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ビアンカの剣先の再びの襲来を避けると、フォン·ネガットは微かに眉をひそめた
また計画外の出来事が起こり、この制御不能な感覚が再来している
彼は過去のどの記録でも、ビアンカのこの機体を見たことがない
代行者にひと息つく暇を与えず、ビアンカは剣を鞭に変化させ、その鞭は鋭く残像を伴ってフォン·ネガットのすぐ横を直撃した
待った、彼は本当にこの機体を見たことがないのだろうか?それとも……
彼の思考が、「異重合塔の消失」がもたらした影響で乱されているのでは?
眉根を寄せて思索している隙を突いて、ビアンカの鞭の刃が遠くから襲来し、代行者は避け切れずにその横顔に血を流す傷を作った
微かな痛みが彼の意識を現実に引き戻した。代行者はしばし考えたあと、フィールド障壁を維持していた手を緩めた
ビアンカは追撃をやめ、振り向いて指揮官へと駆け寄った。ふたりは素早く合流し、ビアンカは長剣を手に再び赤潮の溜め池の上に立つフォン·ネガットと対峙した
どうしてもというなら
彼は何らかのスイッチを入れたようで、地面が震え始めた。赤潮の溜め池は激しく渦を巻き、異合生物たちはその中で呻き声を上げながら必死にもがいていた
おふたりとも、ここにそのまま留まらせても構わないのですよ
このふたりと接点を持つのは、今のタイミングでは適切とはいえない
「バックアップ」はすでに残してある。何も彼の計画には影響しない――たとえグレイレイヴン指揮官がこの海洋博物館で死んだとしても
来た道は代行者の手で完全に破壊されている。もしふたりがその道を使って逃げようとすれば、そこに待つのは完全な孵化を遂げたセンだ
代行者は制御不能な全ての種をこのまま崩れ落ちる海洋博物館とともに沈めようとしていた
残念だ……
ビアンカは彼の話に耳を傾けず、長い鞭を空に振りかざす。意識リンクによりその動きはますます鋭くなっていた
…………
もともと、ここでグレイレイヴン指揮官を捕えようというのはただの思いつきだった。彼にはまだ他の手段が残されているのだ
肉薄してくるビアンカの勢いを見て、代行者は戦闘続行の意欲を失い、背を向けて離れていった
フォン·ネガットに欺くそぶりがないことを確認し、ビアンカはようやく手に持った武器を収めた
指揮官!お怪我はありませんか!
彼女は焦りながら、こちらの防護服のバイタル数値を確認してきた
防護服の接続部から血液に注入される冷たい血清が、自分の意識を更に鮮明にした
「陽昏」機体に換えました、正常に動作しています
数回の適応だけでこんなにスムーズに動作するとは……さすがアシモフさんですね
はい、私も気付きました。この機体は補機搭載の外部装置に依存して運用され、時間制限があるようです
……十分です。その時間があれば、あなたをここからお連れできます
恐らく無理でしょう。目が覚めた時は、すでに海中にいました
私は赤潮が広がる痕跡に従って、海洋博物館の地下3階の壊れた外壁からここに潜入したのです
構造体ならまだ、赤潮混じりの海水の中でも動けますが……
まだ、ひとつ道があります
海洋博物館を調査している際に、内部に近くの「街」へ通じる通路があるのを見つけました
地下通路はすでに崩壊しているという話もありましたが、もしかすると――
彼女は長い鞭を振るい、ふたりの近くに落ちかけた金属構造を打ち落とした
どのみち他の通路はない、試してみるしかないのだ
その道なら、前方です!