ気にもなれず、踵を返して立ち去ろうとした――

シーッ……指揮官!

角を曲がると見覚えのある姿が近付き、やや強引にこちらの肩を掴み、別の方向へと連れていった

指揮官……あれは本物じゃありません、私こそがリーフです

心配と緊張が入り乱れているように、リーフは眉をひそめた

ここは……あまりにおかしいです。人間の脳と構造体の意識海に干渉する何かがあるみたいです

たくさんの「幻覚」を見ました……指揮官と、それ以外の人も

ここの鉱物に問題があるのか、それとも他の何かに問題があるのか、はっきりとはわかりませんが……

まずはここから離れましょう……ついてきてください

彼女は手招きし、ついてくるよう合図した