Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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35-12 センを殺せ

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意識は何か冷たい液体に浸かったように、重く白い霧が視界の見える全ての範囲を覆っていた

理由はわからないが、懐かしいような、初めてのような感覚だった

白い霧が次第に晴れていき、漆黒の鏡面が目の前に映し出される

手を伸ばして鏡面に触れた瞬間、驚いたことにそこに映っていたのは、白髪に赤い瞳を持ち、自らをカイウスと名乗るあの少女だった

鏡が突然、砕け散った――

…………

どうやら新たな夢に囚われたようだ。その夢の主は目の前にいるこの青髪の少女――

おはよう、■■■

昨日の宿題はできた?

少女は虚空の中の人型と話していた

あなたは解き終わったの?昨日先生が教えてくれたあの方法で解いたの?……

場面が切り替わり、少女はまるで学院内を散歩しているかのようだった

将来ですか?科学理事会はとてもいい選択だと思います……それに、スターオブライフも悪くありません

うん、私はもっと穏やかな生活の方がいいかも。構造体は危険すぎるから……

どうやら、これがこの少女の「ありふれた日常」のようだ

この「夢」もいつものように、混沌の中で終わるものだと思っていた。しかし、「夢」が砕けた時、青い髪の少女はふいに振り返り、こちらを見つめてきた

異重合の欠片

青い髪の少女が、反論を許さない目でこちらを見つめていた

異重合の欠片を、持っていって

前にも言った覚えがあるような奇妙な感覚だった

……まだ何も思い出せていないの?

あなたは思い出すべき――█▇█▇▂▃▄▂▊

異重合の欠片は――█▇▂▃▃▃▇▂▇▂▇■

彼女の唇は絶えず動いているのに、こちらはひと言も理解できなかった……

脳の深くから激痛が走る

……どうやら、まだその時ではないようね

青い髪の少女は、そっとため息をついた

あなたはまだ、全てを理解できない

もう知っているでしょう?ここは私の「夢」

これまでに見てきたほとんどの夢の中で、自分は傍観者の立場だった。夢の中の誰とも言葉を交わすことはできなかった……

これまでに?

自分でもなぜそんな考えが浮かんだのか思いつく暇もなく、青い髪の少女が再び口を開いた

原因は……カイウスよ

彼女は耳を傾けながら、何かを探るような様子だった

これは「未来」に関わることじゃないみたいだから、「話し」ても問題なさそうだね

私は……赤潮を通じて、カイウスの声を聞いた。カイウスが私をここへ導いた

……もう時間がない。覚えて、フォン·ネガットの言葉を信じないこと、センを殺して、異重合の欠片を持っていって

そう、フォン·ネガットの言葉を信じないこと、センを殺して、異重合の欠片を持っていって

それから……

いや、何でもない

……私が誰なのか知る必要はないし、重要じゃない

私が言ったことを忘れないで……

月光が満ち溢れて視界がぼやける中、意識は未知の力に引きずられ、強引に体へと戻された

鼓膜にはまだ水に押し潰されたような痛みが残り、身体はまるで数頭の象に踏みつけられたかのように、全身の関節が悲鳴を上げていた

????

気がつきましたか?

目を覚ましたことは、もうわかっていますよ

とぼける必要はありません。それとも、再度自己紹介いたしましょうか?

私はフォン·ネガット。ご覧の通り――一介の代行者です

この一帯は……推測するに、彼らが何度も言及していた「溜め池」だろうと思われた

巨大な貯水タンクにうねる赤潮が満ちており、時折異合生物がゆっくりと這い出してくる。しかしそれらは、代行者が展開したフィールド障壁によって阻まれていた

フィールド障壁の役割はどうやら「守る」ことだろうか?でも、なぜ彼が自分を守る必要があるのだろう……

もういつも通りに話せる状態なら、いくつか確かめたいことがあります――

今の状況では、あなたに選択権はありませんよ

それこそ、私が知りたいことです

飛び降りるつもりですか?

…………

その障壁によって、抗う間もなく一瞬で押し返された

探りを入れたりしなくてもいい。私の質問に答えるまでは、どのみちここから出られません

彼はしばらく考え込んだ

私がカッパーフィールド海洋博物館に現れることを事前に「知って」いましたか?

あるいは、何か異常事態を「見た」ことはありますか?

彼は探るような口調で問いかけてきた

ルシアは水流に呑まれて行方がわからず、他の者も安全に撤退できたかどうか不明だ。今はひとまず、フォン·ネガットと交渉してみるしかない

何が見えましたか?

どうぞ

異合生物を培養するためです――赤潮は死者を生き返らせる力を持っている。その効果はすでにご覧になったでしょう

あれは従属とは呼びません――これは2つ目の質問ですよ

なぜかあの妙な既視感がこう告げてきた。フォン·ネガットの真の狙いは、単に自分を赤潮に投げ込んで、奇声をあげる粘つく液体に融合させることではないと

……昇格者は代行者にとって「従属」にはあたらない。代行者はあくまで選択の機会を与えるだけで、最終的にどのように選ぶかは彼ら自身の自由です

代行者が選別するのは、この道を歩み続けられる者にすぎない――さて、ここまででひと区切りだ

さあ、あなたは何を見たのですか?

