緑のローブをまとった少女は九龍環城からほど近い山の頂に立っていた
異合生物はおとなしく彼女の足下に伏せ、少女は九龍環城の中で燃え上がる炎と砲火を遠くから見つめていた
華胥が再起動され、皇帝は華胥の権限を力ずくで奪おうとしたが、九龍の主の剣に破れた
文明とは……こういうものです
戦いと希望に満ち、衰退し、繁栄し、再び衰退していく
同じ台本であるはずなのに、演じられる光景はどれも違う。本当に面白いですね……
敗勢はすでに明らかだった。空中庭園の支援部隊が改良型浄化塔コアを輸送し、アシモフとネヴィル、ヴィリアーの協力の下、浄化塔コアは迅速に臨時起動された
パワーは本物の浄化塔には及ばないものの、九龍城内の赤潮と異合生物を駆逐するには十分だった
ただ……なぜ私はあのタイミングで
コレドールはうつむき、足下にいる異合生物の頭をそっとなでた
声は変わらず穏やかなままだったが、異合生物は身をすくめ、動きたくても動けない様子だ
キィ……
確かに、コレドールは九龍の重厚な文明を渇望していた。万世銘に満ちるあの情報は、まるでエデンの禁断の果実のように、さあ摘み取れと言わんばかりに彼女を惹きつけた
だが、策略に疎い人間であってもわかる。今はその時ではないと
赤潮はまだ十分に広がっておらず、
それなのに、シュルツの協力依頼をコレドールはためらいなく当然のように受け入れた。それがあまりに自然だったせいで、両者とも少々戸惑っていたほどだ
もしかして……皇帝のコードが赤潮に侵入したからでしょうか?
コレドールの手が止まると、異合生物はすぐに制御を失ったように、低い鳴き声をあげた
キィ――……!
……
ふふ――いい子、怖がらないで
鳴き声で現実へ引き戻されたコレドールは軽く鼻で笑い、再び手を動かした。足下で身をすくめる異合生物をなだめながら、非現実的な考えを頭から振り払った
彼らの文明は同じ起源ではない。シュルツが単純な「データ」で華胥を操ったように、彼女を操ることなどできないはず
彼女は再び顔を上げ、鉄と血にまみれた九龍環城の方を見た。だが、その視線は更に遠くに向かい、彼女は目を細めた
更に大きな世界の――脚本なのでしょうか?
作家がこの脚本でコレドールを形作ったとしても、この描写が別の脚本の一節ではないことを、誰が保証できるだろう?
コレドールは、彼女が生まれた時のことをいまだに覚えている
それはまだ書きかけの小説、何年もかけて書いている物語だったはず
アポカリプスの後という世界観、「潮の声」という災難、失われた古代の智慧、深淵へと向かう旅……
無駄な修辞句、わざと難解な言葉を並べるのが作者の癖だ。そのせいか、作者以外に最後まで読み切ったという人はまだ現れない
彼女はその作品の中で生まれた
赤潮が彼女の肉体を作り直し、潮の声が彼女の意思を形作った
彼女はコレドール――赤潮に生まれし生物
彼女は赤潮を導き、この世界を歩ませる。彼女の使命は赤潮の文明を築くことだ
もし……この世界が本当にすでに書き記された物語なのだとしたら……
その中で、私は一体どんな役割を演じているのでしょう?
少し考え込んだあと、彼女は声をあげて笑い出した。緑のローブの少女が裾から溶け出し、一面の赤潮となって山林へと押し寄せた
彼女はその不調和の原因を突き止めたかった。本当に自分の名前が記された脚本が存在するのかどうか、見てみたかった
何より重要なのは……
山林に押し寄せる赤潮はますます凶暴さを増した。まるで見えない筆先が大地の上に描き出した墨跡のようだ
この物語、果たして十分楽しめるものでしょうか?
九龍住民の皆様、ご注意ください――
大規模な戦闘は終息しつつあり、異合生物たちは徐々に撤退していた
環城外縁で任務に就いていた空中庭園支援部隊は、万世銘の地表の崩壊後、ただちに救援を開始した。九龍衆たちも休む間もなく、市内で生存者の捜索にあたった
災害救援物資は九龍衆本部左側で受け取ってください。臨時の捜索救助隊に参加を希望する住民の方は、九龍衆本部右側で職業登録を行ってください――
九龍衆の指揮のもと、救援活動は秩序立って進められている
昇り始めたばかりの朝日を浴びながら、人間の指揮官は爆撃で廃墟と化した工場の片隅に座り、今回の任務報告を端末に記録していた
11月10日、九龍
「皇帝」を名乗る電子幽霊を撃破後、異合生物たちも徐々に撤退
記録:科学理事会に報告して、機械体(コード)?が異合生物を制御できる可能性を検討する必要あり
この機械体が他の昇格者と結託している可能性も否定できない
空中庭園科学理事会のメンバーが現地入り。九龍の一行とともに九龍の防御光壁をアップグレード
更に光壁でカバー不可能な範囲に新型浄化塔を建設する予定
備忘:九龍負屓研究所、華胥
そして……
新たなページを開き、ふと手を止めた。しばらくその空白を見つめたあと、自分への備忘録としてキーワードを書き込んだ
――招待状
馴染みのある「既視感」が記憶の断片となって繋ぎ合わさり、脳の奥底から浮かび上がってくる
曲が自分に託したあの小さなメモリーカードは、今もそっと自分の掌に収まっている
「彼」からあなたに渡すようにと預かりました
万世銘の演算世界で出会った人です
「彼」は本来なら華胥の推演に現れるはずはないのに、恐らく華胥とゲシュタルトが複雑に絡み合っているため、あの少女の姿となって現れたのでしょう
ドミニク
「招待状」です
廃墟に座り込んだまま長い間考え込んだが、「招待状」の裏に隠された意味を読み取ることはできなかった
「既視感」は次第に輪郭を失い、断片的な言葉は、途切れ途切れの不完全な映像へと変わってしまった
けれど、もしかしたら……全ては最善の未来へと進んでいるのかもしれない
朝日の下、傷だらけとなった九龍は、荒廃の中から新たな命を芽吹かせようとしていた