Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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35-13 涙

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ポタッ――ポタッ――

腐食された壁に液体が集結し、ぽろりと落ちた

怪物は本能的に暗い隅っこに縮こまった。なるべく体を小さくして、赤潮の中に隠れようとする

ポタッ――ポタッ――

なぜ逃げるの?

…………

これはいいことでしょ?

構造体になれない人は、この計画で新生を得られる……

人間にとって、朗報だと思うんだけどな

折鶴という名の処刑椅子は、紫色の髪の昇格者を抱いてゆっくりと移動しながら、微かな金属の摩擦音を発している

ポタッ――ポタッ――

君も全然楽しくないんじゃない?

…………

大切な人たちは皆、目の前で死んでしまった。君だけが生き残って幸運だと思われているけど、実際はどうなのかな……君が一番わかっているよね……

取り残された人は、一番辛いものなんだ

怪物は息を殺し、紫色の髪の昇格者の追捕から逃げるために隠れている。彼女は無意識に赤潮の「力」を吸収し、個々の場面がスローモーションのように意識海に浮かんだ

……ユウコ!!

顔がはっきりとしない女性が、渡れない赤潮の向こうに立っている。そして、何かを伝えるように彼女の唇が動いた……

ユウコ!!

依然センには女性の顔がよく見えないが、どことなく彼女が笑っているような気がする

もっと大きな声で言って!

赤潮の向こうの女性が銃を構え、何かを言ったようだ――

ユウコッ!!!

ぼやけた記憶の中で、ユウコという名の女性がどさりと倒れた――

ユウコ……ちゃん……

ポタッ――ポタッ――

ああ……泣いてるんだね

何かを思い出したの?

誰かが何かを言っている……

こんにちは、センお姉さん

もう家族なんだから、そんなに遠慮しないで。この子のことは、センかお姉ちゃんって呼ぶといいわ

セン……お姉ちゃん

……これからよろしくね。ユウコ

ポタッ――ポタッ――

雫の音が徐々に迫る。怪物は震えていた。彼女は自分自身が何を経験し、何を失ったのか、今はっきりと気付いた

ボクたちは同類だよ、セン

君もこの果てしない悲しみから逃げ出したいだろう?たった……

怪物は震えていて、悲しみが意識海の中で巨大な波となって荒れ狂う

姉さん、何かあったの?

……父さんが亡くなったわ

……これからどうすれば……

セン……

隣から冷たい感触が伝わってきた。誰か泣いている……

「生命保険の保険金を残す。私に束縛されない自由を手に入れて……願っている」

「公共の宿泊施設から遠く離れて、ふさわしい仕事を探して……」

「さようなら……」

ひとつひとつの別れの言葉は、死へと近付く弔いの鐘音のようなものだ

また彼女たちに会いたいんだよね?

現時点では君の全ての記憶を読み取ることはできないけど、きっと大切な存在だったんだよね……

怖がらないで……

ポタッ――ポタッ――

金属の摩擦音が徐々に迫ってきている――

混乱した記憶が強引に呼び起こされ、怪物は苦しそうに身の毛をよだたせている……

ポタッ――ポタッ――

あ……

ポタッ――ポタッ――

見つけた

――!!!

怪物が鋭い咆哮を発し、変異した鎧が折鶴の攻撃で破片のように砕けた

まだ完全に孵化し切れていない、今逃げても長く持たないよ

殺し――て――

……まだダメ

実験はきっとうまくいくよ。君の命は更に格上の体を手に入れられる……

きっともっと完璧になれるはず

折鶴は弱々しい怪物を抑えた。秘められた小道に沿って、紫色の髪の昇格者は島にやってきた

ここだね

彼は優しく丁寧に怪物を島の中央にある祭壇に移動させた

焦らないで、あと最後の一歩で完成だから……それでもう、永遠に苦しむことはないよ

君はきっと、死をもってしても手に入らない、幸せの夢境にたどりつけるんだ

惑砂は「怪物」を見て、彼が見た記憶を思い出した。それはセンの記憶だった

きっと彼女、会いたがってるね

彼は自分の長い髪の毛をくるくると手で弄び、センの記憶を通して誰かもうひとりを見ているようだ

大丈夫だよ、すぐ終わるから

君はここで……復活する

赤潮が足下から広がり、怪物の躯体が徐々に吞み込まれていく……

ゴボゴボボボ――

ゴホッゴホッ、ゴホッ――!

機体にプロペラ付きエンジンを装備しておくんだった

…………

カレニーナとドールベアは砂浜に上陸し、苦労しながら機体に入り込んだ水を取り除いている

フォン·ネガットは指揮官拉致に専念し、こちらに気を配る余裕はなかった。彼女たちは水に押されて壊れた海洋博物館の外壁から海へと流出し、酷く苦労してようやく上陸できた

海洋博物館に代行者が来やがるなんて……早く空中庭園に報告しねーと

端末を起動しながら、カレニーナは髪の海水を振り落とした

おいドルベ、この前のキャンプの位置を特定して、さっさと引き返してグレイレイヴンに加勢を……

……ドルベ?

……あっち

緋色の波が遠くで激しくうねりを上げている

……赤潮!?マジかよ……

フォン·ネガットが外界刺激を利用して海洋博物館を破壊したせいで、中の赤潮が漏れ出たのね……

…………

……カレニーナ?何か用……

代行者フォン·ネガットが海洋博物館に現れ、グレイレイヴン指揮官を拉致、海洋博物館を破壊しやがった

海洋博物館から赤潮が漏れてんだよ。このままじゃ大量の異合生物が、どっと大量に岸に押し寄せるぞ!

着陸時に持ってきた物資じゃ足んねー!支援要請だッ!