一体、何を見たのか……

カッパーフィールド海洋博物館という言葉を耳にした時から、何度も妙な「既視感」に襲われていた。赤い瞳を持つ少女カイウス、そして不意に「見えた」ビアンカ……

フォン·ネガットは、自分が「見た」ものを異様に気にしている……彼が気にしているのは、一体どの部分なのだろう?

最も曖昧なふたつの言葉を選び、それを「答え」として提示した

それだけですか?

いや、それだけではないはずです

代行者の表情を読み解き、彼が聞きたがっている言葉を脳内で必死に探した……

記憶の中で、ホールにいた時――フォン·ネガットが「塔」のことを口にしていた

しかし、自分が「見た」どの場面にも、その要素は見当たらない

…………

あなたを赤潮に溶け込ませて、直接記憶を覗いた方がいいのでしょうか

…………

オレンジ色の猫……

他には?

……あなたを赤潮に溶け込ませて、直接記憶を覗いた方がいいのでしょうか

…………

やっぱり、関係していましたか

「塔」に何をしたのです?

……塔に対してできることとは何だろう?壊す?登る?

そんなことは不可能です

凡人の肉体で?塔に登る?

凡人の肉体で?塔に登る?

そんなことは不可能です

彼は用心深くこちらを見つめている

…………

代行者は表情を曇らせたまま、こちらの言葉の真偽を考えているようだった

目の前の人間は明らかに何かを知っている、あるいは、何かを「見た」のだろう

しかし、今、間違いなく嘘をついている

肉体のまま「塔」に入ることはできない。それゆえ、グレイレイヴン指揮官が言った「塔を見た」というのは、嘘である可能性がある

もし「塔を見た」というのが嘘なら、それはこの人間この人間塔を一度も見たことがないということに他ならない……

まさか、グレイレイヴン指揮官は塔との途絶とは無関係なのだろうか?

騒々しい意識海が歪んだ叫び声を発し、代行者はその混乱した音を抑えながら、ノートをめくり始めた

ノートには前回の「塔」内からのメッセージがある。それによると、塔は成長し続け、塔の掌握こそが、彼の目的達成のためには不可欠という内容だった

彼はそのために多くの準備を整え、赤潮を培養し、「鍵」を用意し、海底のゆりかご計画を推進し、塔を迎え入れようとしている……

やがて、彼は異重合塔の成長が止まったことに気付く――異重合塔の中の自分との繋がりが、完全に断絶してしまった

…………

私の予測できない何かが、制御不能になっているのです

彼は淡々と、うんざりした感じで話し始めた

この世界には手綱を握り、ルールを作る存在が不可欠なのです

このまま膠着状態が続いても、結局は行き詰ってしまうだけです

どんな展開にも影響されず、無限の回廊を巡回し続ける、と言えばわかりますか?

人間はより高度なレベルの構造体を開発し、異合生物は新たな姿へと進化した……

それは避けられない道であり、必要な選択でもあります

代行者は瞼を軽く持ち上げた

私たちが注目すべきは、もっと遠い「未来」です

それは「見た」ではない、私はまだそのような力を手に入れていません

私には未来を予知できません

未来は変えられません、変えられるのは今だけです

パニシングはもともと「情報」です。パニシングを使って記憶を伝えるのが、そもそも私にできることです

言い終わると、彼は再び数秒間黙り込んだ

もういい、少々おしゃべりがすぎましたね

フィールド障壁が自然に収縮し、その中心に閉じ込められた

私の態度は十分に伝わっていると思っていました

私はあなたの協力が必要です。この「行き詰まり」を一緒に打破しなければ、全てを終わらせることはできません

選択権など、最初からあなたにはありません

彼には説明するつもりがないようで、ただひたすらフィールド障壁を縮小し続け、こちらの意志もお構いなしに「丸ごと」連れ去ろうとしているようだ

……あなたも人間の選択に干渉しているのではありませんか

是か非か、正しさか誤り、光か闇、正義か邪悪……

「選択」とは、自ら選ぶ権利を持っていることが前提だ。誰にも、あるひとつの文明や種族の代わりに、運命を決める権利などない

この世界は、縛られたひとつの選択肢の中で囚われるべきではないのだ

弱者には、選択する権力を持つ資格はありません

…………

時間稼ぎはもう結構。ルシアは赤潮に囚われ、別のエリアにいますよ

古い端末で時間を確認したフォン·ネガットは、軽く首を横に振った

今すぐ連れていくのは私の計画にはまだ早いのですが、全てを予定より前倒ししても、私は一向に構いません

弾は空気中に透明な軌跡を描き、代行者の前にポトリと落ちた

行きましょう、ここはもうすぐ崩壊――

代行者の言葉が突然止まり、鞭打つ音が空気を裂いて凛と響く――

――指揮官っ!