カッパーフィールド海洋博物館

地下1階

廃墟の中

カッパーフィールド海洋博物館、地下1階、廃墟の中

地下1階はすでに工兵部隊の大型機械によって穴が開いており、明るい日光が差し込んでいた

――音が聞こえたぞ!ここだ!

彼は大型機械を指揮し、構造が脆弱な部分を発見した

中のやつら――もっと散れ!

しっかりと返事を聞いてから、大型機械の掘削シャベルが振り上げられた――

「ドォン――」!

負傷者は先に離れてください

クロムの避難指示の下、赤潮の天啓の信者たちと粛清部隊の負傷した構造体たちは、狭い通路から次々と這い出してきた

そ……空だ……

神よ……あなたのご加護に感謝いたします……

信者たちは涙を流しながら、地面に膝をついた

ケッ、感謝くらいしろって……私がいなかったら、こんな詐欺軍団を誰が助けるもんか

ルルは息を切らしながら、最後の負傷した信者を外へ運び出した

空中庭園の方たちを導いてくださった神にも感謝しなければなりません

神の導きがあったからこそ、私たちは彼らに出会うことができたのです。彼らこそが神の使者……

グレースの明示を受けて、信者たちが次々と空中庭園の人々に感謝の意を伝え出す

ハッ

白目を剥いたルルは横へと歩き出した。空中庭園の者とはあまり関わりたくない様子だ

外の状況は?

我々が持ち込んだΩ武器の設置は完了です。後は……

……って、え?うちの隊長と副隊長、ご一緒だったんじゃ?

彼女たちはビアンカの新機体を運んでいるはずです。恐らくグレイレイヴンのルシアと指揮官と一緒にいるはず

その後、海洋博物館で爆発が起き、海水が押し寄せてきました。今、下の状況について確かなことはわかっていません……

今回投下された支援は工兵部隊だけですか?執行部隊はどれくらい来ています?

執行部隊の兵士が何人か必要です、私と一緒に……

下にはもう入れねーよ、あちこち海水と赤潮だらけだ

そう言って、カレニーナとドールベアが廃墟の外側から歩いて入ってきた

カレニーナ?指揮官とルシアは……

水に流されちまって、オレとドルベは彼ら彼女らを見失ったんだ

地下2階以下は今、全て水没してる。海水は大量の赤潮を引き戻して海に逆流し、昇格者が海洋博物館で飼っていた異合生物がうじゃうじゃ、今まさに岸に向かって接近中だ

……空中庭園への報告は?

ああ、最初の支援でΩ武器が30分後に着陸する予定だ。Ω武器の設置準備を大急ぎで整えねーと

物資の手配をお願いします。私が部隊を連れて、ルシアとグレイレイヴン指揮官を探しに行きます

承知した、物資は後ろにあるから直接取りに行ってくれ。それと……

セリカの話じゃ、支援小隊も続々と到着するってよ。地上の人手不足は心配しなくていい

あら、ずいぶん苦労してるみたいじゃない

そこには赤髪の構造体が立って、悪意のある笑みを浮かべていた

ふたつの執行小隊は作業を分担し、クロムはカムイとカムを率いて海洋博物館内で指揮官たちの行方を探し、ヴィラはケルベロスを連れカレニーナたちと海岸線にΩ武器を配置した

ミーティング後にクロムとカムイ、カムはすぐに出発し、カレニーナはヴィラと人員配置について話し合っていた。グレースが信者の隊列から離れて近付き、緊張しつつ口を開いた

私たちに……何かできることはありますか?

お前誰だよ……赤潮の天啓のやつらか?

カレニーナは任務の報告書上で、赤潮の天啓についての記述をちらっと見た記憶があった

はい、ごめんなさい。私たちが多くの迷惑をかけたことはわかっています……でも、とりあえず今は、何かお手伝いがしたいんです

私たちに助けられたくせに、まだ神サマとやらに感謝してる誰かさんに何を頼めって?何かしたいなら海辺で祈ってなさいよ。あんたたちの神が赤潮を止められるか、見ものだわ

祈り……あれは、ただの心の支えのひとつにすぎません。私たちは具体的に、もっとできることがあるはずです

神であれ、赤潮であれ……私たちの信仰は、抗えない者の無力さに基づくもの

昔の私は……構造体になる機会を得られなかった私たちは、あの怪物たちを前にしてもただ無力で、逃げるしか道がないと思っていました

で、でも……

彼女は命を懸けて反抗しようとする人間たちや、たとえ重傷を負っても仲間を守ろうとする構造体たちを目の当たりにした

刃物がなければ、拳で打ち、足で蹴り、歯で噛みつく

息をしている限り、戦いを止めることは一瞬たりともない……

あの人たちができるのなら、なぜ……赤潮の天啓の者はできないの?

なぜ赤潮の天啓の者はあの人たちのように、頼りにできる全ての力を使って、自分自身の「未来」を勝ち取ることができない?

彼女は手の平の金属のルーンを握りしめた。凹んだMの文字が、彼女の掌に深く食い込む

M――Mannaz――人間――あなたは大切な存在

何をするのでもいい、どうか私たちにも……一緒に戦わせてください

……そっか

今の配置だと、海岸の西側で輸送力不足の状況が発生するかもしれねーな……

西側に物資を運ぶ手伝いをしてくれるか?そうすれば、工兵部隊のΩ武器の設置が、もっとスムーズに運ぶ

――もちろんです!

グレースの目が輝き始めた

待って

あなたの信者たち、本当に問題がない人たちなんでしょうね?途中で物資を持って逃げたりしないって保証できるの?

保証します

彼女は一切の迷いを見せずに答えた

彼らに、これが神の試練だと伝えます

この試練を乗り越えれば、皆は真の新生を得ることができるでしょう